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第24話 狩り

 ―――修行5日目。


「ふっ!」

「軸がずれてきてるぞ。休憩するか?」

「いえ、まだやれます!」


 ハルの杖術は順調に成長している。いや、過分に成長し過ぎていると表した方がいいか。ガンさんから貰った練習用黒杖で俺との対人戦を想定した鍛錬をしているのだが、これが動く動く。元々杖術に応用できる武道をやっていたのか、スポンジのように教える事を次々と覚えてくれるのだ。最終的に師は弟子に越えられる事を本望にするものだけど、この分だと本当に油断ならない段階で越されるかもしれない。魔法使いのレベル3になるのも間近だろう。


「よーし、15分休憩な。なかなか上達するのが早いんじゃないか?」


 師匠の見栄を張って、思ってもない事を言ってしまう。上達するのが滅茶苦茶早いです、この子。


「ハァ、ハァ。い、いえ、まだまだです! 師匠に1本も入れられませんでしたし」


 それに加えて向上心の塊だから、これが手に負えない。師匠は嬉しさのあまりに悲鳴を上げてしまいそうだよ。


「そんな重い杖持って、こんな短期間に1本取られたら面目丸潰れだよ…… それよりも、体の方は大丈夫か? その馬鹿みたいに重い杖を使っての鍛錬、昨日の今日だぞ。筋肉痛とか、疲れはないか?」

「うーん、確かに昨日は鍛錬後にクタクタになって、崩れ落ちるようにベッドで寝ましたけど…… 寝て起きたらスッキリしていました! 師匠が勧めてくれた快眠スキルのお蔭ですね、はい!」


 おかしいなぁ。同じスキルを、それもレベルが上のものを持ってる俺は結構疲れが残ってるんだけどなぁ。これが若さの差なのか? それとも比較対象がハルだからなのだろうか? ……たぶん両方だな。


「俺のアドバイスが役立って良かったよ。モンスターとの戦闘も問題なかったし、鍛錬状況も実に良好。飯は美味いし家も綺麗。呆れるくらいに順調だな」

「あはは、私も毎日が充実して楽しいです」


 そう、ハルの育成は順調だ。順調なんだが…… なぜだろう? 何か、見えないところで良からぬ事が起こっているような、そんな根拠もない予感がするのは? 気のせいだと思いたいが……


「そうだ、ハル。ステータスはどんなもんだ?」


 気を紛らわせるかのように、ハルに現在のステータスを聞いてみる。前に確認したのは一昨日だったか。杖術鍛錬の成果、見せてもらおうか。


「ええとですね、今はこんな感じです」


 晴れやかな笑顔のハルと、蜂蜜レモンを頬張りながらステータスを確認する。


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV3

HP :445/535

MP :110/140(+50)

筋力 :70

耐久 :106

敏捷 :44

魔力 :93(+30)

知力 :19

器用 :1

幸運 :1


スキルスロット

◇格闘術LV43

◆闇魔法LV18

◆杖術LV26

◇快眠LV18

◇未設定

◇未設定

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「ごふっ!」

「し、師匠!?」


 思わずハルが作ってくれた蜂蜜レモンの輪切りを噴き出してしまった。だってさ、だってお前―――


「―――お前、もう魔法使いのレベル3になってるじゃないか!」

「えっ…… あ、本当だっ!?」


 指摘して漸く気が付いたのか、ハル…… 闇魔法の伸びが悪いのは相変わらずだが、この2日で杖術がそれを追い抜いていやがる。快眠スキルも闇魔法と同レベルにまでなってる。ハル、お前はどれだけ体で覚えるタイプなんだ。鍛錬していない筈の格闘術もなぜか上がっているし!


「すみません。昨日は直ぐに寝ちゃったので、それで気が付かなかったんだと思います……」

「ま、まあ俺も確認してなかったのも悪いしな。俺こそすまなかった。しかし、また何のスキルを覚えるべきか、考えないとなぁ……」

「そうですね……」


 レベル3の魔法使いともなれば、もう立派な一人前。例を挙げれば、ネルの部下であるカノンの奴も魔法使いでレベル3、俺の弟子になり5日目でそのレベルに達したという事になる。戦闘センスといい、もうその辺りはとっくにカノンを抜き去っているんだろうが。


「師匠、参考まで聞きたいのですが、レベル4はどの程度で上がるんでしょうか?」

「んー、そうだな。大体関連スキルの合計値が100になるくらいだった筈だ。冒険者や騎士でいえば、レベル4はもう大ベテランの領域になる。生涯を賭しても、レベル3止まりで終わる者も多くなるな」

「ふむふむ」


 現段階では、闇魔法と杖術を足して計44。まだ半分も満たしていないが、それでもハルの場合、いつの間にか上がっていた、なんて事がありそうで恐ろしい。同時に面白い。


 しかし、ここまで強くなったのであれば、もう俺の仕事を少し手伝わせても良いかもしれないな。ステータスの数字以上にハルは実力を発揮するし。昨日、ネルがこっそりと台詞の中に隠していた仕事の依頼、少し試してみるか。


「ハル、午後はちょっと狩りに行ってみるか。また実戦を兼ねてさ」

「狩りですか? あ、分かりました! 今日の夕飯はガツンとしたお肉が良いんですね!」


 んんー、ちょっと擦れ違ってるけど、それはそれで食べたいからオーケーだ。



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 ダッシュで来ました定番の冒険者ギルド。よし、今のハルとなら、頑張れば30分で山を下れる事が分かった。この調子なら夕飯時までには家に帰れるかな。


 美人な受付嬢の列に並びたい衝動に駆られるが、今は時間が惜しい。我慢していつものショートカット列で、受付カウンターに直行だ。


「ジョルお爺さん、こんにちは!」

「おやハルナちゃん、こんにちは。今日も元気で可愛いねぇ。でもワシ、もう子供扱いはせんからね」

「もう、何言ってるんですかぁ」


 ……誰だ、この人の良さそうな爺さんは? ああ、ジョルジアか。転生して性格が変わったのかと思ったぞ。どれ、俺も―――


「よう、ジョル爺。こんにちはだ」

「何だデリスか…… お帰りの道はあちらじゃぞ。自警団のところで自首はもう済ませたのか?」

「俺とハルとの扱いの差が酷くない!?」


 人を見て態度をあからさまに変えるとは、何てじじいだ。この間の再会の時は割とテンション高かった癖に……!


「お前さんがハルナちゃんに、きつい仕事をやらせるからじゃろうて。巣に灰コボルトボスがいる事、さては知っておったな?」

「さて、何の事やら。終わった話よりもこれからの仕事を語ろうじゃないか」


 そう言って、さっき掲示板から剥がしてきた依頼書をジョル爺に渡す。


「……お主、また厄介そうなものを持って来たな。一応確認するが、こいつはデリスがやるのか?」

「当然、ハルがやる。と言いたいが、俺の仕事も似たような所でやるから、今回は俺も付き添う予定だよ。安心してくれ」

「デリスがそう言うと逆に安心できないのじゃが…… ハルナちゃん、危なくなったら直ぐに逃げるのじゃぞ? デリスの奴は置き去りにして構わんからの」


 おいおい。かなり構うからな、それ?


「師匠を置いて逃げるなんてできません! 私も正々堂々、師匠と一緒に勝てる戦いをしますっ!」


 ハ、ハルゥ……!

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