神頼み
むかしむかしの、お話です。
山の麓にある小さな村が、不作に苦しんでおりました。
米は実らず、野菜は小さく、誰もが空腹でした。
ある日、誰かが言いました。
「神様に祈って助けてもらおう」
みんなはその言葉に賛同して、村の中の小さな社に供え物をしてから、村の危機を救ってくれるよう祈りました。
ところ変わって、天と地の神様たちが集うお屋敷です。
人が知る一番大きなお城より大きくて、一番きれいなお寺よりもきれいな屋敷の中で、たくさんの神様がご馳走を食べていました。
すると、空腹に苦しむ村人たちの祈る声が聞こえてきました。
神様たちは困りました。 自然の流れで起きる豊作や不作は、神様の勝手で変えることはできないのです。
「だけど、悪い妖怪が起こした不作なら、その妖怪を退治するのは山の神の役目よね」
「何を言う。わしは自分の守る山にそんな妖怪をのさばらせたりはせぬ。おおかた、雨の神が仕事を怠ったのだろう」
「な~にを言うぞね。ワタシはいつだって真面目に雨を降らせてるぞね。仕事をさぼるのは風の神ぞね。自分の行きたいところにしか行かないから凪が起こって船も止まるぞね」
「あちきは流れて進むものでありんす。過ぎた後ろには戻れやしませんよ」
きーきー、わーわー。
たくさんの神様が言い争いを始めてしまいました。
今まで黙っていた日の神様は、食事を終えるとパン! と床を打ちました。
みんなはびっくりして、日の神様を見ました。
「ぎゃあぎゃあとうるさいですよ。大体、話の内容が変わっているじゃありませんか。そもそも、人が不作に苦しんでいるのを助けられるかどうかの話だったでしょう。川の神! あなたが妖怪だとか言うからややこしくなったのです。責任を取って下界を調べに行きなさい」
「えー、なんであたしが……いえ、すいません」
反論しようとした川の神様は、日の神様に睨まれてしまいました。
怒られたくないので、 そそくさと立ち上がり屋敷を出ました。
ところが、下界に来てみれば祈りを捧げていたはずの村人たちは誰もいません。
じつは、神様たちが話をしている間に一月以上経っていたのです。
村人たちは何もしてくれない神様にあきらめて、村を出ていきました。
他にも、神頼みをする町や村があったのですが、いつだって神様が下界に降りてくるのは皆があきらめた頃でした。
そのうち、誰も神様に祈ることをしなくなったので、忘れられた神様たちは下界に行くことも自分たちの仕事をすることもできなくなりました。
こうして、神話の時代は終わったのです。
困ったときにはガソリン切れしたときくらいに、即座に対応してほしいですよね。