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妹登場 ~姉より優れた妹などいない~


「カアサマ?」


 巴牧場での休暇を早めに切り上げられ、郷田厩舎に帰ってきた私を、しゃべる馬が待っていた。


 鹿毛の牝馬だった。きょとんとした表情で、首を傾げながら私のことを見つめていた。

 母の話を聞いていなければ、大層驚かされたことだろう。


 多分、おそらく、高確率で、私の妹だ。

 母は私に似て可愛い顔の馬だと言っていたが、どうだろう。


 どことなく顔立ちに母の面影は感じる。だが、首を傾げる私の1つ年下のこの牝馬は、可愛いというよりかはちょっとアホっぽい感じだ。


「……私はお前のお母さんじゃないよ」


「? デモ、カアサマと、ケナミがイッショ」


 言って、妹(?)は私に恐る恐るといった様子で鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅いでくる。


 私も同じように、相手の匂いを嗅いでみる。

 何となく、巴牧場の匂いがする気がした。


「お前の母親はトモエロード?」


「?」


 母の名を出すと、妹(?)はよく分からないといった風に首を傾げた。


 そこでふと気づく。そういえば、母は私に自分の馬名を名乗ったことは一度もなかった。

 だからもしかするとこの馬も、母親の馬名を知らないのかもしれない。

 

 私は試しにテストしてみることにした。


「この世界で一番偉いのは?」


「カアサマ!」


「人間は馬の?」


「ドレイ!」


 間違いなく母の子だ。この教育は間違いなく母だ。つまりこの馬は私の妹だ。


「カアサマチガウ? でも、カアサマのニオイスル」


 ひとしきり私の匂いを嗅いだ妹は、やっぱり不思議そうに首を傾げた。


「私はお前のお母さんじゃないよ。姉だ」


「アネ?」


「お姉さまとお呼び」


「ネーサマ!」


「そう。よく言えました」


 言って、私の首で相手の首をわしゃわしゃと撫ででやる。妹はきゃっきゃと喜んだ。


 しかし、随分片言でしゃべる馬である。母は妹は最初しゃべれず、母の言葉を聞くうちに言葉を覚えたと言っていたが、そのせいだろうか。


 あるいは私と同じで、妹も前世が人間なのかもしれないと思っていたのだが。


「お前、前世の記憶はあるの?」


「ゼンセ?」


 また首を傾げる妹。やじろべえのようによく傾く首である。


「お母さんのお腹から生まれてくる前のことは何か覚えてないかって話。私は馬になる前は人間だったの。あなたはどう?」


「???」


 私の言っていることがまるで分からないという風に、妹の首の傾きがさらに深くなる。


「? ニンゲンダッタ? ネエサマ、ウマじゃなくて、ニンゲンなの?」


「昔そうだったって話よ」


 そう答えると、妹は突然フッと私を馬鹿にするように笑った。


「ネエサマ、ニンゲン。オイ、ニンゲン、ゴハンモッテコイヨ。オイ、ニンゲン、ゴハンモッテコイヨ」


 そして私に軽く頭突きしながら、食事の催促をしだす。


「ブルヒヒヒヒヒヒン!!!!」


「ヒン!?」


 あまりにも無礼だったので、一喝して黙らせてやった。


 妹は耳をピンと上に立て、怯えたように後ずさった。ついでに厩舎の他の馬達も驚いて、耳を上に立てた。


「元、人間よ。今はお前やお母さんと同じ馬。分かる?」


「ハイ、ネエサマは、ウマデス!」


「私はお前の姉だ。お前は私の妹だ。姉は妹より偉い。覚えなさい」


「ハイ、ネエサマは、エライデス!」


「妹より偉いのは?」


「アネ!」


「よろしい」


 あんまり賢そうには見えないが、何にせよ貴重な話相手だ。仲良くしていこう。


 この日私は、こうして種違いの妹と、初めて出会ったのだった。



主人公の妹:主人公の1歳年下で父親違いの妹。とても賢く、カタコトながら会話が出来る。郷田調教師の見立てでは競走馬としての素質は姉よりも上。でも馬としての格付けは出会った直後から姉より下に固定である。前世は盲導犬。



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