おムコさん募集中?
いつまでも妹を飽かず眺めているフェレを残し、頃合いを見てアレフの寝室を辞した。
「いやあファリドくん、感謝するのである、フェレを連れてきてくれてなあ。ここのところアレフも元気がなかったのである。あんなに楽しそうな表情は久しぶりに見たのである」
磊落に笑う、父親のダリュシュ。
「それは良かったですね。王都で数日ばかり時間があるとわかったとたん、フェレが家に帰ると言い出したんで最初は驚いたんですけど、あんな可愛い妹さんじゃ、会いたくなるってもんですね」
「そうであろう、そうであろう……おっと、たった数日であるか! もう少しゆっくりしていくのが良いのである。冒険者稼ぎも忙しいだろうが、急がなくても迷宮は逃げないのである」
―――俺たちの戦力じゃ迷宮攻略は、無理なんだけどな・・
「そうよ! 最低一週間くらいは泊っていきなさいな。ここは何もないけど、のどかで過ごしやすい村なのよ」
「はあ。フェレと相談します……」
三人は家族用の居間と思しき部屋に移り、母親ハスティが使用人に頼らず調えた茶と堅焼きのクッキーで、円卓を囲んで語り始める。
「ほほう、ファリドくんは副都の生まれなのであるか」
「父が副都でそこそこの商売をやっていました。さきの戦争で店はつぶれ両親は亡くなってしまいましたが」
「まあ、お気の毒な。思い出したくないことを聞いてしまってごめんなさいね」
「まったく構いませんよ。そんなわけで天涯孤独ですから、冒険者稼業をやっていても誰にも心配を掛けずにすみます」
「ふむ。それでは、この小さな村の領主をやっても、構わんわけであるな。うむ」
「いやいや、それは……」
「まあダリュシュったら、それは先走り過ぎというものよ。でも、そうなって欲しいかもね~。うちは二人娘で、どちらかにお婿さん来てもらって継いでもらうしかないのよね。アレフが丈夫なら、お婿さんも千客万来だったと思うけど……。でもフェレにも、こんな好青年を捕まえることができるのねえ、見直しちゃったわ。あなたさえよかったら、いつでも村に永住してもらって構わないっていうか、ぜひ来て欲しいかな」
「はぁ……あの、何か誤解されているかもしれないんですけど、俺、フェレとそういう約束をしたわけでは」
「してないの?」 「してないのであるか?」
「ええ」
「そうなの……」 「そうなのであるか……」
がっかりさせてしまって申し訳ないと思うファリドだったが、ここは正直に言わないと事態がどんどんややこしい方向に進んでしまう。
「フェレ……さんとは三都アズナのギルドで紹介されまして、一ケ月弱パーティを組まさせて頂いています。フェレ……はすごい潜在能力を持っているようなのですが、戦い方が才能にあっていないようですので、いろいろアドバイスをさせてもらっているところです。ようやく板についてきたかというところですが、先日は盗賊を七人、一人も殺さず倒しました、大したものです。ぜひ今後も一緒に仕事をさせていただきたいと思っています」
「女の子としてはどう思うの?」
「いや……綺麗ですよ。綺麗ですけど、まあ出来の悪い妹のようなというか……」
「うわはははっ。『出来の悪い』のはよくわかるのである、ファリドくん。あれは子供のころから要領が悪いのである……」
「あ……失礼なこと言ってすみません」
「あら、いいのよ~。でも女の子としても、フェレを気に入って欲しいなあ。口が重くてなんかモゴモゴしてるけど、とっても素直で純な子なのよ」
「ええ、とても素直ですね。戦い方を基本から変えたり、かなり無理を言ってるのですが、俺を信頼してくれてるのか、教えた通りに……いやそれ以上にやってくれてます」
二人はうんうんと嬉しそうにうなづく。子供を褒められて嫌がる親はいない。
「そっかぁ。まだ会って一月かそこらなのね。なら仕方ないけど、ということはこれからチャンスがいっぱいあるってことよね。ちょっとフェレに知恵を付けておかないとね」
―――どういう知恵なんだか……
「いや、男女の道は時間など不要、一晩でもなる時はなるのである。現に私とハスティはだな……」
父親がそう口を挟みかけた瞬間にバコっとものすごい音がしたのは、ハスティが茶を運んできたトレイでダリュシュの後頭部を力一杯強打したからだ。
「黙りなさい、まったく品がないんだから!」
「本気で殴られた気がするのである……」
夫婦漫才だ。領主というのにずいぶん気さくな一家だとファリドは感心する。そこにフェレが戻ってきた。
「……アレフ、寝た」
「そう。ちょうどフェレの話をしていたところなんだけどね」
「……ろくな話じゃない気がする」
「ふふふ、そんなことないわよ、じゃ、食事の支度をするわね。今日はよく食べてくれそうな人達がいるから作りがいがあるわね。あなた達はしばらくここでしゃべっててちょうだいね」
賑やかな母が館の奥に消えていく。
―――領主とはいえ、この規模だと奥さんが家事をやらないといかんわけだな。使用人は二~三人いるみたいだが……
「お、ファリドくんは、銀鷲の肩章を佩用しているのであるな、『軍師』というわけだ」
肩の徽章に気づいたダリュシュがにわかに興味を持つ。
「それほど、嬉しい呼称でも、役立つ呼称でもないんですけどね」
「しかし、銀の肩章は滅多なことではもらえないと聞いているのである。その若さで、どんな働きをして授けられたのか、フェレは聞いてるのであるか?」
「……ううん、聞いてない」
「じゃあ、せっかくであるから婿殿……いや婿殿候補の武勇伝でも聞かせて欲しいのである」
婿殿、という言葉の響きにドキッとしたファリドはあわててフェレの方を見る。しかし彼女はそのフレーズには全く反応せず、
「……私も、その話、聞きたいかも」
「う……あまり面白い話じゃないけどなあ」
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