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エピローグ 金色の夕空

 

 私は一人、体育館裏を目指し歩いていた。

 テニスで挫いた足首がまだ痛いけど、こんな場所まで来たのにはワケがある。

 諌矢を呼び出し、改めて気持ちを告げる為だ。

 この前みたいな遠回しに探りを入れるのとは違う。今度はハッキリ、自分の気持ちを言葉にして伝える。

 そうでもしないと、鈍感なあいつはわかってくれないから。

 それに、あたしも収まりがつかない……から。


 思えば、あたしはいつも自分の気持ちをきっぱり言うタイプだ。それで敵とかもたくさん作って来た。

 でも、負けなかった。これからだって負ける気がしない。

 それなのに、諌矢が相手だとどうして弱腰になってしまうんだろう。

 これじゃ、まるで弱かった頃みたいでムカつく。幼いあたしはいつも弱くて、愛理が助けてくれるまで尻込みばかりしていた。

 でも、勢いつけて押し通せば無理や道理も覆る。それを知ってから変わったんだ。

 もう恐れるものはないと何度も言い聞かせながら歩いて来た。

 髪を染めたのも、自分が強くいられる気がしたから。

 単純で子供っぽくて、いかにも田舎者丸出しの動機だけど、それで周りがおとなしくなったんだから、いいんだ。

 それでいて、この高校に受かる程の成績だってキープしてる。

 進学校な分、校則が緩いのか服装の事はあんま言われないけど、とりあえず、あたしはあたしらしく居られてるし、とりあえずオッケー。

 中庭から校舎の裏手に回った所で、遠くから声がした。

 部活でもやっているのかなと、グラウンドの方を見ても誰もいない。

 遠巻きに聞こえる声を辿り、ようやく見つけた。


「まだやってたのか、あのバカは」

 グラウンドの更に奥。隅っこの野球のバックネット近くに一之瀬がいた。

 しかも、驚く事にもう一人馬鹿がいる。

 バットを持って立っている小柄なのは、白鳥? 

 めっずらしい。一之瀬とたった二人、子供みたいに声を上げて野球をしている。

 男子だなあ、とあたしは思った。

 付き合うならやっぱ、諌矢みたいに大人で背も高くてかっこよくて女子に配慮出来る。そんな人がいい。

 でも、あいつらも結構格好良かったのかも。なぁんて思ってみたり。

 最後らへんはヘロヘロだったけど、一生懸命投げているのはあたしにも分かったし、実際に紫穂とか美由は、ちょっといいかもなんて事を言っていた。

 物好きの女子には、男子の子供っぽくてそれでもまっすぐなとこは結構響くんだろうな。


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「何やってんだか」

 一人愚痴を吐きながら歩を早めた。

 さっさと諌矢と蹴りをつけなきゃならないのに、何をあたしは気を逸らしているんだ。

 校舎裏を急いで最短コースを回る。雑草とめくれた土で地面はぼこぼこ。本当嫌になる。


「ああもう……ムカつく」 

 ローファーだと歩きづらいし、一歩踏みしめる度に怪我した足首が痛む。

 躓きそうになってすぐ横の校舎に手を当てると、壁のちくちくした手触りにイラッとした。


 ――カキンという音が、もう一度響く。


 顔を上げると、金色の夕焼け空にボールが一つ、飛んでいく。


 でも、その行く先をあたしは見ない。

 前を向いて、歩いた。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

二章はこの話で完になります。

三章はこれまでより投稿間隔が開くと思いますが、今後も宜しくお願いします。

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