第三十二話 SIDE:世界初のVIP探索者
「あと1分か……いよいよだな」
「降臨ボス」とやらを封印している結晶のタイマーが「0:01:00」を切ったところで、俺はそう呟いた。
今、この場には……国中から、集まれる限りのVIP探索者が集合してきている。
……たとえどんな魔物が出てきたとしても、この街、そして一般市民には傷一つつけさせない。
俺はそう決意を新たにしつつ……マジックバッグから、様々な
俺の名はライザー。
世界初のVIP探索者だ。
いや……どちらかといえば、VIP探索者という制度が作られるきっかけとなった人物といった方が正しいか。
というのも……俺は世界中でただ唯一の、ダンジョン産の魔石を資源として有効活用できる人間なのである。
俺はダンジョンが出現したと同時に……とあるスキルを入手した。
それは「アルティメットクラフト」という、俺のユニークスキルだ。
このスキルでできるのは……魔石を用いて、様々なアイテムを作り出すこと。
俺はこのスキルを用いて、魔石のエネルギーを電気や水に変えるアイテムを作ったり、探索者にとって有用な武器・防具を作成したりできるのである。
ぶっちゃけ……ダンジョン産の魔石は、俺のこのスキルがあるからこそ有用な資源としてみなされているといっても過言ではない。
魔石など、そのままの状態では、ただの石ころと変わらない。
それが秘めるパワーを、人間にとって有用な資源に変換する手段が確立されたからこそ、魔石に値段がつくようになり、ダンジョン探索が仕事として成立するようになったのだ。
俺がそんなアイテムを発明してからダンジョン学会が設立されたし、強力な探索者に対する優遇措置を、各国政府が真剣に検討するようになりだした。
ダンジョン出現後の世界は、俺が礎を築いた。
それくらいは言い切っても、まあバチは当たらないだろう。
そして……俺が作れるのは、魔石を社会インフラに変えるアイテムだけでなく、探索者用の武器や防具もあるわけだが。
その中でも特に、VIP探索者という制度の設立に大きな追い風を与えたのは、「経験値豊穣の指輪」だ。
これを一個作るには、原価にして8000万円分くらいの魔石を消費してしまうわけだが……これがあれば、普通は何があっても固定である獲得経験値量を、二倍に増やすことができてしまう。
これを学会に話すと、学会員たちは「これがあれば、強い探索者の強さをより加速させられる」とこのアイテムを絶賛したもんだ。
消費魔石量の多さから、あまり多く販売することはできないということで、「経験値豊穣の指輪」はランク5以上のVIP探索者に支給するルールとなった。
ちなみに俺は、更に五倍の魔石を消費して作る「経験値豊穣の指輪(特上)」を持っているわけだが。
これについては、更に条件が厳しく——ランク6の探索者のみが持つことを許されるアイテムとなっている。
ま、こんなところが、俺とダンジョン産業の発展のあらましってところだ。
だが……もちろん、俺に作れるのは、たったそれだけの種類のアイテムというわけではない。
俺が作れるアイテムの中には……おそらくどんな魔法でも絶対に出せないような、高い威力を誇る攻撃アイテムも多数あるのだ。
その殆どは、様々な探索者に売り渡してきたが……一部、中でも一線を画す高火力を誇るものは、俺自身で使おうと思って大事に保管している。
つまり俺は、世界唯一のアイテムメーカーであると同時に、世界中で最も高い戦力を持つ男でもあるというわけだ。
「降臨ボス」とやらを倒すのには、そんな俺が間違いなく適任だろう。
「まずは……これでいくか」
そう呟きながら、俺はパイプを取り出し、「アルティメットクラフト」で特殊効果を付与した葉っぱを中に詰めた。
そうしていると、ついにタイマーは「0:00:00」となり、降臨ボスを封印していた結晶が崩壊する。
俺は葉っぱに着火すると……大きく息を吸い込んで、盛大に煙を吐き出した。
煙は上空に昇ると……ドラゴンの頭を形作る。
そしてその煙製即席ドラゴンからは、光のブレスが飛び出した。
ブレスは降臨ボスに直撃し、降臨ボスの周囲では大爆発が起こる。
これが今のアイテム——「ドラゴンヘイズ」の効果だ。
「ドラゴンヘイズ」は、ドラゴンを召喚し、一発ブレスを放ってもらうことができる、煙草型のアイテム。
このブレスは魔物にしか効かないが、もし人間や物体にも効いていたら、山一つは消し炭にできてしまう計算となる代物だ。
「降臨ボス」の強さは未知数だが、仮に即死とまではいかずとも、致命傷くらいは確実に負わせられるだろう。
そう思い、俺はブレスの余波が晴れるまでを見守った。
だが……実際、降臨ボスの姿が再度露になると。
俺はその様子に、目を疑った。
致命傷どころか……傷一つついていないのだ。
もし魔物に感情があるとしたら……その目つきは、「それでも攻撃したつもりか?」と言わんばかりだ。
「あ……あり得ねえ」
「今の、ライザー様の極秘兵器だよな? それで傷一つつかねえって、デタラメすぎだろ……」
その様子を見て……俺の仲間のVIP探索者たちも、震えだす始末だ。
……いかん。こりゃ出し惜しみなんてしてないで、サッサと最高傑作を使わねば。
そう思い、俺はマジックバッグからまた別のアイテムを取り出した。
そのアイテムに、ありったけの魔力を流すと……アイテムから黒い煙が立ち上り、降臨ボスの真上に積乱雲を形成する。
「光あれ」
俺がそう呟くと……その積乱雲から、降臨ボスに稲妻が降り注いだ。
このアイテムは「インスタントケラウノス」。
全能神ゼウスの怒りを一点集約させるというコンセプトの、正真正銘唯一無二破壊力を誇る雷を降らせるアイテムだ。
過去に一度だけ、探索者全員にはけてもらった状態で、ダンジョン内で試運転したことがあるのだが……その時は、階層3つをぶち抜いてその階層内の魔物を全滅させてしまった。
「ドラゴンヘイズ」も他の探索者の追随を許さない威力のアイテムだが、「インスタントケラウノス」はそれとも更に次元が違う。
これで致命傷が与えられないようなら、もう世界が終わったといっても過言ではないだろう。
まあ、そんなことにはならないのだが。
そう思い、俺は今度こそ安心して、降臨ボスの様子を見守った。
だが……やっと眩しさが落ち着き、降臨ボスの姿が見えるようになってくると。
俺は、開いた口が塞がらなくなってしまった。
降臨ボスは……依然として、無傷のままだったのだ。
流石に先ほどと違い、全く効いていないわけではなさそうだが……それでも、ちょっと表情を苛つかせているくらいだ。
いや……だからこそ、状況は更にマズいと言えるかもしれない。
降臨ボスは……イライラ交じりに口を開いたかと思うと、その口内でどす黒い魔力球を形成しだしたのだ。
——見ただけで分かる。
アレが地上に到達したら俺たちは全滅、そして街は完全に崩壊する。
絶対的な彼我の差を感じ、俺は地面に膝をついてしまった。
あんなものの前では、ランク6の矜持など全く約に立たない。
絶望の中……俺はただ単に、ボーっと空を眺めるしかできなかった。
対策を考えるでもなく……ただただ気を失わないのが精いっぱいというレベルだ。
だが……そんな中、俺はもう一つ、あり得ない光景を目にすることとなった。
一体誰かは知らないが……結界を蹴りながら、超高速でこちらに向かって飛んできているのだ。
しかもよく見ると……彼らが足場に使っているのは、「パーフェクトアイギス」。
一体どこのどいつが、たかだか足場に、最上級の結界魔法を展開するというのか。
何もかもよく分からないが……一つだけ、分かることがある。
「降臨ボス」を倒せる唯一の希望があるとしたら、それは彼らだけだということだ。
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