鈍感リアライズ
柊華院駆という男は、神様みたいな存在だった。
この国の、名だたる家からの子息やら子女やら、まあいわばお金持ち学校で、生徒会長を務める権力をその手に携えた生徒。
そんな存在は、もれなく文武両道で、眉目秀麗、八方美人(これに関しては本人に言ったらデコピンされた)で、さらに性格良好。
彼が、うんと言えば、天気だって変えられる。そんな存在なのだ。
だから、こそ。
「それで、君はどういうつもりなの?」
「…………!?!?!?!?」
なぜ、私はそんな彼に、いわゆる壁ドンという状態で詰められているのでしょうか。
「つもり、とは?」
「わかりやすく言えば、俺は今、君をデートに誘ったわけじゃん?」
デート。
デート????
確かに、休日に、一緒に遊びにいく計画を━━今回は夜にイルミネーションを観に行くらしい━━たてていたわけだけれど。
「男女が、これまでも、六回も二人っきりで、それなりの場所にお出かけして、それなりに遊んできたわけだけど」
まあ、それはそうだ。
この前、展望デッキに登った時に、迷子の子どもを回収した時は大変だったね。
「なかなかに、ややこしかったね…………なんか亡国の王子の名前まで出てきたしね…………。って、そうじゃないんだよ」
彼は、ぐいっと私に顔を寄せてくる。
「俺は今、一緒に遊びに行こうって、誘ったよね」
「うん」
「そこで、なんで関係のない奴の名前まで出してくるかなあ」
いや、だって。
「二人でいつも遊んでたら、変な噂たっちゃうじゃないですか!」
なんで、超絶盛大に溜息を吐かれたのか。
「こんな事言いたくはないんだけど。手遅れだよもうとっくに」
「手遅れなんですか!?」
そんなバカな。
いわゆるデートスポットと言われるところに、男女とはいえ友人と遊びに出かけて。確かに、あーんくらいはしてたけど。
「これくらいは、友情の範囲じゃないですか、一般論的に」
「一般論かは議論が必要だな……」
「そりゃ、あなたと私の間だと、生まれ育ちで一般に差があるのは当然だとは思いますけど……!」
「そこまで高度な話にすらなってないよ!」
息を荒げる彼。こんな姿を見るのは初めてかもしれない。
「じゃあ、分かった。 一般論について話そうか。 今は何月?」
「それは、12月ですが……」
「そうだね、12月だ。ここに、俺達の認識にズレはないわけだ。じゃあ、来週の日曜日は、何日?」
出来の悪い子どもをさとすように話されている気がする。
心外だ。
ちゃんとできる子ということを示さないと。だから、私は大きな声で答えた。
「24日です!」
「この距離でそんな大声出さなくても聞こえてるよ、君の声は。じゃあ、一般的に24日は、クリスマスイブという日という認識も間違えてないよね?」
それはそうだ。何を当たり前のことを。
「じゃあ、クリスマスイブの夜に、一緒に遊びに行く、仲の良い男女は、どんな関係だと一般的には、言われるかな?」
「カップルです…………」
客観視すると、なんかこう、言い逃れのしようもないといいますか。
私のすぐそばに、整いすぎている彼の顔。
よくよく考えると、近すぎやしないか?
そう意識したせいか、私の体温が一気に上がっていく。
「そういうことで、今度は、絶対に、二人でデートしたいんですけど?」
「………………うん」
「よろしい」
そう言って、ふわりと微笑う彼は。
決して、神様なんかじゃなかった。