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夜の終わり

短くてすみません、キリがいいのでここで。明日はその分長いです。

 その間にもレイチェルティリア様は俺を追い越して数歩前に出た。


「——『青々虎々』がウチのシマに手を出したってことでいいのよね、これは。そろそろじゃないかと思って近くにいたんだけど、まさかあなたが出てくるとはね」


 やっぱりマーカスのオッサンは近々大ゲンカを仕掛けるつもりだったってことか。

「龍舞」がその動きを察知できるほどには。

 つまり俺の行動は、いろんなものが始まるぎりぎり直前のタイミングだった——ということか。

 すると「王都最強のケンカ屋」は、


「ちげえよ……って言ってもおたくらは信じやしねえだろうけどな。言うなればな……お~、そうそう、『青浪鯱々(インディゴオルカ)』が先走ったってわけよ。で、見事に返り討ちに遭った」

「は? そんな言い訳が通じるとでも?」

「言い訳じゃねえよ。俺としては『青浪鯱々』が16区を制圧した後に、お前たちに返してやるつもりだったからな。ウチのバカどもが先走って悪かったなって」


 それははっきりとした挑発だった。

 彼は、「16区を奪った後」の話をしてる——絶対に負けるわけがないと思っていた、というのだから。

 だけど、レイチェルティリア様は小さく笑った。


「うふふ……私のダフニアが強くってごめんなさいね」


 それはひどく色っぽかった。

 手で軽く口を押さえる所作も、流し目も、なにもかもだ。

 こんな状況であるにも関わらず、俺の、この上等な仕立てのズボンの股間がむくむくとふくらんでしまいそうな色気があったのだ。


(わ、わ、わ、『私のダフニア』!?)


 俺としては思わずその言葉に反応してしまったし、


「チッ」

「は?」

「撃とう」


「七若龍」の3人がにらんで来たし、


「ニ、ニ、ニ、ニアはあたしのニアなんだけどな!!」


 フェリがやたら張り合ってるけれども。


「お~ん? ずいぶんと、そのガキにご執心じゃねえか」

「……それで、どうするの?」

「さっき言ったろ。これは『青浪鯱々』がでしゃばったことだ。勝手につぶれたんならどうもこうもねえ、俺は帰る……それか」


 瞬くほどの時間もなかった。

 いつの間にか「七若龍」の3人がレイチェルティリア様の前に立っていた。


「お前が相手してくれるってんなら、俺はいつだって大歓迎だぜ……?」


 ゴウッ、と離れていても吹き飛ばされそうな威圧が放たれる。

 危うく——危うく。意識をもってかれるところだった。

 なんなんだよ、コイツは。

 なんなんだよ、この超人どもの戦闘レベルは。

 マッスルオジサンも、ツインテールも、引き金中毒者も、目を爛々と輝かせて今にも襲いかかりそうな顔をしている。


「…………」


 唯一フェリだけが悔しそうな顔をしている——自分じゃ、足りない(・・・・)と感じているのか。


「バカね。『青浪鯱々』はウチの(・・・)ダフニアにやられた。それで終わり」

「……チッ、挑発には乗らねえってことかよ。さすがに頭も回るようだな——それじゃあ俺は()えるぞ」


 くるりと振り返ってのしのしと歩き去る——のをぴたりと止めた。


「ああ、そうそう。ダフニアっつったか」


 肩越しに、振り返る。


「……面白れぇじゃねえか。おめえのツラ、覚えたからよ……次()ったときはお互い、看板なんざ放り捨ててステゴロでやりあおうぜ……?」


 そうして「あばよ」と手を振って去っていった。


「……え?」


 今なんつった?

 武器もなんも持たず、素手で「王都最強のケンカ屋」と殴り合い……?


(ぜってぇ~~~~~~イヤだよ!!!!!!!!!)


 なんでだよ! なんで頭のおかしいヤツらに目を付けられるんだよ、俺は!

 絶望のあまりに天を仰いだ。

 半壊したビルの3階に、誰かの身体が突き刺さっているのを見てあわてて視線を下げた。

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