六歳③
ジゼルと二人して、集落から離れた人気の寂しいところまで行った。
ちょうどいい切り株を見つけたため、それを机代わりに神託札を並べる。
一日中透視の練習をしてみたのだが、初日は成果がなかった。
なので、しばらくはこの場所へと通うことにした。
一秒でも長く修行ができるように朝早く父よりも先に起き、夜遅くに帰ってきては父に怒られた。
俺も俺だが、確固たる目的もなしに付き添ってくれたジゼルも凄い。
二日、四日、一週間と通っていくうちに、段々と何かが掴めてきた。
神託札を捲り続け、その息抜きにオーテムを彫った。
そうして、一ヵ月が経った。
「道化、赤の王、赤の富豪……」
俺は言いながら、伏せているカードを三枚捲る。
一枚目は道化、二枚目は赤の王だった。
ただ三枚目は赤の富豪ではなく、黒の悪魔だった。
やれ、また失敗したか。的中率は六割程度といったところか。
最初の当日は一枚も当たらなかったし、段々と的中率が伸びてはいるんだが……何かこう、足りない感じがする。
「にいさま、すごいです! また三枚のうち、二枚も当たっています!」
う~ん……できればもっと、百発百中くらいまで持っていきたいのだが……。
念視の修行ではあるのだが、別に本当に絵柄が見えるというわけではない。
見えはしないが、念じればなんとなく勘が働くのだ。透視の一個手前のようなものだろう。
一流の魔術師ともなれば、具体的なビジョンが脳裏に浮かぶそうだが。
「にいさま、どうしましたか?」
「いや、もうちょっと的中率を上げられないものかと思ってな」
「し、しかし、とうさまでも、よく外すと言っておられましたよ?」
「俺は、父様を超えたいんだ」
はっきり言って、父の魔術のレベルは低いと思う。
オーテム作りだけならば、すでに俺の方が上手だ。それは自信を持っていえる。
それはつまり、魔術の基礎の基礎に関しては、父は六歳児である俺に負けているということだ。
一応、俺は目標を父にしている。
だが、それは通過点としての目標だ。
「に、にいさま……」
ジゼルはぽかんと大口を開け、驚いたように俺を見ている。
いかんな、つい熱くなってしまった。
マーレン族では魔術の力量をステータスとしているのに、いざ鍛錬や修行となるとなぁなぁで済ましているような節が見え、つい憤りを感じてしまうのだ。
告げ口されれば父と気まずくなってしまう。
「父様には、内緒だぞ」
二人だけの秘密だな、と続けながらジゼルの唇に人差し指を押し当てる。
「ひゃ、ひゃいっ! わ、わかりました、にいさま!」
ジゼルは顔を赤らめ、興奮気味にぱたぱたと腕を動かす。
よし、ちょろい。ジゼルはこのフレーズに弱い。
この様子ならついうっかりで口が滑ることもないだろう。
「さて、今日はこのくらいでいいか。ジゼルも、修行してみるか?」
「う~ん、私は……」
あまり乗り気ではないか。
それもそうだろう。
この前やらせてみたのだが、ほとんど当たらなかったのだ。
ジゼルはまだ四歳だし、オーテムも作ったことがない。こんなものか。
「せっかくだし、ちょっと遊んでから帰るか」
「はいっ! そうしましょう! そうしましょう!」
ジゼルは嬉しそうに表情を輝かせる。
森に付き添わせておいて、俺の修行を見ているだけじゃ可哀相だからな。
「ババ抜きでもするか?」
もっと枚数があれば大富豪やらスピードやらもできるんだが、この枚数では少し心許ない。
色々ルールを考えてもみるんだが、結局はババ抜きに落ち着いてしまう。
二セットあったらトランプの同じように使うこともできるんだが、うちの家には一セットしかないのだ。
切り株を挟んで向かい合い、ババ抜きをする。
「右、右です右! 右がお勧めですよ、にいさま!」
「じゃあ左で」
「ああっ!」
俺は黒と赤の亜人のカードを切り株の上に置く。
これで俺の手札はゼロだ。
三回連続で勝ってしまってから、ようやく気付く。
ひょっとして俺、ジョーカー扱いにしている道化を念視で自然と避けているのではないだろうか。
ジゼルがわかりやすいのもあるが、それを考慮しても偏りがある。
無意識で念視が働いているのか?
「にいさま、強いです……」
ジゼルが切り株に頬をつけ、俺を見上げる。
「いやいや、偶然偶然」
そろそろ拗ねてしまいそうだ。
次はわざと道化を引くように心がけてみるか。
しかし、これも魔術の修行になりそうだな。
次からカードを引く前に、絵柄を予想する癖をつけてみるか。
ひたすらカードを捲るよりも楽しいし、ジゼルの機嫌も取れる。
まさに一石二鳥だ。
父も変に怒らず、トランプ遊びを修行として認めてくれればいいのに。