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第37話 戦果

 買い物袋をパンパンに膨らませて帰途についた俺達。家に到着する頃には日が落ちかけ、良い具合に腹もすく時間になっていた。ハルが手際よく夕飯の準備を進めている間に、俺は今日の報酬とハルの成長振りを再確認。悪党相手にモンスターとは違った戦いを経験して、更に一皮剥けた事だろう。ハルにとってはステータス面だけでなく、精神的にも尖った成長を――― いや、最初から化け物メンタルだったな、ハルは。


「師匠~、お料理できたので、テーブルの上のお金片付けてくださ~い」

「ん、はいよ」


 テーブルに山積みにされた報酬は、冒険者ギルド、ミッドナイト、国より別々に受け取ったものだ。後者2つは秘密裏に貰っているものである為、額がかなりでかい。お前、この件については口外すんなよ? 的な意味合いも含めての金なんだろう。そんな面倒な事は起こさないというのに、どこもかしこも心配性だ。まあ、貰えるものは貰っておくけどさ。


 おっと、良い香りが漂ってきた。意地汚い話はこれまでにして、さっさと汚い金はしまってしまおう。


「じゃーん! アクアパッツァ仕立てにしてみました!」

「おお、美味そう」


 大皿に乗った魚介類やトマトを煮込んだ出来立ての料理が、俺の唾液腺と胃袋を激しく刺激する。しかし、量が半端ない。この大皿だけでもテーブルの半分を占めるくらいに大きなもので、とても男女2人分の分量ではないのだ。メインのこの魚も、ちょっとした驚きのサイズ。俺だけでは半分も食べられないだろうが、殆どを完食するのはハルの仕事だ。というか、殆どをハルが食べてしまう。もちろん料理はこれだけではなく、他にも3、4品の皿が並ぶ。どれも極上の湯気を迸らせ、一切合切が間違いなく美味い。だけどさ、男である俺の成長期でも、こんなに食べていたものだったっけ?


「今日も気持ち良く汗をかけたので、気合い入れて作っちゃいました」

「ハルが気合い入れるのはいつもの事だろ」


 お椀というかどんぶりというか、兎も角ご飯をたんまりと入れたハル専用の食器が置かれる。それだけで俺はお腹いっぱいになってしまいそうだ。一流のアスリートは人一倍エネルギーを消費するというものだが、ハルはガッチリとそれに当て嵌まるらしい。そんだけ食べるのなら、もう少し背や胸に栄養がいっても良いんじゃないかと哀れんでしまう。だが、相手を油断させる手を考えれば、このままでも―――


「………(じー)」


 ―――ハルが飯を前に待てをしてるし、先に食べるとしよう。俺が飯に手を出さないと、ハルも食べようとしないし。口からよだれが垂れ掛かってる。


「……いただきます」

「いただきまーす!」


 まあ、食べ始めてしまえば俺が一口食べる間に倍は食ってるのがハルである。む、美味。


「そういや、ハル。今日でどれだけ成長したか、ちゃんと確認したか?」

「ふぇ?」


 いや、ふぇじゃなくて。


「食べながらでいいから、今日の戦果を確認して見ろ。1日通して実戦漬けだったから、かなりステータスが伸びてると思うぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってください。今、確認しますっ!」


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV3

HP :700/700

MP :52/190(+50)

筋力 :149

耐久 :139

敏捷 :109

魔力 :132(+30)

知力 :29

器用 :64

幸運 :1


スキルスロット

◇格闘術LV57

◆闇魔法LV28

◆杖術LV45

◇快眠LV18

◇回避LV17

◇投擲LV23

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 ステータスを確認し終えたハルが、申し訳なさそうな感じで俺に視線を向ける。


「師匠、職業レベルが上がってません……」

「いやいや、それは一朝一夕で上がるもんじゃないからな? 君、かなりやばいペースでレベルアップしてるからな?」


 現に昼に覚えたばかりの『回避』と『投擲』がもうレベル20前後にまで上昇している。だというのに、ハルは努力が足りなかったと意気消沈している様子だ。お前な、普通の人はここまで来るのに10年は掛かるんだぞ。


 ……とはいっても、闇魔法と杖術の合計値は73。割と職業のレベルアップも目前ではあったりする。


「まあいい。新しく取得した回避と投擲スキルはどんな感じだった?」

「いつもより精密に体の部位が駆動した感じでした。1度に大勢から攻撃されてもスッと避けられましたし、投げる方もコントロールが良くなっている気がします。あと、球威も心なしか上がっているような……?」


 ハルが感じ取った感触は正しい。この2つのスキルの特性は大まかにハルが言った通りのものだ。


 回避スキルは文字通り、迫り来る攻撃から回避行動を取りやすくする技能だ。佐藤達との戦いでも活用していたが、接近戦が大好きな困った魔法使いであるハルに有用なスキルと言えよう。ただでさえ合気とかいうファンタジーに片足突っ込んでるような武術を体現しているのに、使用者自身も回避性能が高いとなれば手の付けようがない。上昇するステータスは敏捷に+3、器用に+1と、今までハルに不足していた箇所を補う働きも担っている。魔法使いの職業に関連しない事だけが難点かな。


 もう1つの投擲スキルはものを投げる際の制球力、球速、球威に補正を掛ける技能で、ボールのように丸い物体であればフォークボールといった変化球にも対応してしまうお得なものだ。特にハルはアドヴァで生み出した泥や、グラヴィで重くしたものを敵に投擲する事が多い。というか「魔法は投げるもの」と何か勘違いした発言までするほどである。しかし、そうした方が勉強するよりも効率良くスキルを成長させているので、下手に違うとも言い切れない。将来、『投擲の魔法使い』なんて呼ばれない事を願いたいものだ。ちなみにレベルアップ時の上昇ステータスは筋力+2、器用+2になってる。当然ながら、これも魔法使いの職業には何ら関係しないスキルだ。芸人やら裏稼業の人間が覚えるもんだからな、普通は。


 とまあ、今回の新スキルはハルの戦闘法をより強化する為のものになった。これで殴って走れる魔法使いへまた1歩近づいた訳だ。頭を使うのが苦手なハルも、実戦を交えればレベルアップしていくであろうチョイスである。唯一レベルが上がっていない快眠スキルも、寝れば勝手に上昇していく。


「これからは実戦1本で良いかもしれないな。お前の場合、本を読むのは料理本だけで十分だ」

「え、本当ですかっ!?」


 うん、だって勉強は効率悪いもの。努力は認めるけど、向き不向きがあると切実に実感した。その喜びようが何よりも実状を物語っているし。


「その代わり、毎日寝る前までにMPを空にするまで魔法を使う事。もう闇魔法がレベル20超えてるし、新しい魔法も使える筈だ」

「あ、新しい魔法……!」


 そんな瞳を輝かせて俺を見ないでほしい。まだこの辺りだと、ショボい魔法の方が多いんだ。それも使い方次第ではあるけどさ。


「レベル20だと…… 『ディーゼ』だな。黒煙を出して、一般的には目暗ましに使う魔法だ」

「目暗まし、ですか?」

「そう、目暗まし。期待外れかもしれないけど、これだって―――」

「―――いえ、素晴らしい魔法だと思います! 頑張って極めたいですっ!」

「そ、そうか? 気に入ってくれて何よりだが……」


 この喜びよう、また変な使い方でも思い付いたとか? 煙は流石に投げられない、よな?


「まだMPに余裕がありますし、早速後で使ってみますね!」

「おう…… あ、家の中でディーゼを使うなよ。曇るし火事と間違えられるから」

「あ、そうですね。気を付けます」


 ハルは夕食を綺麗に平らげた後、皿洗いなどの片付けを行い、風呂の湯を沸かす。家事が終われば、お待ちかねの新魔法試運転! そう言いながら、元気に裏庭の練習場へ駆けて行った。闇魔法はレベル30も目前だし、明日にはまた新しい魔法を覚えられるかもしれない。俺は湯船に浸かりながら、明日からのプランを考えていた。


 ―――修行5日目、終了。

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