第二十五話 バフ永久機関作戦
「エクストラハイヒール」
とりあえず俺は……なっちさんに、回復魔法をかけてみた。
最上級の回復魔法、それもV5だ。
どんな状態異常であれ、これで回復しないわけはないだろう。
と、思ったのだが……なぜか、なっちさんの硬直が解ける様子はない。
……これはマズいのでは。
想定外のトラブルに、俺は焦りを感じ始めた。
だが……しばらくすると、それは全部杞憂だったことが判明する。
「な、な、な、何だったんですか今の連射は!?」
彼女は天井に頭がつきそうなくらい飛び上がりつつ、そう叫んだのだ。
……石化とかではなく、単に驚いていただけだったか。
イジワルミミックの時、たまたま通りすがった人も同じような感じだったし……この戦闘スタイル、初見だと結構インパクトが強いのかもな。
まあ、問題なさそうで何よりだ。
エクストラハイヒールは打っただけ無意味だったが、そんなのは些事だしな。
などと思っていると、彼女はこう続けた。
「まず何でマナボールで戦っているのかも分かりませんし……あんな威力であの連射って、いったいどんな魔力量してるんですか! しかも、バフも一切無しの素の状態で撃破って……私、夢でも見てるんですかね……」
そしてそう言いながら、天を仰ぎ見た。
「別に俺、特別魔力量が多いわけじゃありませんよ。ただ単に、魔力が即座に全回復するパッシブスキルがあるので、今の連射ができただけです」
一応俺は……軽くカラクリを説明しておくことにした。
「あと威力も……俺が撃ってるのは真・マナボールなので、単位魔力量あたりの魔力効率はマナボールの割には良いんです。だから消費魔力量は、なっちさんの想像の十分の一くらいかと」
そして俺は、そう続けた。
「……真・マナボール?」
「なんかマナボールをV5まで進化させたら、特殊な進化条件をクリアしたみたいでそのまま更に一段階進化しちゃいました。威力はマナボールの十倍だそうです」
「ぶ、V5って……。でも確かに、あんな戦い方してたらなんかいけそうですよね……」
真・マナボールについて聞かれたので答えると、なっちさんはさらに遠い目をした。
あとは……バフか。
俺、今まで「数撃ちゃその分ダメージ量が増える」って考えでここまできたもんだから、そういう発想にならなかったんだよな。
これについては……むしろなっちさんから、色々教えてもらうべきではないか?
そう思いかけたが……その時。
俺はここへきて、急に試してみたいことを思いついてしまった。
「なっちさん。そういえば……『ロータリーフレイム』を使う前にやってたバフって、他人にもかけられるんですか?」
……そう。
あのバフを、俺にかけてもらえるなら……更に奥の階層を、今まで以上に楽に突破できるのではと思ったのだ。
これなら、別に俺がバフを習得しなくとも、即座にバフの世界を体験できる。
稼ぎを山分けにするとでもしたら……なっちさんからしても、悪い条件とは思わないだろう。
この方法でなら、お互い一人一人では絶対に稼げないような額を、双方得られるだろうからな。
「え? ……あ!」
俺の質問に対し……なっちさんは一瞬キョトンとしたが、その後言いたいことが分かったらしく、手をポンと叩いた。
「確かに……バフ無しであんなことができてしまうなら、バフありだとどんなえげつない事が起こるのか見てみたいです! 早速試してみましょう!」
そして……説得するまでもなく、彼女も乗り気になってくれた。
「フレイムエンハンスは、火属性魔法でないといけないので……代わりに無属性魔法にもかかる、シンプルエンハンスを使いますね。ユニークエンハンスは、希少性が高い魔法にしか効果がないのですが……真・マナボールなんて聞いたことないので、おそらく成功するでしょう。パワーコンプレッションとスパイラルアクセラレーションは、攻撃魔法であれば必ず威力が増すので、これもかけられます!」
「……それぞれどれくらいの効果なんですか?」
「シンプルエンハンスは、威力が1.2倍になります。ユニークエンハンスは、対象魔法の希少性次第で倍率が変わりますが……使い手が他にいない魔法なら、4倍に威力が上がります。パワーコンプレッションとスパイラルアクセラレーションは、それぞれ威力が2.5倍ですね……」
「……それ全て乗算ですか?」
「はい!」
更に聞いてみると、どうやら俺の真・マナボールは、合計で30倍の威力になる計算だった。
……30倍て。
もはやそれ、完全に別物になるだろ。
事と次第によっては……このまま一気に、30階層まで降りてそこを拠点にすることになってしまうかもしれないな。
……あ、そうだ。
一番大事なことを聞いておかないと。
「ところで……バフの効果時間って、どれくらいなのですか?」
「全部2分間ですね。まあ、なんで……一体倒すごとに、一回はバフのかけ直しが必要な感じですね……」
「……全部で何発くらい使えるんですか?」
「そうですね……普段の私の場合、消費MPの大半はロータリーフレイムに費やしてるので、バフに徹するなら結構いけます! 50回くらいはいけるかと!」
そう、俺が気になったのはバフの総効果時間だ。
バフ、強いのは強いが消費MPが甚大とかだったら……その状態を継続して戦うのはなかなか難しくなるからな。
このバフ作戦が本当に「うまい話」かどうかは、全てそこ次第だったのだ。
だが……2分×50回もいけるとなれば、かなりの時間バフ状態を継続できる。
これなら、かなりの数の魔物を狩ることができるだろう。
「でも……正直ガチョウさんとなら、私の総魔力量は関係ない気がします。実は私、ずっと売りそびれてた「マナ譲渡」のスキルスクロールがあるんですが……例えば、それを使ってもらって、ガトリングナックルで私の魔力を補充してもらえれば、もう永久機関の完成ですよね?」
……あ、バフの回数際限なくなった。