第三十五話 降臨ボスとの戦い──3
<ダンジョンとのシンクロ率が200%を突破……>
<ダンジョンとのシンクロ率が300%を突破……>
……これ、どこまでいけるんだろう。
たぶんだけど、「シンクロ率」とやらが上がっている間は、ずっと魔力を込められ続けるんだよな。
でもこれ……意味あるんだろうか?
シンクロ率が100%上昇するのにかかる時間と、次の真・マナボールを撃つまでの時間だったら、明らかに前者の方が時間がかかってるんだよな。
つまり間違いなく秒間ダメージ量は落ちている。
まあそれでも、通常の真・マナボールの連射では敵の障壁を破れない以上、一撃の重さにでも賭けてみるしかないわけだが。
際限なく魔力を吸収する真・マナボールを見ながら、頭の中では色んな考えが渦巻いた。
と、そこで……あるシンクロ率を境に、状況はまた一変する。
<ダンジョンとのシンクロ率が500%を突破……>
そんな音声が聞こえたかと思うと……真・マナボールの半径が、急激に従来の三分の一くらいに減ったのだ。
と同時に、その周囲の空間が、歪んで見えるようになった。
エネルギーを集約しすぎて超重力でも生んでいるのか?
まるでブラックホールみたいだな。
その割には、自分の身体が真・マナボールに引き寄せられる感覚なんかは一切無いのだが。
<ダンジョンとのシンクロ率が1000%を突破……>
その後も魔力を注ぎ込み続けていると、ついにシンクロ率は1000%の大台に乗った。
……そろそろ撃ってみるか。
根拠は「キリがいいから」程度でしかないが、なんとなくそろそろ効きそうな気がしたので、俺は真・マナボールを降臨ボスに放ってみることにした。
これで効かなかったら、更に高いシンクロ率まで上げてもう一回放てばいいだけだしな。
『フン、通リ一遍ナ攻撃シカ能ノナイ奴メ』
降臨ボスは鼻で笑いながら、先ほどと同じ結界を展開する。
が……その結界は、まるで薄氷をハンマーでたたき割ったかのように一瞬で砕け散った。
『……!?』
困惑している降臨ボスに、圧縮された真・マナボールが肉迫する。
避ける間もなく、それは降臨ボスに直撃し……そしてまるで白血球が異物を貪食するが如く降臨ボスにまとわりつき始めた。
あれ、確実にマナボールじゃない何かだよな。
あんな挙動、見たことないぞ。
『クッ……離セ!』
降臨ボスは、自身にまとわりつくエネルギー弾を必死に引き剥がそうとするが……もがけばもがくほど、その拘束は強まるばかり。
それだけでなく……エネルギー弾は、高電圧・大出力の放電を始めた。
『アギャアァァァァァ!』
断末魔の叫びば鳴り響く中……視界は降臨ボスをフィラメントに使った贅沢な白熱光によりホワイトアウトする。
やっと視力を取り戻す頃には、降臨ボスは炭化して真っ黒焦げになっていた。
そんな降臨ボスの焦げ跡を、まとわりついたエネルギーはむしゃむしゃと食べ尽くす。
そして、エネルギーは一点へと集約されていき、そのまま姿を消した。
数秒後。
俺の脳内に、こんな音声が鳴り響いた。
<古谷浩二はレベルアップしました>
<スキルの創造を確認。「マナロファージ」と命名します>
<称号:「人類の救済者」を付与します>
<称号:「賢者」を付与します>
今度こそ、完勝だ。
第三形態は無かったみたいだな。助かった。
レベルアップもしたし、称号も降臨ボスを倒した者らしい名称だし、これは撃破の証拠と見て間違いないだろう。
……一つだけ、気になるアナウンスもあったが。
「スキルの創造を確認」とは何ぞ?
ま、ステータスを確認するついでに見てみるとするか。
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古谷浩二
Lv.1376
HP 260994/260994
MP ∞/29920
EXP 9450/275200
●スキル
<アクティブ>
・真・マナボール
・階層完全探知
・エクストラハイヒールV5
・パーフェクトアイギスV4
・階層間転移
・真・マナ譲渡
・アンビリカルケーブル
・マナロファージ
<パッシブ>
・ダンジョン内魔素裁定取引
・生き残り
●装備
・熾天使の羽衣
・ガトリングナックル
・時止めの神速靴
・経験値豊穣の指輪(特上)
●称号
・無属性を極めし者
・理不尽を打ち破りし者
・特殊攻略家
・人類の救済者
・賢者
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あんだけ強い敵を倒しただけあってか……レベルは1.5倍以上にまでなっているな。
HPもMPも従来の3倍くらいになっている。
鶏が先か卵が先かみたいな話になるから考えるだけ無意味だが、このレベルがあれば今回の戦いも多少は楽だったんだろうな……。
ま、そんなことよりスキルと称号を確認するか。
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●マナロファージ
危険な生物を徹底的に貪食する意思を持った魔力の塊。
消費MPは最低50000で、MPを多く込めるほど強力な敵をも貪食できるようになる。
ダンジョンとのシンクロ率が500%以上でなければ使用できない
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まずマナロファージの方は、こんな説明がなされていた。
まあ……さっきの戦いで見たまんまの効果って感じだな。
ダンジョンとのシンクロ率が500%以上必要ってことは、仮に今後MPが今の二倍以上になったとしても、ダンジョンとシンクロせず素で発動するのは不可なんだな。
じゃ、次。
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●人類の救済者
降臨ボスを討伐した者に贈られる称号。複数人で討伐した場合、貢献度が一番高い者がこの称号を手にし、それ以外は「英雄の助っ人」という称号を得ることになる。
補正値:HP+300%、MP+600
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人類の救済者は、こんな感じだった。
補正値は、今まで手に入れたどの称号と比べてもダントツだな。
説明を見る限りだと……なっちさんとかが「英雄の助っ人」を手に入れてる感じになるのかな。
後は俺たちが来る前に戦っていたライザーとか、分身のスキルスクロールを見つけた人とかもその称号を手に入れてそうだ。
「『英雄の助っ人』……なんか凄い補正値の称号が手に入ったんですけど……!」
流石に「人類の救済者」ほどではないだろうが、なっちさんの反応を見る限り、あちらもそこそこ高い補正値の称号のようだ。
称号といえば……あともう一つ、「賢者」とかいうのも手に入れたんだったか。
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●賢者
スキルを創造した者のみが手に入れられる称号。
補正値:MP+700
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また「スキルを創造」って文言が出てきたな。
マナロファージ、本当に元から存在してたんじゃなくて、真・マナボールを圧縮してたらその延長線上でできてしまったスキルって扱いなんだろうな。
これまた補正値が凄まじい。
補正がかかるのはMPのみだが、700って。
そんな感じでステータスに見入っていると……不意に、身体が持ち上がった。
……何事だ!?
「「「「バンザーイ!!!」」」」
驚いて下を見ると……俺は集まってきたVIP探索者達によって胴上げされていた。
「キミのおかげで助かったぜ!」
「最後の攻撃、マジで神々しかったぞ!」
……さすがノリがアメリカ。
しばらく俺は、胴上げに揺られていたのだった。