<< 前へ  次へ >>  更新
36/36

第三十六話 表彰

 それから三日間ほど……俺はアメリカを動けずにいた。

 理由は一つ。魔力が全く使えなくなっていたからだ。


 どうやらダンジョンとのシンクロ率を上げて戦うと、その後に「クールタイム」なるものが発生し、しばらくの間MPが0になってしまうらしい。

 クールタイムの長さは、シンクロ率に比例して長くなるのだとか。

 降臨ボスとの戦いが終わってから一時間後にクールタイムが始まり……MPは「0/0」の表示になってしまった。


 アンビリカルケーブルを接続しようが、本人がダンジョンに入ろうが、パーフェクトアイギスどころか消費MP1の真・マナボールの発動すらままならない。

 ちなみに魔力が0とはいえ、身体がダルいとかは全くなく、弊害は魔法が使えないことのみだ。


 飛行機で日本に帰ることも考えたが……不幸中の幸いというか、シンクロ率1000%の場合のクールタイムはせいぜい三日ということだったので、俺は回復を待ってから日本に走って帰ることに決めた。

 まあぶっちゃけ、あれだけの技の効果の割に反動が「三日間戦えないだけ」で済むのはむしろ、かなりマシな方なのかもしれない。

 それでも……最低限のシンクロ率500%でも36時間のクールタイムが必要になる以上、マナロファージのVを上げるのはなかなかに難しそうだが。


 とまあ、せっかく時間もできたので……俺はこの三日間を、投資の勉強に充てていた。

 これまでの報酬でそこそこ資産もたまってきたものの、ダンジョン攻略の方が優先度が高いと思い後回しにしていたが……そろそろ資産運用とかも考えないとな、と頭の片隅では思っていたのだ。

 そこにちょうどダンジョンに入れない期間ができたので、今しかないと思い、情報収集に走ることにしたわけだ。


 もうFXで100万溶かした時みたいなヤラカシはコリゴリだからな。

 今回は利回りとかよりも、とにかく堅実さを重視した運用方法を徹底的に押さえることにした。


 幸いにも、ライザーが知り合いの敏腕投資家(情報商材を売ってるようなパチモンじゃなくて、普段は表に出てこず粛々と稼いでいるモノホンだ)を数人紹介してくれたので、俺は信頼できるソースでばっちり勉強することができた。

 そんなこんなで、三日間はあっという間に過ぎ去った。



 そして……運の良いことに、三日間アメリカに滞在するという選択は吉と出た。

 というのも、降臨ボスの討伐に関して、アメリカで表彰が行われることになったのだ。


 表彰されるのは、俺及び「英雄の助っ人」の称号を獲得した者となるらしい。

 表彰の当日……俺はなっちさんたちと共に、会場であるハリウッドボウルに向かった。


「でっっ……けえぇ……」


 会場に着くなり……俺はそのあまりの広さに言葉を失ってしまった。

 いや、一応下調べはしてきたんだがな。

 スマホの画面で見るのと、実際に現地で収容人数17500人の大舞台を見るのとでは、差がありすぎるのだ。


 あの舞台に主役として立つ……のか。

 しかも観客席は満杯と来てやがる。

 国民的アイドルのコンサートかよ。なんか全然実感湧かないぞ……。


 そんなことを考えている間にも、開始時間は刻一刻と迫る。

 ついに俺たちは、ステージの上に姿を現す時間が来てしまった。


 まずはライザーやなっちさんなどが、名前を呼ばれて舞台に上がる。


「此度の危機を救ったことに際し……報奨金500万ドルを贈呈する」


 そんなアナウンスと共に、彼らは「$5,000,000」と書かれたパネルを受け取った。

 それと同時に……客席の方から歓声が上がる。


 ……500万ドルって、レートにもよるけど日本円にして5〜6億くらいだよな?

 マジか。そのレベルいくのか。

 てことは俺の場合……。


(……ゴクリ)


「では最後に……今回の主役。コウジ フルヤ!」


 金額に動揺している間にも……俺の番が来てしまった。


 おそるおそる、檀上へと歩みを進める。


 もっとこう、「ヘイヘーイ!」みたいな感じで出れたら良いんだろうけどな。

 流石にこのプレッシャーの中、そんなパフォーマンスができるほどこういう場で場数を踏んでないしな……。


 まあ、なるようになれと思いつつ、ステージ中央に躍り出る。


「世界の救済に際し、一際大きな活躍をしたことを讃え……報奨金3000万ドル、及びノーベル平和賞への内定を進呈する!」


 俺の報奨金は……桁が一つ違った。


 ま……マジか。

 だいたい35億円相当……。

 ……ってか、ノーベル平和賞「内定」って何だ!?

 まさかノミネートをすっ飛ばすってか……?


 色々頭が混乱しそうになる中……俺は「$30,000,000」と書かれたパネルを渡された。

 と同時に……今にも鼓膜が破れそうにならんばかりに、これまた桁違いの歓声が鳴り響く。


 一周回って頭がボーっとしてきたことで……色々と今後のことが頭をよぎった。


 例えばこの報奨金を、オールウェザーポートフォリオ(全世界株30%、債券55%、金とコモディティがそれぞれ7.5%の分散投資。インフレ、デフレ、好況、不況どれに転んでも一定のリターンが出る手堅い手法)で運用して……税引き後利回りが5%くらいあるとしたら、それだけで年収1億5000万だよな。

 ……あ。アーリーリタイア完了じゃん。


 必死にバイトで軍資金100万貯めていた頃、夢に見ていた不労所得生活。

 その100万をFXで一瞬で溶かし、手に入らぬ物と絶望した不労所得生活。


 ついに……辿り着いたんだな。

 なんというか、凄く肩の荷が降りた思いだ。


 とはいえ……別にダンジョンを攻略する日々、別に苦痛だったかというとそんなことはなくて、むしろ結構楽しかったしな。

 これまでみたいに、お金のために必死に……って感じではなくなるだろうけど、今後もマイペースにたまにはなっちさんとダンジョンに遊びに行くくらいしようか。


これにてこの話は一旦完結となります。

長い間更新を空けてしまったにもかかわらず、最新話まで追っかけてきてくださった方々、本当にありがとうございましたm(_ _)m


……と、言っておいてアレなんですが、もし奇跡的にアレがアレすることが出来たら、ワンチャン再開もあるかもしれません。

(アレが何を意味するのかは具体的に書くと多分怒られるので書けませんが、一つヒントを言うとすると、タグを見れば「あっ…(察し)」となるはずです。どうしても気になる方は確認してみてください)


重ね重ね、今までありがとうございました。

<< 前へ目次  次へ >>  更新