第十五話 フロアボスとの戦闘のはずが
結論から言うと……8階層での戦闘には、一瞬で飽きてしまった。
というのも……どいつもこいつも、真・マナボール1発で倒せてしまうのだ。
無属性攻撃無効貫通の音声エフェクトなのか、真・マナボールが敵に当たると「カシャァァン!」と音を立てるのは新鮮だったが……それも数回で慣れてしまったしな。
まるで1階層の魔物を相手にしているような手応えの無さから、俺は「この階層で戦っててもしょうがない」と思うようになっていったのだ。
ということで、俺は9階層に降りることにした。
9階層の魔物は、特攻が刺さらない分少しは耐えてきたが……それでも1秒の連射でオーバーキルなことに変わりはなかった。
更に10階層まで降りるも、状況はさして変わらず。
そんなわけで、俺は11階層に降りようとしたのだが……11階層に繋がる階段に足を踏み入れた時、異変が起こった。
<古谷浩二は10階層のフロアボスを倒していません。11階層に進むにはフロアボス戦を済ます必要がありますが、戦いますか?>
そんな脳内音声と共に、俺の目の前には『はい いいえ』と書かれた半透明の画面が出現したのだ。
……フロアボスって何だ?
若干警戒した俺は、『はい』をタップする前に、スマホで検索してみようとした。
だが……ここまで階層を進むと電波が届かないのか、スマホがネットにつながらない。
……仕方ない。こうなったら、一旦地上に戻って、調べてから戻ってくるか。
そう思いかけたが……その時俺はふと、今日の午前中の出来事を思い出した。
そういえば、今日の二限の授業、学術英語のリーディングの授業だったのだが……確か扱った題材は、「ダンジョン出現初期から探索を続けてる海外の探索者の手記」だったはずだ。
そしてタイトルは、「初めてのフロアボス戦」だったか。
もしかしたら……スマホで調べなくても、その手記を見返せば必要な情報が得られるかもしれないな。
今日は大学からダンジョンに直行したので、配布プリントを鞄に入れたままにしてるし。
俺は鞄からプリントを取り出すと、スマホのライトを灯してプリントを読み直した。
すると、欲しかった情報はほぼ手に入れることができた。
なるほど……まずフロアボスとは、10階層ごとのキリのいい階層から次に進む際、倒していかなければならない魔物のことだとな。
画面の『はい』を選択するとフロアボスのいる異次元に飛ばされ、無事勝てたら、次の階層へ進む階段のところへ帰還できるのか。
もっと詳しく流れを言うと、まず『はい』を押すと、「コア」と呼ばれるものが中心にある円形の部屋に飛ばされるらしい。
そして「コア」に少しでもダメージを入れると、フロアボスが出現するのだそうだ。
「コア」は、フロアボスが存命の間は無敵状態になるが、フロアボスを倒すと無敵が解ける、とのこと。
そして無敵状態が解けたコアを破壊すると、異次元の部屋から帰還できる仕組みだそうだ。
ちなみにボスを出現させる前のコアは、どんな強力な攻撃を加えても、強制的にHPが1残るらしい。
肝心のフロアボスの強さは、10階層の魔物5体とまとめて戦うくらいの感じ、か。
なら……間違っても、歯が立たず負けるってことにはならなさそうだ。
そこまで確認した俺は、『はい』を押した。
すると……俺の視界が一度暗転し、次に目を開いた時には、中心にコアが置かれた円形の部屋に飛ばされていた。
……戦闘に入る前に、一つだけ試したいことがあるので、それをやっておこう。
そう思い、俺はガトリングナックルをはめた手を明後日の方向に向け、「9発真・マナボールを撃ったあと1発エクストラハイヒールV5を発動する」というパターンで魔法を連射できないかやってみた。
結果……それはうまくいった。
この連射パターンだと、秒間ダメージ効率は1割落ちるが……代わりに俺自身は、0.25秒に一回全回復できる。
疑似的な自動回復と言ってもいいだろう。
ダメージを受けた際、咄嗟に「回復しよう」と思える冷静さが残るとは限らないからな。
パニックになっても、いつの間にか回復していたという状態に持ち込める戦い方をしたいと思い、この方法を開発してみたのだ。
ボス戦、一応初のことだし……慎重に挑みたかったからな。
バッチリな対策も実行可能と分かったところで、じゃあ今から戦闘に入るとするか。
俺はガトリングナックルを着けた両手をコアに向けると……さっき作ったパターンでの連射を開始した。
だが……2発の真・マナボールがコアに当たったところで、コアから衝撃波が発生し、少し吹き飛ばされると共に連射が強制中断される。
確か……この衝撃波が、コアが無敵状態に入り、ボスが出てくる合図なんだよな。
そう思い、俺はボスが出るのを待ったのだが……その時は、一向にやってこなかった。
……あれ、なんで何も起こらないんだ?
というか、コア……手記には「HPが強制的に1残る」とか書かれてたけど、あれ見た感じ既に壊れてるよな。
一体、何が起こってるんだ。
戸惑っていると、脳内音声が流れだした。
<1F差コア破壊を確認。称号:「特殊攻略家」を付与します>
……は?