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第11話 ギルド

「おーい、ハル。そっちの買い物は終わったか?」


 ガンさんとの打ち合わせを終えた俺は、虎髭の店頭に戻りハルの買い物が済んだかを確認する。店先で待つハルの両脇には、購入したと思われる袋が置かれていた。どちらも結構大きいな。


「師匠、ミッションコンプリートです!」

「そうか、良くやった!」


 ビシッと親指を立ててグッジョブを送りあう俺達。その傍らには、カウンターにうつ伏せになって青ざめるアニータがいた。


「う、嘘…… カモにする筈が、逆に根こそぎ値切られるなんて……」


 あまりにショックだったのか、言葉遣いまで素に戻っている。鼻歌交じりのハルとは対称的な姿になってしまったな。これに懲りたら真面目に励んでもらいたい。


「おうおう、随分とやられたみたいだな。アニータ」

「親方ぁ、この子何者なんですかぁー…… 私、ここまでズタボロに負かされたの初めてですよ……」

「客に何者も何も関係ねぇよ。しいて言えばデリスの1番弟子ってこった。普通にやったら勝てないわな」

「そんなぁー……」

「ま、デリスの特注品を含めりゃあ、それでも十分な利益だ。お嬢ちゃん、良い買い物したな」

「はい! アニータさんがとっても親切で助かりました」

「鬼や、あの子は鬼やで……」


 さて、ここでの用件は済んだことだし、次の目的地に行くとしますかね。おっと、だけどその前に―――


「ハル、そのままじゃ邪魔だろうし、両脇の手荷物を俺のバッグに入れておけ。まだ寄る場所はあるんだ」


 背負っていた荷物入れを降ろして、はよこっちに渡せとハルに催促。


「えっと、これくらいなら大丈夫ですよ。弟子の荷物を師匠に持ってもらう訳にもいきませんし」

「気にするな。それに俺のバッグはマジックアイテムなんだよ」

「マジックアイテム、ですか? 見た目は普通のバッグですけど……?」

「見た目だけはな。だけどこいつの中身は別空間に繋がっていて、収納したものの時間を止めてくれるんだ。大体、この店内くらいの空間だったかな。重さもなくなるし、なかなかに便利だろ? あ、生き物は入らないけどな」

「へ~、冷蔵庫代わりにも使えそうですね。そういう事なら、お願いします!」

「おう。寄越せ寄越せ」


 ハルから荷物をもらい、バッグに収納。


「わ、保管機能付きのバッグかいな、それ! 激レアもんやん、ええなぁー! 私もいつか手に入れたいわぁ」


 金の香りを察知したのか、ガバリと起き上がったアニータが目を輝かせた。思いの外復活が早かったな。このまま居座るとまた絡んで面倒になりそうだし、とっととずらかるとしよう。



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 冒険者ギルド。様々な依頼を取り扱う斡旋所であるこの施設は、基本的にどの国にも設置されている。簡単な登録さえしてしまえば、犯罪者でもない限りは誰でも利用可能だ。本職とする者はもちろん、その日限りの小遣い稼ぎとして働く者もそれなりに多い。


 依頼は巨大掲示板に内容を記載した紙が種類別に貼られていて、家の清掃から素材採取、強大なモンスターの討伐に至るまで種類は豊富だ。注意しなければならないのは、達成できなかった際の違約金と達成期限だろう。期間が明日までの依頼を取って、目的地が明後日にならないと着かない! なんて馬鹿みたいな理由で違約金を払っていた馬鹿が昔いたっけな。その辺りを吟味して自分の力に見合ったものを選び、掲示板の用紙を取って受付カウンターで手続きをすれば準備完了、後は仕事をこなすだけである。


「色々な依頼がありますねー。師匠、今日の鍛錬ってこれですか?」

「そうなるな。言うまでもないが、討伐系の依頼をしてもらう」


 ハルにとっては初めての実戦。普通、新人は緊張で足が震えるもんだ。女の子なら尚更な。


「了解です! 実戦じっせん~♪」


 だというのに、我が弟子は機嫌が非常によろしいようだ。拳の素振りをしながらリズムカルな実戦を口ずさんでいる。うん、心配はしていなかった。この子は頭のネジがちょっと違うところに止まっているんだ。


「んーと…… ああ、これだこれ」

「師匠、見えないです」


 ハルが背伸びをしながら、俺が取った紙を覗こうとしている。だが小柄なハルの身長では、とても覗ける高さではなかった。 ……ほんの少しだけ小動物感がある。


「まずは受付カウンターだ」

「私、まだ見てないですよー……」


 どうせ後で確認するだろと受付に移動。ここに来るのも久しぶりだな。


 依頼を受理する受付は全部で10箇所ほどあり、城下町のギルドだけあってかなり多い。それでも列を成しているあたり、利用者の需要にはまだまだ追い付いていないらしい。しかし、1つだけ誰もいない受付がある。他の場所が美人な受付嬢が担当しているのに対し、そこには小汚い爺さんが座っているのだ。まあ、男なら美人の方に流れてしまうよな。


「よ、ここの受付は相変わらず空いてるな」

「あん……? おお、デリスじゃねぇか! 久しぶりじゃな!」


 受付の爺さん、唐突にテンションが高くなったジョルジアとかたい握手を交わす。


「まだ爺さんが生きてて安心したよ」

「はん、ワシは生涯現役じゃて。今日も元気に人間観察よ」

「仕事しろよ。一応は受付だろ」

「これも立派な仕事じゃよ。分を弁えん不審な輩、うちのもんに手を出す不埒な奴がおらんがチェックしておる」


 警備員か。本業はどうした、本業は。


「あの、師匠。この方は?」

「おお!? ……おい、随分とめんこい娘じゃな。どこから掻っ攫って来た? ワシも同行してやるから、ちょいと自警団の詰め所まで行こうか」

「何でどいつもこいつも、そんな反応するんだよ……! この子は俺の弟子だ、弟子!」


 経緯を掻い摘んで説明し、ハルに挨拶させる。これ、毎回毎回やんのか。糞面倒臭いな……


「あー、ハル。この爺さんはジョルジアといって、こんな見てくれでも一応はギルドのおさをしている。なのに趣味が受付担当っていう変人だ」

「変人は余計じゃわい。皆からはジョル爺と呼ばれておるよ。よろしくお願いする」

「はい、よろしくお願いします!」

「……ま、ここはいつも空いてるし、ギルドの代表と縁を作るのは悪い事じゃない。俺みたいに程々に仲良くしてやってやれ」

「分かりました!」

「仲良くされる方なの、ワシ!?」


 などと冗談を言ってばかりでは話が先に進まない。掲示板から取ってきた依頼用紙をカウンターに置き、ジョル爺さんに見せてやる。同時に、ハルもカウンター上の紙を凝視した。


「灰コボルトの巣の駆除、ですか?」

「ほう、随分とスパルタじゃな。討伐系の依頼の中でも面倒なモンスターの巣を選ぶとは…… その娘、相当できるのじゃな?」

「いや、まだ魔法使いのレベル1だ。俺に弟子入りしたのも数日前のひよっこだよ」

「……これ、レベル3相当の討伐依頼なんじゃけど?」


 掲示板に貼られている依頼には適正レベルが記載されている。レベル3ともなれば、いっぱしの冒険者がパーティを組んで挑むべき難易度だ。レベルによる受付制限こそないが、ギルドの判断で達成が不可能であると判断された場合、先に違約金を支払わなければならない時もある。これは討伐対象に冒険者が殺されてしまった際に、違約金の回収が難しい為の処置だ。ちなみに期間内に違約金を払わず逃亡した場合、めでたく指名手配されてしまう。


「強い相手ですか! 腕が鳴りますね、師匠!」

「ああ、そうか。まあデリスが同行するなら、新人が一緒でも何とか―――」

「いや、俺は行かないよ。それだと修行にならないじゃないか」


 俺の言葉にジョル爺さんは目を点にし、ハルは目を輝かせた。

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