第三十一話 ダンジョンを封鎖された恨み
「あー、確かにそれっぽいですね」
なっちさんのスマホに映し出された投稿内容を見て、俺も彼女の意見に賛同した。
「ダンジョンの外に魔物が出てくるなんて聞いたこともありませんし、『封印状態』ってアナウンスとも一致してますもんね」
「ですよね……」
などと話していると……その「ワシントンD.C.在住に人」とやらのアカウントから、新たな投稿があった。
その投稿に映っていたのは、先ほどのドラゴンを封印している結晶から、「8:59:59」から1秒ずつ減っていくタイマーのホログラムが投影されだした様子。
新たな状況証拠を加味しても、これが「降臨ボス」とやらなのは間違いないようだ。
……ダンジョンが封鎖されたの、普通に考えてコイツのせいだよな。
これからもっともっと稼ごうって時に、なんて最悪なタイミングで邪魔してくれやがる。
「なんだこいつ、ぶっ飛ばしてやろうか……」
せっかくの快進撃を想定外の方面から邪魔してきた張本人に対するイライラから、思わずそんな独り言が口をついて出る。
まあ、無理なのは分かっているが。
俺そもそもパスポート持っていないので……対象がアメリカにいるんじゃどうしようもないからな。
だが……そんなことを考えていると、なっちさんはこう提案してくる。
「じゃあ、一緒に参戦しますか? ガチョウ——古谷さんが参戦してくれるなら、仮に降臨ボスがとてつもなく強かったとしても、アメリカの被害はゼロに抑えられると思います!」
どうやらなっちさんは、実際に行く気満々のようなのだ。
ユーザー名を途中で本名に言い換えたのは、受付で振り込み口座の話をする時横で聞こえてたからだろうが……この際それはどうでもいい。
問題は、俺がパスポートを持っていないということを知らないなっちさんを、余計に期待させてしまったことだ。
「あの……でも俺、パスポート無いんでそもそも入国が……」
するとなっちさんは、キョトンとした顔でこう言った。
「……え? VIP探索者の場合、国家間の移動には原則何もいりませんよ?」
……
……
……マジか。
俺、いつの間にか、海外旅行自由にできるようになってたのか。
「……それは初耳でした」
「VIP探索者になる際、最初にダンジョン学会から来る手紙に書いてあるはずなんですが……もしかして、そういうの読まないタイプですか?」
「ああ、はい」
やっぱりああいうのはダルいと思っても、ちゃんと読んどかないといけないな。
他にもこんな感じの超ド級の福利厚生(……パスポート要らずが福利厚生に入るかは疑問だが)があるかもしれないし。
などと思いつつも、俺は一連の話を聞いて、完全に行く気になってきた。
降臨ボスとやらをボコりたいのはもちろん……俺は以前から、海外旅行に興味は持っていたからな。
「じゃあ、ちょっくら倒しに行ってみますか。アメリカ旅行も兼ねて」
「ええ! ……って、この状況で旅行気分ですか……」
というわけで俺たちは、どうやって行くかなどについて話し合うことにした。
◇
「まず……移動手段なんですが。私一人なら、旅客機で移動するより他なかったですが……古谷さんと一緒なら、ジョギングの方が良いと思います」
計画を立てるために入った喫茶店にて……なっちさんは開口一番、そんな提案を出した。
「……ジョギング?」
「ああもちろん、結界を足場に飛んでいくってことですよ。……移動速度アップのバフくらいなら、私も協力します」
なんか絶対にあり得ない選択肢が聞こえた気がしたので聞き返すと、なっちさんはそう補足した。
……なるほど、パーフェクトアイギスの上を走っていこうというわけか。
それを聞いて俺はまず、現実的にその移動法が可能かどうかを頭の中でシミュレーションしてみた。
まず……魔力については、問題ないな。
俺が張った足場を踏んでついてくるならなっちさんの魔力消費はゼロだし、俺自身の魔力も必要なら真・マナ譲渡で回復できるので、枯渇のリスクは全く無いというわけだ。
そして移動速度も……なっちさんに会う前ですら新幹線以上には出せたんだし、ダンジョン攻略によるレベルアップとなっちさんの移送速度バフがあれば、旅客機以上の速度も普通に出そうだ。
残るはアイテムだが……これに関しても、おそらく問題ない。
「熾天使の羽衣」に関しては、なっちさんは会う前から存在を知っていたし、おそらく20階層のフロアボスで同じ物がドロップしていただろうからな。
そして「時止めの神速靴」に関しては、ダンジョン攻略中に彼女も履いていたので、持っているのは明白だ。
……ってことは、行けるのか。
「そうですね、それで行きましょう」
ということで、俺はそう返事をし、移動方法についての話は解決となった。
「じゃあ次は……ご飯ですか」
そして俺は次に、そう切り出した。
アメリカまで飛んでいく途中では、絶対に腹が減るだろうが……かといって、途中で立ち止まって飯を食うというのもなかなか難しいだろう。
「おにぎりでも買って、走りながら食べませんか?」
と思っていると、なっちさんも同じように考えていたようで、「走りながら食べれるもの」にしようと言った。
「そうですね」
……まあよく考えたら、おにぎりだって走りながら食べるものではないのだが。
「熾天使の羽衣」を着るなら一分に一歩くらいのペースで十分なのを思えば、現実的な話と言えるだろう。
「じゃあ、いきましょうか」
「はい!」
というわけで、俺たちは喫茶店を出て、隣のコンビニで食料を買った。
そして時止めの神速靴を履いて熾天使の羽衣を羽織ると、移動速度のバフをかけてもらって出発した。
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