第二十一話 親近感が湧いた
「り……リクエスト……?」
工藤さんの発言を聞いて……俺の頭の中では、いくつもの質問が渦巻いた。
そのVIP探索者とやらは……何の目的で俺と連絡先を取りたいと?
というかソイツ、そもそもどうやって俺の存在を知った?
まさか……VIP探索者の連絡先、全VIP探索者で共有されてるとかじゃないよな。
いや流石にそれはないか、「リクエスト」つってるくらいだし……。
とりあえず俺は、一番気になることから聞いてみることにした。
「良いとか悪いとか以前に……その人、どうやって俺のことを知ったんですか?」
「別に、お前のことを知ってるわけじゃねえよ。ただ……新たなVIP探索者が増えた時には、VIP探索者専用スマホアプリに『新規VIP探索者が1名増えました』って通知がいくようになっててな。おそらくリクエストを出した奴は、その通知を見て『新規VIP探索者と連絡をとりたい』とダンジョン学会に問い合わせたのさ」
すると……工藤さんからは、そんな答えが返ってきた。
なるほど……じゃあつまり、俺の連絡先がソイツに知られてる可能性はとりあえず、ゼロになったな。
それは少し安心だ。
正直言うと、VIP探索者専用スマホアプリもなんのこっちゃって感じではあるが……まあこれは、俺が指輪に同封されてた手紙を読み飛ばしてるから知らないだけだろうし、ちゃんと読めば案内とか載ってるだろう。
だが……後半部分がどうにも引っかかるな。
なんでソイツは、俺が新規VIP探索者だってだけで、コンタクトを取ろうとしてきているんだ?
「でも……その人はなぜ、俺と連絡を取りたいと? 動機が謎なのですが……」
「ああ、それはな……まずお前にリクエストを出した奴についてだが、あいつは少し前まで日本で唯一のランク6VIP探索者だった奴なんだ。知ってのとおり、あいつは全VIP探索者と交友を持つようにしてる奴でな、お前もそれで興味を持たれたんだろう」
聞いてみると、工藤さんは相手の素性を話しつつ、そう教えてくれた。
……「知ってのとおり」なんて言われても、そんな人全然知らないんだが。
まあでも、そのスタンスでずっと活動しているってことは、他のVIP探索者とかと特に揉め事が起きたりはしてないんだろうし……そういう意味では、少し安心できる相手とも考えられるか。
けど……やっぱりちょっと、判断材料が少なすぎる気がする。
「うーん、でも連絡を取るってことは、こちらの連絡先を教えることになりますよね……。そのランク6のVIP探索者、どんな人かちょっと判断材料が少なすぎる気がしますし、少し考える時間が欲しいかと」
というわけで俺は、そう返事をした。
だが……俺の返事を聞いた工藤さんは、少し不思議そうな表情になった。
「判断材料が少ない……? あの探索者なら、かなりの有名人なんだが……元唯一のランク6探索者と聞いて、ピンとこないか?」
そして困惑したような声で、そんな事を聞いてきた。
「来ないですね……」
「ウソだろお前……。アイツを知らないとなると、それもはやこの業界の人について何も知らないも同然なんだが……お前、その強さでそれ本気で言ってるのか?」
首を傾げていると、工藤さんはさらにそう付け足す。
そんなこと言われても……俺スキルを活かして金稼ぎたいだけだし、界隈の有名人とか全然興味ないからなあ。
「……ヒwiヒヒerで『@SHNuts3』って検索してみろ。出てくるぞ」
しばらく沈黙が続くと……工藤さんは痺れを切らしたようにそう促してきた。
……仮にも受付の立場の人間がそんなの明かしていいのかよ。
そう思ったが……実際検索してみると、工藤さんの言わんとすることが分かった。
なんと、そのアカウントの持ち主……フォロワーが4万人ほどいたのだ。
……確かにこれは、有名人の範疇に入るかもしれない。
工藤さんが明かしたのも、どうせ調べればすぐ出てくるような情報だからなのだろう。
「なるほど……」
それを見て……俺は、相手のリクエストを受けるかどうか、少し検討してみることにした。
何というか……自分がその立場にいてこんな偏見を持つのもアレだが、ランク6のVIP探索者ともなると、ちょっと意識高い系とかだったりするんじゃないかと思うんだよな。
あんまり崇高な目標とか持ってたら、ただお金を稼ぎたいだけの俺なんかだと反りが合わないだろうし……だとすれば、たとえ貴重な人脈だとしても、繋がらない方が精神衛生上良いかもしれない。
そのあたりが、俺としては一番の懸念点なのだ。
そもそも俺……生涯賃金くらい稼いだらアーリーリタイアしてのんびり暮らすつもりなので、そしたら結局他のVIP探索者との繋がりとかどうでもよくなるしな。
だがその反面、もしこの人が意識高い系とかでないなら、せっかくだし連絡を取り合ってみてもいいんじゃないかとも考えている。
一年生のときバイトに明け暮れていたせいで、大学ではそこまで友達が多い方でもないからな。
少しは知人が増えてもいいんじゃないかとも思うのだ。
果たして、SNSの投稿内容は……。
「……なるほど、こんな感じの人か」
プロフィールを開いてみると……正直、俺としては第一印象は良好だった。
自己紹介文も、/で座右の銘が羅列されてるような典型的な意識高い系感は無かったし……投稿内容も明らかにただのタン塩の画像に「シャドーブリアンうめえ」とかコメントつける俗人的なユーモアセンスの持ち主なのだ。
てか誤字ってるぞ、シャドーブリアンじゃなくてシャ
そして何より……アイコン画像が、二十歳前後の芸能人級の美女の写真だった。
……この人、フォロワーが万単位でいるクセに好きな芸能人とかアイコンにしちゃう、そっちの意味でイタい奴だったか。
なんか親近感沸いてきたし、ヒwiヒヒer上くらいでなら繋がってみるのも悪くないだろうな。
【追記】すんません、なんかヒwiヒヒer、何のことかちょっと伝わりづらかったみたいで……笑
某さえずるSNSをどう表記するか考えた結果、そう言えば昔ロゴがそう見えるってネタあったなーと思ってこれにしました笑