第二十話 他のVIP探索者からのコンタクトリクエスト
まずは、獲得したスキルやらアイテムやらの確認からだな。
「ステータスオープン」
俺はステータスウィンドウを開き、先ほど脳内音声で聞こえた「階層間転移」とやらを確認してみることにした。
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●階層間転移
念じることで10n+1(n=0,1,2……)階層に転移できる。ただし転移可能なのは行ったことがある階層まで
【獲得条件】フロアボスを一度討伐する
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なるほど……要は奥まで攻略した時の帰還とか、再度ダンジョンに入る時一度攻略した事のある階層をスキップするのが便利になるスキルってとこか。
ある程度攻略すれば誰もが手に入れられるような獲得条件だし、中〜上級者必携のスキルなんだろうな。
今手に入れたのは……1F差コア破壊だと、条件をクリアしたことにならなかったからだろうな。
まあ、このスキルに関してはこのくらいでいいだろう。
「次は……まず革鎧を脱いでっと」
そして俺は、今度はドロップした服を着て、そちらの詳細をステータスウィンドウで調べることにした。
これもボスドロップだし、工藤さんに聞くまでもなく着てみて大丈夫だろう。
「うおっ、何だこれ」
着ると……俺はなんだか全身が軽くなったような感触に包まれた。
もしかして、重力が弱まるとかそういう系か?
それと同時に、装備の欄には「熾天使の羽衣」という文字が表示された。
早速、タップしてみる。
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●熾天使の羽衣
フロアボス戦でまれに手に入るアイテム。着る者の重力と空気抵抗を80%カットする
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すると、着た時の勘は当たっていて……服の効果は、確かに重力を弱めるものだった。
空気抵抗までは、流石に予測がつかなかったが。
これは完全に、移動のためのアイテムって感じだな。
しかも、結界を足場に空中移動する俺の移動スタイルと相性バッチリだ。
空気抵抗軽減もあることだし……これがあると、必要な歩数すなわち消費MPがだいぶ抑えられそうだな。
などと考えつつ、俺はステータスウィンドウを閉じた。
そして……21階層への階段を降りようとしたところで、ふと俺はドロップ品を入れるための袋に目をやる。
「うわ……満タンだな」
気がつけば中身が満タンになってたのを見て……思わず俺はそう呟いた。
はりきって45L入るゴミ袋を持ってきたのに、まさかこんな短時間でいっぱいになってしまうとは。
「……帰るなら今か」
その状況を見て、俺は21階層に降りたら即座に地上に帰還することにした。
一瞬でも21階層に降りとけば、「階層間転移」で地上に戻って清算を済ませた後、再度そのスキルで21階層に戻ってこれるからな。
「階層間転移」
階段を降りきった俺はそう唱え、1階層へと戻った。
そして、換金のため受付に向かった。
◇
受付の建物に入ると……カウンターの付近で暇そうに立っていた工藤さんの視線がポリ袋と合ったかと思うと、工藤さんが大慌てでレジの機械を起動させだした。
そういえばまだ朝だし、帰還した探索者がアイテムを売りに来るような時間じゃないもんな。
わざわざ自分のためにレジの機械を早めに動かしてもらうことになり、少し申し訳ない。
「古谷……またとんでもない量を持ってきたな……」
などと言いつつ、慌ただしくレジの機械へのログインを進める工藤さん。
俺はカウンターのところまで歩いていくと、全ての魔石を45Lの袋に入ったままカウンターに置いた。
「この量は……どう量るかな……」
すると工藤さんは、袋めいっぱいの魔石を眺めつつ、顎に手をあててそう呟く。
「……よし、アレしかないな。コンビニエントインベントリ」
かと思うと……工藤さんは何やらスキル名を詠唱し、目の前に半透明の画面を出現させた。
「収納」
更に工藤さんがそう続けると……目の前の魔石が一気に消えてなくなり、カウンターの上にはゴミ袋だけが残った。
「あれ、魔石が……!?」
「11から15階層と17から19階層の魔石が1個ずつと、16階層と20階層の魔石がそれぞれ180個だな。確認してくれ」
魔石が消えたことに驚いていると、工藤さんは半透明の画面の角度を調整してこちらに向けつつ、そう口にした。
画面には……工藤さんが言ったのと同じ魔石の個数の情報が、一覧になって表示されていた。
「……一体これは?」
「これは俺のスキル、『コンビニエントインベントリ』だ。収納魔法の一種なんだが、中に入れた物の情報をこうやって整理できてな。それでなおかつ、ステータスウィンドウとかと違って画面を他人と共有できる優れものなのさ」
何がどうなっているのかさっぱり分からなかったので質問すると、工藤さんはそう答えてくれた。
「なるほど……」
要は……魔石が消えたのは工藤さんの収納魔法に入れられたからで、工藤さんがそんな行動を取ったのはスキルの機能で魔石を数えるためってことか。
そしてスキルの特性上、正しく数えれているかを、実際に画面を見せつつ確認できる、と。
一体あたりにかかった時間と戦闘時間からの概算と一致するし……確かに、きちんと数えられてそうだな。
これで清算してもらおう。
「……はい、その個数で合ってます」
考えを纏めると、俺は工藤さんにそう伝えた。
「じゃあ金額は……せ、1318万6800円だ。……現金手渡しは流石にできない額だから、口座振り込みでいいか?」
しばらくレジ打ちした後……工藤さんは「千万ておい……」と引き気味になりながらもそう金額を伝えてくれた。
「はい、その方が俺も助かります」
俺はそう返事をして、渡された口座登録の用紙に必要事項を記入していった。
「……できました」
「おう。ったく、300個以上って一体どうなってんだよ。ここ三日ほど来てなかったし、その間取り溜めてたにしてもよ……」
必要事項の記入が終わった口座登録用紙を工藤さんの方に向けると、工藤さんは呆れたようにそう言いながら用紙を受け取った。
……別に3日間溜めてたわけじゃなくて、単に一昨日と昨日はダンジョンに来てなかっただけなのだが。
「……いえ、これは今朝手に入れた分です」
「へぁっ!? け……今朝……?」
一応訂正すると……工藤さんにはもう一段階驚かれてしまった。
「一体そんな短時間でどうやって……いや、やっぱ聞くのやめとくわ。じゃ、この口座にきちんと振り込んでおくからな」
工藤さんはそう言いつつ、支払内容確認書をプリントアウトして俺に渡した。
……じゃ、続きといこうか。
「ありがとうございます」
そう言って俺は、建物を後にしようとした。
だが、その時……工藤さんはふと何かを思い出したかのように、俺を引き留めた。
「お、そうだ。実は言おうと思ってたことがあるんだが……古谷、お前宛てに他のVIP探索者から連絡を取りたいとリクエストがあってな。お前さえよければ、ソイツと繋いでやろうと思うが……どうする?」
……何だそりゃ。