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第18話 どれにしようかな?

 本来であれば職業レベルの向上を優先して、それにまつわるスキルを覚えるべき場面。だが今回、ハルのスキルスロットの空きは2つある。最低1つはそうするにしても、もう1つの方は選択肢に自由がきく。それを考慮して話を進めよう。


「師匠、『解体』のスキルとかはどうですか? 今回みたいに大量のモンスターを相手するなら、結構有効的なスキルだと思うのですが。戦闘後の時間削減にも繋がります」

「解体スキルか…… レベルが上がればより速く、より良質な素材を採取できるようになって確かに便利だよな。武術や魔法系のスキルと比較すれば、かなりレベルも上げやすい」


 調理中にレベルが上がった、なんて噂を聞いた事があるから、計らずも魚を下ろす時に使える可能性があるかもしれないが…… そもそもアーデルハイトでは魚が食卓に並ぶのは稀だ。その効果を期待するのは早計だろう。


「ただ、レベルが上がった際のステータス上昇は器用の値のみなんだよな。そこを考えると、既にある程度の技術を持っているハルには、少し旨味に欠けるかもしれない」


 器用は主に生産職で使用するステータス。戦闘でも剣や弓の扱いに反映されるが、今は筋力や魔力を引き上げてダメージソースの底上げを先決させたい。HPや耐久でのセーフティーの拡張も大事、敏捷値だって高ければそれだけでアドバンテージが取れるんだ。幸運は――― まあ、うん。どうなんだろうな。運気だけあって、なかなか実感しにくいステータスだ。豪運の代名詞である歴代の勇者様くらいになれば、流石の俺も自覚できるんだろうが…… どちらかというと、俺は上げるのを二の次にしてしまっている。


「器用のみ、ですか」

「ちなみにスキル会得画面でそのスキル名を長押しすれば、どんな効果があってどのステータスが伸びるのか表示されるぞ」

「えっと…… あ、本当だ。レベルアップ時、器用+3って書いてます。格闘術や闇魔法と比べると、少しだけ物足りないですね」


 ポチポチとメニュー画面を突いているらしいハルが、納得したかのような返事をする。


「参考までに人気どころを教えようか。魔法使いがレベル2になった時、習得する頻度が高いのは『杖術』だ。杖を使った戦闘技能だな」

「やっぱり、魔法使いには杖なんですか?」

「単純に杖装備には魔力を高めてくれる理由もあるけど、杖術スキルは魔法使いにとって唯一職業に関連する武道スキルなんだ。魔法使いにとって上げ難いHPや筋力、耐久を伸ばす為の手段として優秀なスキルなんだよ。微量だが魔力も上がる」


 まあ肉体派魔法使いのハルさんは、その弱点を既に克服しているんですけどね。ステータス以外も、魔法じゃなくて、まずは拳と拳で語り合うタイプと言いますか。


「わ、それを聞いちゃうと傾いてしまいますね」

「ハルは魔法よりも武術の方がレベルアップしやすいみたいだし、職業スキルを早く上げたいのなら、完全にハル向けなのがこれだ。俺もお勧めする」


 アーデルハイト魔法学院の卒業祭は杖限定だしな。先に取った格闘術と併用して使えるだろうし、これが最もベターな答えだろう。


「じゃ、1枠はそれにしましょう」

「即決していいのか?」

「私、これでも剣道の有段者なんですよ。木刀も扱っていましたし、たぶんいけると思います」


 ……木刀って、杖術扱いでいいのか? うーむ、まあハルなら大丈夫か。一から教えたとしても、ガンガン吸収していくだろうし。


「了解、残り1枠はどうする?」

「んんー……」


 メニューと睨めっこしながら唸るハル。考えてる考えてる。む、いかん。ハルの頭上から黒煙が……


「し、師匠、他にお勧めは……?」

「あー、そうだなぁ…… 消費する魔力を抑える『魔力温存』、打たれ弱さをカバーする『回避』は人気所かな。逆にこれ以上魔法系統のスキルを習得するのは非推奨だ」

「魔法のスキルは駄目なんですか? 炎と氷、光と闇とか魔法のバリエーションが増えて楽しそうですけど?」

「2種類以上の属性を持つ魔法使いもいるにはいるんだが、真似るにしても魔法使いとして大成してからだな。仮に今のハルが闇の他に光魔法を覚えたとして、どうやって鍛錬するつもりだ?」

「実際に使ってみるのが1番だと思います。後は、教本で勉強したり――― ハッ!?」


 何か思い当たる節があるのか、ハルは硬直してしまった。嫌な汗をダラダラと流している。


「その反応からして、勘付いてるとは思う。魔法スキルを覚えればMPが微増する。が、あくまで微増だ。魔法を実際に使うとしても、ハルのMPの量は今と大して変わらない。闇魔法に加えて光魔法にまでMPを実践練習に注ぎ込んだら、練習量は2等分されるよな。そして、不足分はお勉強で補うしかない訳だ」

「あわわ……」


 万が一にそれが奇跡的に! ハルにできたとしても、どちらも中途半端なレベルになってしまう可能性が高い。スキルスロットの枠を使い、苦労して微妙な魔法を2種類使うのだったら、現在の練習量で強力な魔法を1つ覚えた方が断然良いのだ。というか、これ以上はハルの脳が確実にオーバーヒートを起こす。止めておけと声を大きくして言いたい。


「……俺個人としては、『快眠』のスキルを押す」

「えっと、よく眠るの快眠ですか?」

「その快眠だ。このスキルがあれば就寝時に疲れが緩和されて、朝の目覚めが良くなる」

「な、なるほど……」


 今、それだけ? とか思ったな。巷では穀潰し用のスキルだのと馬鹿にされる事も確かに多いが、これはかなり有用なスキルなんだぞ。


「ハル、考えてみろ。お前は1日どれくらい寝ている?」

「6時間くらい、でしょうか?」

「では、その6時間中に鍛錬はしているか?」

「え……? 寝ているから、できる訳ないじゃないですか」

「そうだ、普通はそうだよな。だけどな、この快眠スキルは違うんだ。よーく眠るだけで、レベルが上がる!」

「ね、眠るだけで……! それって、寝ている時も鍛錬ができるって事じゃないですか!?」


 段々テンションが深夜の通販みたいな感じになってきたが、ここまできたらこのノリで押し通してしまおう。


「そう、1日24時間丸っと無駄なくスキルを鍛えられるという事だ。しかもこの快眠スキル、上昇するステータスがHPと耐久で、ハルとの相性も良い。言わば、魔法使いのリーサルウェポン。レベルが上がれば短時間で疲れもスッキリだ!」

「それにします!」


 気持ち良いほどの即断即決。買い出しの時に見せた粘り強さは、どうやらここでは発揮されないらしい。いや、されたら俺が泣く事になるわ。されなくていい。


「よし、それじゃあ今日は早々に寝てしまえ! この偉大なる力を実感してしまえ!」

「桂城悠那、全力で寝ます! おやすみなさい、師匠!」

「おう、暖かくして寝ろよー」


 ジャージハルはやる気に満ちた様子で自分の部屋に行ってしまった。宣言通り、これからぐっすり休んでくれるだろう。 ……何事にも必死に当たるあいつも、これで少しは楽になると良いんだけどな。さて、俺も寝る前にハルのステータスを確認しておきますか。


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桂城悠那 16歳 女 人間

職業 :魔法使いLV2

HP :235/235

MP :105/105(+20)

筋力 :42

耐久 :46

敏捷 :41

魔力 :46(+10)

知力 :18

器用 :1

幸運 :1


スキルスロット

◇格闘術LV40

◆闇魔法LV17

◆杖術LV1

◇快眠LV2

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 も、もう快眠レベルが上がり始めてる、だと……!?


 ―――修行3日目、終了。

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