フェリといっしょ
●~* フェリ ●~*
幼いころにスキル「破壊」を発現したフェリは、周囲にいた人たちから避けられるようになった。
家族さえも。
必要な時期に愛情を注がれなくなった彼女は暴力的になり、家を追い出され——王都へと流れ着いた。
フェリにとってダフニアは特別な存在だ。
出会ったときから違って見えた。
輝いていたし、なんだか頭が良さそうだった。
話してみて自分の感覚が間違っていないことを知った。
——俺……兄貴に昔、命を救われたんだ。だから、兄貴の借金を返すためにがんばってるんだ。
借金を肩代わりさせられる——フェリがもしそんなことをされたら、とにかくぶん殴る。親だろうが姉弟だろうがぶん殴っていただろう。
だがダフニアは違う。
「恩を返す」という当たり前だがなかなかできないことをさらりとやってのけるのだ。
仁義を通すのだ。
そのときフェリは、この人は自分の人生にいなかった、まさに光をもたらす太陽のような存在だと気がついた。
ダフニアなら、自分を受け止めてくれるのではないか。
そう感じたフェリはダフニアにつきまとうようになった。
教育を受けていないフェリは、ダフニアの頭の良さ(?)もまぶしく見えたし、体よく自分は遠ざけられることはあってもその裏でダフニアが危険な仕事をしていたことを知っていた(勘違いしていた)。
なにせダフニアはたったひとりでレイチェルティリアとアティラ王女の戦いの場にいたのだから。
フェリは最初こそ、そんな面白そうなことに自分を関わらせてくれなかったダフニアを恨んだが、後になってみると危険から遠ざけようとしてくれたダフニアの優しさなのではないかと思い当たった。
そうなると、フェリの中でダフニアの株は爆
ダフニアこそが真の
チンピラどもとの大ゲンカでも血しぶき(ただの赤い液体だったが)をまき散らしながら戦うダフニアはすさまじくカッコよかった。
だが、金回りが異常によくなったダフニアの姿はあまり好きになれなかった。眉間にシワを寄せていたダフニアが笑うことが増えたので、あまり文句は言えなかったけれど。
最後はダフニアが治安本部に捕まってしまったが、フェリはこういうときこそ自分ががんばらなければいけないのだと考えた。
ダフニアを支えるのは彼の右腕である自分の仕事だと。
凹むのだって仕方がない。
ダフニアの家の前を毎朝通って、
(今日も籠もってるのかー……)
と、しょんぼりした。
でもフェリは自分から彼を急かしはしなかった。
そしてついにダフニアが立ち上がる——と本部長から聞いた。
——アイツはやべえヤマに首を突っ込んでる。お前しかいねえだろ、アイツのそばにいられんのはよ。
と言われればフェリのやる気にも火が点く。
ただ——少しだけ不満だった。
どうして本部長が先に知っているのか。ダフニアは先に自分に話をしてくれるべきだったんじゃないのか。
だけれど、
——お前を誘いにいくところだったんだ。
と言われればフェリの不満なんてすぐに消えた。
やっぱりダフニアも、自分を「頼れる右腕」だと思っていてくれたのだとわかれば心の中が温かいもので満たされていった。
半歩前を行くダフニアの横顔を見つめてフェリは思う。
「かっけぇ……」
と。
「ん。なんか言ったか、フェリ?」
「別に!」
にひひ、とフェリは笑った。
●~*
紙片に書かれていた酒場を回っていくが、マーカスのオッサンはいなかった。
最後の1軒になるころには夕闇が迫っていた。
「……今日はいないってことだよな。この情報がおかしいってことはねーよな……あの若頭に限ってガセ情報なんて持ってくるわけないし」
俺とフェリが歩いている王都16区。
なんだか治安本部員がパトロールするのがやたら目につく気がして仕方がない。
いつもと同じのはず……気のせいだと思うのだが、気になってしまう。
「あれか」
最後の店は酒場のようだ。
入ったことがないな、ここは……17区ぎりぎりの場所にあるし、なんなら店名は「草まみれ」だし。
店内からは、
「——ぎゃっはっはっはw」
「——お前そういうところだぞマジwWw」
「——大草原不可避なんだがw」
声が聞こえてきて逆毛の巣窟であることが入る前からわかる。
だけどまあ、気にせず入るしかない。
これまでの店も気にせず入ってきたし逆毛はいっぱいいたのだ。連中は俺をちらりと見ただけで後はスルーだったからここも大丈夫だろう。
「ここにいんだよな? ニアを困らせてる悪りーヤツ!」
「……お、おう」
やたら張り切ってるフェリが怖い。
とりあえずここに来るまでに俺はフェリに、「悪いヤツを捜してる。そいつのせいで俺は困っている」とだけ説明しておいた。
これ以上の説明はフェリの頭的に不可能だった。
(ん)
店のドアに手を掛けようとしたとき、俺の鼻はなんだか臭いニオイを嗅ぎ取った。
なんだっけ、これ、鼻が曲がるようなイヤなニオイ……。
「お、おおっ、ニアもやる気なんだな!?」
「え?」
「カッケー! その髪! 目も!」
ハッとして頭を触ると、整髪料をつけてべっとりした髪の毛は見事に逆立っていた。
これは……来たのか? 来たんだな? 俺の「幸運」スキルが!
いや、さすがにここのところは「幸運じゃなくて不運じゃね……?」と思わなくもないし、この件が落ち着いたらもう一度鑑定し直してもらおうとは思っているんだが、それはさておき。
「……行くぞ、フェリ」
「おう!」
すぱん! と右手の拳を左手に打ちつけたフェリがうなずく。
こういうときフェリは頼もしい。
だけどできればケンカ沙汰にならないで欲しい。
「いらっしゃい! ……ん?」
30人くらいが限度だろうという酒場で、店主が俺を見て顔に「?」を浮かべる。
店の入りは8割方といったところか。
そのうち半分が逆毛だ。
逆毛やその他のチンピラや人相の悪いオッサンたちが俺たちを見る。
だけど、「なんだ逆毛か」と興味をなくしたような顔をした。
たぶん店長も俺が——スキルを発動しているせいで毛が逆立っているので——逆毛の仲間だと思い、だけど見たことのない顔だから「?」だったのだろう。
「…………」
俺は店内をぐるり見回した。
いちばん奥の席にいる逆毛の顔だってわかる——俺はフェリとともに騒がしい店内に足を踏み入れ、こちらに背を向けている連中の顔を確認していく。
だけど——正直、見に行く前からわかっていた。
(いた……!!)
マーカスのオッサンと同じ体型のヤツは——たった1人しかいない。
奥のテーブル、こちらに背を向けている男。
早足になってしまいには駈け出したくなるのをこらえて歩いていく。一歩一歩ゆっくりと。
(オッサン、会いたかったぜ……俺を騙して飲む酒は美味いか?)
言いたいことは山ほどある。
このまま殴りかかりたいくらいだ。
そのテーブルは、人相の悪い商人仲間との飲み会という感じだ。
俺がぎりぎりのぎりぎりに近づくまで彼らの誰もこちらを見なかった。
好都合だ。
俺は、こちらに背を向けている、小太りのオッサンの肩に手を置いた。
「よう……俺だよ」
「!?」
オッサンが振り返る——。
フェリはいい子(2度目)。
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