第十六話 特殊攻略家の称号とVIP探索者
1F差コア破壊に……「特殊攻略家」の称号?
コア“破壊”って言うくらいだし、今のはどうやら特殊攻略とやらに分類されるみたいだし……もしかして、フロアボスを出さずに攻略でもできたのだろうか。
などと考えていると……続けて、その確信を強めるような脳内音声が流れた。
<フロアボスの魂を特別アイテムに成形しています……>
<特別アイテム:「時止めの神速靴」をコアフロアに転送します>
そして、そんな音声と同時に、俺の目の前に一足の靴が現れた。
これがフロアボスのドロップアイテムだとしたら……やはり俺は、ボスと戦わずにフロアボス戦をクリアしたってことだよな。
とりあえず、称号を確認するか。
俺はステータスウィンドウを開き、「特殊攻略家」をタップした。
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●特殊攻略家
1F差コア破壊(コアのHPを1にしてから、フロアボスが出現しコアが無敵状態になるまでの0.03秒のタイムラグの間にコアにもう一撃加え、残り1のコアのHPを削りきる戦法)に成功した者に贈られる称号。
補正値:MP+250
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すると、こんな説明が出てきた。
……なるほど、そんな戦法があったのか。
それなら確かに、既にコアが壊れているのも納得だな。
ていうかこの称号……補正はMPのみなのか。
まあMP補正値は今まで手に入れたどの称号よりも高いので、別にそれはいいのだけれど。
などと考えつつ、俺は目の前に現れた靴を拾った。
そして……おもむろに、俺は履いてる靴を脱いで、現れた靴の方を履いてみた。
今までは、手に入れたアイテムは工藤さんに確認してから使ってたけど……今回のはただ魔物からドロップしたんじゃなくて、「1F差コア破壊」の報酬みたいな形で手に入れたアイテムだからな。
間違っても、害になるようなアイテムじゃないだろうと確信できるのだ。
名前的に、効果は移動速度アップ系だと推測もできるしな。
履いてからステータスウィンドウを確認すると、確かに装備の欄に「時止めの神速靴」が追加された。
……そうだ。ステータスウィンドウに現れるってことは……もしかしたらこれも、タップしたら詳細確認できるんじゃ?
今まで試したことなかったけど。
そう思い、「時止めの神速靴」をタップしてみると……このような説明が現れた。
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●時止めの神速靴
まるで周囲の時が止まっているかのように見えるほど速く動ける靴。
特殊な方法でしか入手できない貴重なアイテム
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すると……やはり思ったとおり、このアイテムは移動速度アップ系のアイテムだった。
それも、かなり強力そうな。
<10階層に帰還します>
確認し終わって、ステータスウィンドウを閉じてしばらく待っていると……そんな脳内音声が流れると共に、周囲の風景が10階層のものに戻っていった。
これで、11階層に進めるってわけか。
そう思ったが……俺はここで、重大なことを忘れていたのを思い出した。
……あ、俺が攻略許可されてるの、10階層までだった。
◇
「工藤さん、攻略許可階層の引き上げをお願いします」
というわけで……俺は仕方なく地上に戻り、受付で工藤さんを呼んでそう頼むことにした。
ちなみに靴の効果のおかげで、地上への帰還には10分もかからなかった。
「何……!? まさか、もう10階層のフロアボスを倒したというのか?」
すると工藤さんは目を丸くしつつ、そう聞いてきた。
「はい。イジワルミミックを倒して強くなったので挑んでみたら、攻略できました」
「ちょっと待て。今、聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がしたぞ」
経緯を説明すると、工藤さんは額に手を当てつつそう口にした。
「ちなみにフロアボスは、どんな感じで撃破したんだ?」
「それが……フロアボスとは、戦いになりませんでして。1F差攻撃とかいう特殊攻略をしてしまったみたいで、ボスが出てきませんでした」
「は……!? 聞いたこともないぞそんなの……」
「その関係で「特殊攻略家」って称号も得て、結構ステータスも上がりまして。それもあって、11階層に挑んでみたいと思っているんです」
俺は許可階層の拡大の妥当性を感じてもらうため、称号のことも交えつつ、そう説得にあたった。
すると……工藤さんは、タブレットを用いて何やら調べ始める。
「『特殊攻略家』……見当たらないな」
そんなことを呟きながら、ひとしきり画面をスクロールしたかと思うと……工藤さんはこう説明しだした。
「もちろん可能だ。1F差コア破壊など聞いたことないし……データベースを調べてみたところ、『特殊攻略家』というのは未発見の称号だったからな。未発見の称号を見つけた者は、ダンジョン学会によってVIP探索者として認定される。そしてVIP探索者は必ず、攻略許可階層が無制限になるのだ」
「……マジですか?」
これには、今度は俺が驚く番だった。
こんなにもあっさりと、攻略許可階層が無制限になってしまうとはな。
「ちなみにVIPは凄いぞ。アイテムの買い取り価格が2割増しになるし……ランクにもよるが、買えば一億円はする『経験値豊穣の指輪』が無償支給されたりするケースもあるからな」
更に工藤さんは、聞き間違えかと思うような衝撃的な事実まで口にし始める。
「VIP探索者って、ランクとかあるんですか? その『経験値豊穣の指輪』とやらは、ランク何になると貰えるんでしょう……」
興味が湧いたので、俺はそう質問してみた。
「VIP探索者は、功績の積み重ね次第でランクが上がっていくんだ。そして『ランク5』のVIP探索者になれば、『経験値豊穣の指輪』が支給されるのさ」
「ランク5ですか……遠そうですね」
「そりゃま、全世界に十数人しかいないレベルだからな」
聞いてみると……まあ流石に、一億の価値がある指輪とやらは、そう簡単には支給されないと分かった。
そりゃそうだよな。
「……そうだ。新発見の称号は、その補正値次第で何ランクのVIP探索者になれるか決まるから、ステータスの称号欄を読み取らせてくれ」
これで話は終わりかと思っていると……工藤さんはそう言いつつ、引き出しから魔石がいくつも付いた指紋認証の機械みたいなものを取り出した。
「ステータスの称号欄を……読み取る、ですか?」
「ああ。そのデータをダンジョン学会に送って、VIP探索者の認定を貰うんだ」
そう言われたので、俺は指を置くところっぽいところに、右手の人差し指を翳した。
「……お、来た」
すると、工藤のタブレットからピョコンと通知音が聞こえたかと思うと……工藤さんは、(その画面に現れたであろう)俺の称号を確認しだした。
「……って、MP+250!? おいおいこれ……単一の称号新発見としては最大の、ランク4認定クラスだぞ……」
そしてしばらくすると、工藤さんは驚愕の表情でそう口走った。
……え、これだけでランク4まで上がるのかよ。
なんというか……ランク5、意外と近そうだな。
などと思っていると……どういうわけか、工藤さんは更に手が震えだす。
心配な気持ちになっていると、工藤さんはこう呟いた。
「……待てよ。お前……『無属性を極めし者』も、未発見の称号だぞ。これを合わせると……つまり……」