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十二話 ゼシュム遺跡③

 ついにゼシュム遺跡へと到着した。

 先に来た冒険者達の馬車が幾つか停まっていた。

 ゼシュム遺跡の第一印象は、巨大な石の砦、とでもいったところか。


 壁のあちこちに術式が刻まれている。

 かなり高度なものだ。

 封印系の術式が主だな。


 地上に降りたエルフ達は、ノークス族と和解した際にゼシュム遺跡の要塞としての機能を封じたと、本にはそう書かれていた。

 そのときに施された術式だろう。


 使われている術式が古く、時代の差を感じる。

 今では簡単に再現できるものも、かなり手間を掛けて組んでいる。

 だが、これはこれで参考になる。

 応用次第ではいくらでも可能性が広がる。

 俺としては、あれが見れただけでも来た価値があったというものだ。


「……見事な遺跡だな。俺は本当に、来た甲斐があって良かったと思ってるよ。ここに連れて来てくれてありがとう、感謝している」


 俺は言いながら、マイゼンの肩を叩く。


「……メアも、アベルが喜んでいるようで何よりです。えっと、あの、移動経費は持ってもらえるんでしたっけ?」


「ちょ、ちょっと待つんだキミ達! 諦めるようなことを言わないでくれよ! 冒険にトラブルは付き物さ! キミ達は、暴れファングを前に身を投げ出すのかい?」


「いや……あれはもう、大人しく帰った方がいいだろ」


 俺はゼシュム遺跡の方を指差す。

 遺跡の入り口には、五人の男が立っていた。

 彼らは皆、青の布地に白い刺繍が入った、まったく同じデザインの服装をしていた。


「我々は領主様の調査隊だ! 現在、領主様の許可のないもののゼシュム遺跡への立ち入りは禁じている! とっとと立ち去るがいい!」


「あまりしつこいようならば、素性を控えさせてもらう! 領主様は、冒険者支援所の出資者であるぞ。馬鹿なお前達にもこの意味が分かるな!」


 調査隊を自称する五人の前には、三十人程度の人集りができている。

 こちらは多分、俺と同じくゼシュム遺跡の探索に来た冒険者達だろう。

 全員柄が悪そうだ。

 ボロ布を身体に巻きつけている女、半裸の男、壊れかけの重そうな鎧を着込んでいる者。


「うっせぇぞぉー! 通しやがれ! 力ずくで通ったっていいんだぜこっちは!」


「金だぁ! せめて金を寄越せぇ! そうしたら引き下がってやるよ!」


 整った身なりと顔立ちをしている五人に比べ、ゴロツキ共三十人は酷く対照的だった。

 品のない言葉を喚き散らし続けている。

 対応する五人組も、目に見えて機嫌が悪くなっていく。


「お前みたいなひょろひょろの坊ちゃんが舐めたこと言ってんじゃねぇ! ホモ領主と寝て仕えさせてもらったんじゃねぇのか? ああ? いい身分だなぁ男娼団が!」


「貴様らぁ! 領主様への暴言は許さんぞ!」


「お! 図星か? 図星突かれて怒ったのか?」


「ぶっ殺してやる!」


「落ち着けアレン! こういった連中が出て来ることは領主様も想定済みだ!」


 どんどん不毛な争いになっていく。

 よく見ればガストンもいた。前の方で腕を振り上げて野次馬をやっている。


「なぁ、もう帰ろうぜマイゼン。俺、あれに混ざりたくない」


「メアもちょっと……」


 どうして冒険者支援所が遺跡の情報を公開していなかったか、よくわかった。

 領主が唾つけて調査を進めてたんだな。

 そりゃそうなるか。ローリスク、ハイリターンだもん。

 独占できる立場にあるのにしない方が無能か。

 世の中に上手い話はないというが、権力者が全部持っていってしまうからそうなるのだろう。


 もっと大々的に表明して『来るな』とはっきり明言して欲しかったものだが、多分、そうしてもああいった上手くおこぼれが拾えるかもしれないと思った連中が増えるだけなのだろう。


「だ、大丈夫さ! 以前似たようなことがあったときは、根負けした領主側が折れたからね! 僕達は後ろから成り行きを見守って、話が動きそうになったら混じればいい」


「ええ……」


 なんか、俺が思ってた冒険者とそれ違う。


「ほら、なんなら荒れたときは、暴動を起こした冒険者を止める方に入ればいい。そこで目立つことができれば、上手く取り入ることもできるかもしれない。似たような経緯で領主の下で働くことになった冒険者を僕は知っている」


 それもなんか違う……。


「ほ、ほら! 僕リーダーじゃん! アベルだって、僕がリーダーでいいっていったじゃん! ちょっと、帰ろうとしないでって! わかった! 後半日、後半日ここで粘ろう!」


 他の冒険者達も、ぽつぽつと帰り始めていた。

 俺達が来てから、すでに五組ほどの冒険者達が来た道を引き返している。

 ……もう、俺達も帰った方がいいんじゃないかな。


「いいか貴様ら! 昼夜問わずにごね続けるぞ! 疲弊すれば奴らの判断能力も落ちてくるはずだぁ!」


 ガストンが他の冒険者を鼓舞している。

 不毛だ。恐ろしく不毛だ。

 本当に領主に名前を控えられて街から摘まみ出されたらいいのに。

 でも、今の俺達もあれに乗っかってる形なのか……帰りたい。


 あれだけ脅しを掛けながら、なかなか暴力に打って出ないところが無駄に狡賢い。

 暴力沙汰にならない限り、さした問題にはならないのだろう。

 どっちかが何かの弾みで手を出したら大乱闘が起きそうな雰囲気ではあるが。


「おい、そこで見てる奴らも参加しろや腰抜けがぁっ! いいところどりしようってかぁ? 性根が腐ってんじゃねぇのかぁっ! 何もしないなら帰りやがれ!」


 俺だってそうしたい。


 一歩引いたところから見守っている冒険者は、俺達の他にも多い。

 皆馬車から、動物園の檻でも見るような目で冒険者と領主の調査団を眺めていた。

 帰るかどうかは別として、俺達も一旦馬車に戻っておくか。


 立っているのも疲れる。

 あの調子だと、しばらく進展はなさそうだ。

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