Section 8 【 臨海学校へ行こう! 前編 】
■2015年7月16日 (木) 8:15 晴れ■
□校庭 朝礼台横
普段からこの時間には学校に居る京也であるが、
今日はいつもと様子が違っている。
校庭に1学年の全員が並び、各々が大きなカバンを手にしている。
「持ち込む生徒会の資料はこれで終わり?」
茜音が手元のクリッポードを目と手で追い、大きく頷く。
「うん! これで全部だね」
「了解。バスに積んでおくから、また着いたら確認お願い」
「はい!」
京也はバスの荷物室に箱を1つ置いて、朝礼台の所に戻る。
丁度いい時間になり、教頭先生の号令で全体朝礼が始まる。
「それでは、臨海学校の全体朝礼を行います」
そう――今日は、紅桜学園4大行事に数えられている。
“臨海学校”に出発します。
全体朝礼と言っても、臨海学校の大まかな内容確認と、
諸注意について話すと直ぐにバスへ乗車、順次移動となる。
B組の京也も列に戻ろうとした所で、会長に声を掛けられた。
「行事続きで大変と思うが、しっかり頑張ってくれ!
これ、よかったら3人で分けて食べてくれ」
そう言って渡されたのは、可愛らしい包装紙に包まれた物だ。
その場に居合わせた京也・茜音・晴秋はお互いに顔を見合わせる。
暫しの沈黙の後――口をそろえてこう言った。
「「「間に合ってます!」」」
周りで見ていた生徒の話によると、物凄く笑顔だったという事だ。
しかし、無理やり押し付けられた京也が事後処理という事になった。
ご存知の通り会長の料理は……その……致命、いや個性的なのだ。
人には得手、不得手が存在するが……会長はいい例なのか。
バスに乗り込み一行は、”臨海研修センター”を目指した。
◆9:30 2号車内 ◆
B組に割り当てられた2号車の中は、とても賑わっていた。
どれくらいなのか?
恐らく70dB(≒騒々しい街角)はあるのではないだろうか。
幸運な事に、全員が話しているので気づいていないだけであるが。
そんな中、京也らもその集団にカウントされるのだが……。
「それで、生徒会はどんな感じよ?」
「どうって言われても。個性的な……集まりだな。」
京也に話しかけているのは、同じクラスの茅町一分だ。
中学からの親友で、何かと話す機会が多い。
「あれだけの美人揃いで何にもないのか!?」
そう言う一分の口調は、明らかにからかっている。
「それを監蘭さんの前で言えるのか……」
京也の脳裏には思い出される殺……いや、歓迎の日々。
あまりの楽しさに京也の体が小刻みに震えている。
多分、車内の空調が効きすぎているのだろう。
そんな京也をさておいて、どんどん話は進んでいく。
「でも、最近学校面白いな!」
「あぁ……。確かに、最近は充実しているな」
特に京也は生徒会に入ってから、慌ただしい毎日であった。
「まぁ、このメンバーって言うのもあるんだろうけどな!」
「それは否定しないな」
各々の思いを乗せバスはひた走り、気付くと目的地前であった。
この辺りでみんな話疲れたのか、やっと45dBまで戻ってきた。
3日間何が起こるのか、何をするのか。
実は不明な点が多く、特に2日目が学園でも噂になっている。
楽しそうなB組メンバーが3日目はどうなっているのか……。
とてもとても――楽しみだ。
◆10:30 臨海研修センター ◆
『本日はこの様にゃ……失礼しました。この様にゃ……』
いつも以上に緊張しているのか、同じ所で何回か噛んでいる。
周りはお馴染みの光景なので、微笑ましく眺めている。
『……ということで、3日間宜しくお願いします!』
茜音は一礼をして戻ろうとするが、このまま終わらない。
いつもの様に何もない所で躓き転びそうになるが、
1回、2回堪えて……。
マンガの様に最終的に転んだ。
何事も無かったかのように立ち上がり、そして元の場所に戻る。
温かい目で見守っていたセンター長が、やっと前で話し始める。
初老の女性で、柔らかな笑顔が印象的だ。
さぞ、落ち着いた話し方なさるのだろう……誰もがそう思っていた。
『皆さん、よう来はりましたな! 遠路はるばるご苦労さん!』
大阪暮らしが長かったとかで……まぁ、仕方ない。
ちなみに、遠路はるばると言うほど遠くないのだが。
「充実した研修になるよう、全力でサポートさせてもらいますんで、
皆さんも全力で、力を使い果たして地元へ帰って下さい!」
センター長の挨拶が終わると、荷物を置くため自室へ移動した。
梅雨も明けていないのに、見渡す限り青空だ。
この天気が3日間続けばいいのに……という幻想は置いておき、
京也たちも部屋へ移動した。
◆10:55 宿泊A棟5号室 ◆
「思っていたよりも広いなー」
一分がそう言っているが、確かに想像よりも広い。
これなら男が5人で寝ても余裕のスペースだ。
「さて、備品チェックやるぞ!」
京也は鞄からクリップボードを取り出し、部屋の中を歩きはじめる。
備品チェックは、部屋に最初に入った時と最後出る時に行う。
破損している個所があれば予め記入し、後々のトラブルを避ける。
壁や障子順番に見て回り、問題がないか目を凝らす。
幸い問題がなさそうなので、ボードを鞄に直す。
「京也―? この後の予定はどうなっていたっけ?」
「えーと、委員以外は講堂に集合だな」
京也はレクリエーション準備の為、大研修室集合になっている。
必要な物を準備すると、室員を全員出して施錠する。
カードキーになっているので、持ち運びには便利だ。
紛失すると厄介なのだが、軽いからよしとしよう。
◆12:00 大研修室◆
「宜音? これはどこに置いといたらよかった?」
「それは……その机の上で!」
「茜音ちゃん。これはここで合ってる?」
「そこで大丈夫だよ!」
あちこちから飛んでくる声に茜音が答えているが、
お気づきだろうか。茜音が動いていないという事実に。
遡る事を数十分前……準備を始めたばかりの事。
妙に張り切っていた茜音は、挨拶の雪辱を果たしたいのか。
皆さんにも経験がないだろうか。
有り余った元気・やる気は、却って作業効率を下げる。
開始数分――茜音のおでこが赤く色づいた。
5分後――準備していた花吹雪をまき散らす。
そして10分後――作業に加わる事を満場一致で禁止、指示に回る。
この様な変遷を経て、今に至るという事だ。
何も、茜音をいじめている訳ではないのでご理解頂きたい。
茜音が作業の指示に回ってから、作業効率が大幅にアップ。
気が付くと、9割完成していたので残りは開始前にすることになった。
指示に回っていた茜音がどこか不服そう……と思い来や、
至ってニコニコしていたので結果オーライだ。
京也は全員が出たのを確かめてから、部屋に鍵を掛けた。
昼食を挟んで、午後は湖での実習だ。
外も晴れているので、実に楽しい実習になる……と思ったのに。
◆14:00 田沼湖前◆
ここに着いた時は見渡す限りの快晴だったはずなのだが……。
クラスメートと先生、インストラクターは皆一様に合羽を身に付けている。
つい先ほど、大雨注意報が発令されたばかりだ。
しかし、これぐらいで予定を変えるわけにはいかない。
教頭先生の一声で、実習の決行が決まった。
5人が1班となり、4班に1人のインストが付く。
京也の班は他に、鏡谷・茅町が見知ったメンバーだ。
「そこは紐でしっかり止めてね!」
言われた通りに作っていけば、ちゃんと乗れる物が出来上がる。
ハズなのだが……。
「鏡谷? そこ外れてないか……」
「ううん、気のせいだよ」
「いや……気のせいじゃないよね!?」
さらっと否定するから外れていないのかと思ったが、
やっぱりどこから見ても外れている。
いざ乗ってから外れては、冷たい水にダイブすることになる。
しっかりと締め直させ、どんどん組み立てていく。
30分ほどで全て組み立て終わり、京也が代表でまずいかだに乗る。
「なかなかいい出来栄え……」
言葉を紡ごうとすると、京也が冷たい水の中に消えた。
原因は簡単、さっき締め直させた場所に足を引っ掛けて落ちただけ。
引っ掛かる方も悪いが、引っ掛ける方も悪い。
班員で水の掛け合いに発展した京也の班は、
片付けて後に先生から長いお話を受ける事になるのだが。
便利な言葉がこの世にはある。
「それはそれ。これはこれ」
体が冷え切っている京也たちは、先にお風呂に入ることになっている。
まぁ、湖の中ではしゃぎまわっていた天罰なのか。
1日目は、いよいよレクリエーションを残すのみとなった。
普通に終わらない――それが、紅桜学園の特徴。
ただケガ人が出ないことを、切に祈るばかりである……。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
作者のSHIRANEです。
こうして更新するのがとても久しぶりですね(笑)
さて近況を少しお話ししておきますと。
多分、裁判所からの採用はないかもしれません、
と言うより、もうないと思って本年の試験準備に移っています。
イレギュラーな欠員が出ないとも限りませんが、恐らくないでしょう。
ですので、今年また試験を受けることになると思いますので、
温かな応援を送って頂けますと幸いに思います。
昨年の経験を踏まえ、全身全霊で頑張る所存です。
さて、更新の予定に関してですが……。
その前に少し宣伝を。
私初めて参加しました「なろう企画」でですね、
作風で作者を当てる企画に小説を書きおろしています。
分かる人にはわかる仕様ですので、是非当てて見て下さい。
ページへのリンクは、mypage.syosetu.com/480323/ です。
さて、今後は護衛艦奮闘記・アマオトを順次書いて、更新していきます。
戦闘シーンから続きが始まる『護衛艦奮闘記』
いよいよ、この章が終わると最終章に向かってまいります。
幼馴染の交通事故のシーンで終わった『アマオト』
ここから物語が始まりますね。
皆様にとって楽しんで頂ける作品を、これからも書いていきたいと思います。
何卒、宜しくお願いします。
以上、長々と失礼いたしました。
2014年7月6日 SHIRANE