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学校まで追放されてたのね

 その翌日は、さすがに後始末に追われた。


 峠の確認に出た衛兵団が、拘束されて転がされていた盗賊と、ファリドが斬り捨てた一部の死体を夜のうちに回収してきており、ファリド達が報告していた経緯と相違ないことがほぼ確認された。全員が手配リストに載っており、この地域で三つ存在が確認されている盗賊団のうち、一番小さいのを壊滅させたらしいということがほぼ確からしくなった。ファリドが最後に斬り殺した年嵩の賊が、その長であったようだ。


 ファリド達は領主に呼び出され、熱い顕彰を受けた……あくまで言葉だけではあるが。盗賊団討伐の実質的な報奨はギルド扱いにて支給されるだろう、とのことだ。領主の奥方が、せめてこれだけでも美しいお嬢さんに感謝をと、百合の花を象った銀のブローチを、個人的にフェレにくれた。それほど高価なものではないが、装飾品をもらう機会がほとんどなかったせいか、かなり嬉しかったらしい。礼を述べつつ、頰は桜色になっている。


―――そうか、そんなに喜ぶなら、今度王都で何か買ってやるかな。


 すっかり兄の気分である。


 領主館の後はギルドに顔を出す。こちらもギルドの支部長から、銅鷲級としては異例の働きであるとさんざん賞賛された後、この街は小さいのでギルド支部の決裁権も小さく、報告書を作成して渡すので王都の本部に持参して、報酬とポイントの決裁を受けてくれ、と申し渡される。くだんの盗賊団にかかっていた賞金は二百五十ディルハムだったとかで、ほぼ全額がおりる「のではないか」ということであった。


 衛兵団の詰所にも寄って、状況を聞いたりしているうちにもう昼前になってしまう。


「アリアナさん、出発が遅れてしまい、申し訳ありません」


「いえ、賊とはいえ死傷者が出ているのです。官憲と確認をしなければならないのは当たり前ですから、お気になさらずに」


「恐縮です。今日は三つ先の宿場まで行こうと考えていましたが、二つまでが限界ですね。王都に着く日は、遅れないように調整しますが」


「承知いたしました」


―――物分かりが良くてやりやすい依頼主だが……なにか引っかかるな。


 ファリドの違和感は、彼女が落ち着きすぎていることにある。十人もの賊に襲われ、しかも目前で死人まで出ているのだ。なんらか感情の起伏があって然るべきなのだが。


―――命のやり取りに、慣れている立場なのか? それとも?


 いずれにしろ依頼主の素性詮索はご法度だ。ファリドは胸中のもやもやを押し殺して、馬車の馭者席に向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後王都までの道程は、特別危険な出来事もなく平穏であった。


 一応周囲の気配を探りつつではあるが、ファリドも比較的気楽に、馭者台で隣合わせに座るフェレと、冒険者になる以前の話をしていた。


「フェレはいいとこの嬢ちゃんだったんだな。食事のマナーとか完璧だったしなあ」


「……久しぶりだから自信なかったけど。いいとこって言ったって、地方の小領主」


「冒険者になんなかったらいい嫁入り先もあっただろうに……こんだけ綺麗なんだからさ」


 ストレートに褒めすぎたのか、フェレがまた耳まで赤くなる。


「……綺麗……かどうかはともかく、良い縁談を求めるには社交界で認められないといけない。私には難しかったみたい」


「なんでだ?」


「……他人と会話が……うまくできない」


―――あ~そこか。納得だ。


「……ただ、出入りの魔術師が、私の魔力は異常に強いと。それで魔術学院に行った」


「そこは、辞めた……んだよな」


「……才能がなかった。まったく課題についていけなくて、退学させられた。ちょうどその頃、妹の病気がわかったこともあって、冒険者になった」


「あの強烈な身体強化を見ていたら、才能がないとは思えないがなあ」


「……学院で一番最初にやるのが、魔力を身体の中で回して……というか練って、外に出せる力に変えること。次が、その力を自分の運動能力に変える、身体強化。身体強化は初歩の初歩なんだ。その次にやるのが、止まっているモノを動かすこと」


「念動ってやつだな?」


「……そう。私はそこでつまづいた。ティーカップすら動かせなかった」


「その才能ってのは、魔力が強い弱いとは違うのか?」


「……違う。魔力をどう対象に流すかが大事……なんだって。そこがダメだったみたい」


「そうか……」


「……子供が喜ぶ、テーブルマジックみたいな念動ならできるんだけど。こんど食事時にでも見せる」


 フェレの表情に寂しさがのぞく。


―――やはりここは触れるべきではなかったか?


「……でも、身体強化だけでも、昨日は役に立てた。ファリドにも、ネーダにも喜んでもらえた」


―――ネーダが呼び捨てになったか、一晩で仲良くなったわけか、結構結構。


「そうだな。みんな驚いて、感謝してた。俺も感謝してるぞ」


 また頬を桜色に染めたフェレは、満面の笑みを浮かべていた。

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