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「幸運」スキルが人生を左右した

 ——こ、これは……。


 神父のオッサン(ふだんはパン屋を経営している兼業神父)が驚いていた。

 俺たち王国民は15歳になるとスキルを授かる。授かるっつうか、顕現するっつうのか、なんかよくわかんないけど、教会でスキルを教えてもらえる。

 ピカーッと光って、文字が浮かび上がるのだ。

 光ったのはオッサンのハゲ頭かと思ったけど、それは鉄板のジョークらしく、「これこれ、私の頭を見るでない」とかオッサンのほうから言ってきたもんだから鼻水出た。

 で、ふつうは「農業」とか「料理」とかいう感じのスキルが出る。

 その効果は、まあ、持ってるほうが持ってないよりは便利だよな、ってくらいのもので、うまく土を耕せるようになったり、目分量で調味料が測れたり、そんな感じだ。

 スキルを発動したときには肉体の一部にわかりやすい変化がある。

 身体の周囲に燐光が飛んだり、腕が光ったりである。

 レアなスキルだと、俺の田舎村でも「精密射撃」なんてものが出た男がいて、ウワサが広まると王都騎士団がやってきて連れ去っていった。そいつがどうなったのかは俺も知らん。


 ——すごいぞ、見たこともない、こんなスキルは……。


 どうやらレアなスキルらしい。


 ——「幸運」スキルだ!


 神父にしてパン屋にしてハゲ頭のオッサンが驚いていた。

 確かにな。「幸運」だぞ、「幸運」。

 俺だって有頂天になる。すごそうじゃん?

 15歳になったばかりの俺が、そんなものを手にしてしまった。

 田舎村じゃ農業やるくらいしか未来がない。たまに冒険者の機嫌を取ってゴブリンを殺させるっていう任務もあるけどな。

 そこにこれじゃん?

 勘違いしちゃうじゃん?

 俺も——王都に行って成り上がれるんじゃないか、って。

 で、親や村長にお願いして、王都にやってきたのが2週間前だったというわけだ。

 先に王都にやってきていた兄のグレン(18歳。「聞き耳」スキル)を頼れと言われて。

 そりゃまあ——。

 会うじゃん?

 兄じゃん?

 久々の再会に気を許すじゃん?

 まさか——兄が賭博にハマったせいで借金まみれだったから俺の身ぐるみを剥いで路上に放り出すとは思わないじゃん!

 で、頼れる人もなく、金もなく、なんなら服もなく、困って、露店にあった服を拝借しようとしたところ、それが「蜥蜴とピッケル」の息が掛かった露店で、俺はクソゴリラ、もとい、クソピンクゴリラに捕まったというわけ。

 さらには兄の借金も俺の名義に付け替えられていたことが発覚し、本部長はそれをネタに、「お前に大仕事だぞ~」と嬉々として——まるでバナナの山を発見したみたいに——俺に魔導爆薬を押しつけたのだ。

 今の俺はそんな状況。

 あ、フェリには「俺……兄貴に昔、命を救われたんだ。だから、兄貴の借金を返すためにがんばってるんだ」って言った。

 そのときには俺の目にはフェリが美少女にしか見えなかったし、まさか二桁以上の数字を計算できない脳みその持ち主だとは思わなかったからな。


「ていうか『幸運』は?『幸運』スキルはいつ仕事したんだ!? してないよな!? スキルが仕事してこれだったらヤバイんだけどォ!」


 スキルの発動条件みたいなのはよくわからない。「料理」とか「農業」ならそれをやってるときに勝手に身体の一部が光る。人によっては声が高くなったりするらしいけど、それはまあともかく。

「幸運」スキルを発動させるってなんだよ?

 宝くじ?

 もちろん買ったわ。フェリに金を借りるという屈辱の上でな……!


「宝くじも当たらなかったよなー。あれ? あたし、ニアにいくら貸したんだっけ」

「……300イェンだよ」

「あーそっかそっか」


 2桁以上の数値にめっぽう弱いフェリならいくらでも丸め込めるのだけど、俺はそれをしない。

 もちろんたかだか300イェン程度でそんな情けないことできるか、ってのもあるんだけど、それ以上に、


「で、ニアが持ってるそれなんだ?」

「うおあ! さささ触るな! お前、スキル発動してんぞ!」


 フェリの指先に点った赤色の光。

 これはフェリのスキルだ。

 厄介なことに——だけど裏ギルドでは重宝されることに——フェリのスキルは、


「たいしたことないっしょ。あたしのスキルなんてただの『破壊』だから」


 触れたものをぶっ壊すスキルだ。

 ……そんなアホな、と思うかもしれんが、マジだ。

 そんな危ないヤツを相手に危険な橋は渡れない。俺は家族だって信用しないと決めたんだからな。

 しかも「破壊」スキル発動は自分でコントロールできないらしい。

 間違って魔導爆薬を「破壊」して、引火でもしようものなら俺もフェリも消し炭だ。


「ぶっ壊されたら困るもんが入ってんだよ!」

「ニ、ニア……まさかお前、なんかとんでもねーすげーことやろうとしてんのか!? あたしも連れてって!」

「……バカ言うんじゃねえ。これは俺がやるべき、俺だけの仕事だ。半人前のお前を連れてなんていけねーよ」


 2桁以上の計算ができず、コロッと騙されそうで、触れたものを時々ぶっ壊す——歩く時限爆弾みたいな女を連れて歩けるかよ。


「カ、カッケー! ニア、カッケー!」


 なんか感動してる。「あたしも、ニアに負けないくらいの漢になる!」とか言ってる。どうぞ勝手になってくれ。

 でもお前、女だろ。

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