第二十二話 初代ランク6さんの正体は……
「確かに……この人であれば、連絡を取ってみるのも悪くないかもしれないですね。ちなみに連絡先は、ヒwiヒヒerで取ればいいんですか?」
「ヒwiヒヒerでも構わないが、VIP探索者専用スマホアプリのフレンド登録機能を利用するのでもいいぞ。向こうから頼まれてるんだから、探索者コードならこの場で教えてやる」
リクエストを許可する旨を伝え、ヒwiヒヒerでいいのか聞いてみると、工藤さんはそう答えた。
「ヒwiヒヒerで構わないなら……とりあえずそっちがいいです」
それを聞いて俺は、連絡はヒwiヒヒer上で取ることに決めた。
理由は二つ。
一つ目は、その方が気軽に連絡をとりあえると思ったからだ。
これは今回の例に限らず、ほぼ全てのネット上の人間関係に言えることだが……ヒwiヒヒerなら何か問題が生じれば、最悪アカウントを捨てることもできる。
だが……VIP探索者の専用スマホアプリとやらでフレンド登録してしまえば、俺はフレンド登録したアカウントを一生使うことになってしまうだろう。
直感的に親近感が湧いたとはいえ……それだけの相手にそのレベルの連絡先を教えるのは、ちょっとまだ不安だ。
というわけで、気軽な方を選択することにしたのである。
ちなみに二つ目の理由はもっとしょうもないもので、ただ単に俺がそのアプリの初期設定とかを済ませてないからである。
というか……そのアプリ、なんてタイトルなのかすら知らないし。
連絡先交換のために初期設定を急いだりして、変なことが起きても嫌だからな。
とりあえず普段から使っている連絡手段の方が、良いんじゃないかと思ったのである。
「じゃあ後は、自分たちで連絡を取り合ってくれ。向こうはDMを解放してるから、『初めまして、新米ランク6VIP探索者です』とか書けば反応してくれると思うぞ」
最後に、工藤さんからはそんなアドバイスをもらって、俺は受付を後にすることにした。
そして……アドバイス通りのメッセージだけDMに送って、俺はダンジョン攻略を再開することにした。
◇
と、思ったのだが……どうも初代ランク6さんはちょうどスマホを見ていたのか、俺がDMを送るとすぐ返事をくれた。
あまりにも返信が早く、俺がアプリを閉じる前にはメッセージが表示されたので……向こうに既読がついてしまった。
仕方がないので、とりあえず俺は近くの喫茶店により、ちょっとだけ返信をすることにした。
コーヒー一杯飲む時間くらいは返信に充てて、それから仕切り直しで21階層以降の攻略に入るか。
などと思いつつ、俺はSサイズのコーヒーだけ頼んで席についた。
◇
そして……何だかんだあって、30分後。
話の流れの中で……俺は、初代ランク6さんと待ち合わせすることになってしまった。
というのも……話の途中で「今日は何される予定なんですか?」と聞かれたので、普通にダンジョン攻略だと答えたのだが。
そうすると、「もし住んでいる所が近くだったら、ちょっと一緒に攻略してみませんか?」などと持ちかけられたのだ。
聞いてみると、初代ランク6さんは名古屋在住だという。
俺の住んでいるところは滋賀県甲賀市なので……まあ言うなれば、100㎞も離れてはいない。
そして……俺はダンジョン攻略の他にも、せっかく手に入れた「熾天使の羽衣」を着ての長距離移動も試したいと思っていたところだったのだ。
その意味では、名古屋は割とお手頃な距離だと言えよう。
そんな訳で、俺は自分の在住の市町村は明かさないながらも、「あ、近いですね。じゃあ試しにやってみますか」と返すことにしたのだ。
そうと決まれば、早速移動だ。
俺は喫茶店を出ると、熾天使の羽衣と時止めの神速靴を装備した。
そして、パーフェクトアイギスを展開して、それを蹴って空中へ。
すると……俺は今まででは考えられないくらい、スムーズに空へと舞い上がれた。
五回ほど新たに足場を展開し、それを蹴ると……俺は、ほぼトップスピードまで加速できた。
と同時に……俺は、今までとは空中を走る感覚がまるで違うことに気づく。
まず何と言っても……重力が8割減っているおかげで、次々足場を作って跳んだりせずとも、割と地面に水平に飛べるのだ。
しかも空気抵抗も8割減になっているおかげで、空気抵抗による減速もほとんど感じない。
結果……俺は、一分間に一度ほど新たな足場を蹴るようにすれば、トップスピードと高度を維持したまま飛べるようになっていたのだ。
その上、俺は名古屋市に迷わず着きたいので、新幹線の線路上空を飛ぶようにしているのだが……見た感じだと、新幹線の倍くらいのスピードは出せている。
……この分だと、15分もすれば名古屋市に到着しそうだな。
というわけで、俺は飛びながらDMで具体的な待ち合わせ場所を決めることにした。
◇
そして……名古屋駅に到着すると。
俺は5枚ほどパーフェクトアイギスを展開して減速し、駅前広場に降り立った。
ちなみに所要時間は予想通り約15分、使用した結界の枚数も30枚弱だ。
パーフェクトアイギスや「熾天使の羽衣」を手に入れる前と比べれば、圧倒的な燃費の良さである。
結局俺たちは……名古屋駅から徒歩五分のところにダンジョンが一つあることもあって、駅前広場で待ち合わせることに決めた。
ここにいれば、いずれ初代ランク6さんを見つけることができるだろう。
「さてと、服装は……『ベージュのコートに赤いマフラー』か」
広場のベンチに座ると……俺はDMを開き、見つけるために教えてくれた相手の服装を確認した。
そして、該当する人がいないか、辺りを見渡してみた。
しかし……その条件に合致する人は、一人として見当たらない。
「……到着が早かったかな?」
などと思いつつ、俺はもうしばらく待ってみることにした。
そのまま俺は、目の前を行き来する人々の中に、条件に合致する人がいないかボーっと眺め続けていたのだが。
そんな時……ふいに、近くから話し声が聞こえてきた。
「あの……もしかして、ガチョウ同窓会さんですか?」
ガチョウ同窓会――ヒwiヒヒer上の、俺のユーザーネームだ。
自分で言うのも何だが割と変な名前なので、名前が同じ別人が呼ばれたとは考えにくいだろう。
だが……呼ばれたのが俺であるとするならば、一つ問題があった。
どう聞いても、今の声の主、声変わりした男性のそれではなかったのだ。
あまり人のことを言える立場ではないが……初代ランク6さん、芸能人をアイコンにしてるくらいだし、間違いなく冴えない男だと思っていたのだが。
見当違いだったか……?
「たまたま空を見上げたら、あの最上級の結界魔法『パーフェクトアイギス』を贅沢に足場に使う、目を疑うような光景を目にしたので……間違いないと思うのですが。あなたが新しいVIP探索者さんですよね?」
困惑していると、声の主はそう続けた。
やはり、声のトーンが男性のものにしては高すぎる。
あの結界、見ただけで「パーフェクトアイギス」だって分かるのか……。
じゃあもう、確定じゃん。
おそるおそる、俺は声の主の方を振り返った。