十五歳⑩
それからしばらく、俺はジゼルを連れて森の
三日に一度程度の頻度でシビィもついてきた。
たまに道中でノズウェルとすれ違う。
向こうはニヤニヤしながら「
その度にあいつは、満足気に高笑いしていた。
俺が八方塞がりだと、そう思っているのだろう。
勘違いしてくれているのならそれでいい。
そのままそうっとしておいてほしい。
向こうが本格的に動いたら、どこまでやってくるのかはわからない。
ある日ノズウェルから、「今妹を差し出して謝ったら、僕の家に楯突いたことは許してあげてもいいんだけど? 僕の妻の実家になるから、そんな酷いことはしないであげたいんだけどなぁ」と言われた。
興奮した取り巻きのノッポが奇声を上げながらノズウェルをぶっ叩かなければ、俺が殴っていたところだった。
危なかった。心を落ち着けなければ。
ありがとうノッポ。
ここで俺がノズウェルを殴っていたら、それを理由に不利な立場へ追い込まれていたかもしれない。
大人しいノズウェルを刺激したくない。
その後ノズウェルがノッポの首を絞めていたが、悪いが俺の知った話ではない。
通いながら、オーテムの数を増やした。
成長を見守るにつれ、ここを直せばいいのでは、あそこを直せばいいのではと気付き始めたのだ。
気付いたのなら、増やさずにはいられなかった。
植物を急成長させる魔術も見つけた。
かなり複雑な魔術なので全体を急成長させるのはさすがに難しかったが、これで特徴的なサンプルを育てて様子見をしてみたりもした。
ただ性質が変わる可能性もあるし、あくまで様子見だ。
最近よく、森への道でフィロと顔を合わせる。
「またキミか。毎日毎日森へ行っているらしいけど、どうしたんだい? 狩り嫌いなのに、珍しいじゃないか」
「お前も毎日ここで何をしているんだ?」
「え、いや、ボ、ボクは祖父様から言い付けられた用事があるんだよ。な、なんだ、その顔は!」
「今度、族長に裏を取ってみるか」
「な、内密に頼まれたもので……えっと……そ、そんなものはどうでもいいだろう! 質問しているのはこっちだ! 何をしに行っているんだと訊いているんだ! なんだ、そこまでして話を逸らすつもりなのか!」
俺が森へ足を運んでいるのが気になって、道で張っていたのかもしれない。
カルコ家とややこしいことになっていると、そう勘づいている可能性もある。
族長が関係していると思われると話が拗れそうなので、族長にも黙っている。
なので、フィロにも話すつもりはない。
ノズウェルの様子を見るに無駄かもしれないが……。
族長も、俺を心配しているのかもしれないな。
ひょっとしたらフィロが族長に頼まれたというのもあながち嘘ではないのだろうか。
「心配かけたようで悪いな。そのうち、族長に説明しておくよ」
「ボ……ボクが訊いているのに、そんな、省くようなことしなくともいいじゃないか……。キミ達二人以外にも、他の奴だってついていっているときがあったのに……なんでそんな、ボクばっかり……」
フィロが小さくなり、しゅんと俯く。
「別にそういうつもりじゃないんだけど、えっと……」
「だっ、だいたい、心配しているわけじゃない! キミは目を放すと、とんでもないことをしでかすから確認しただけだっ! も、もういいっ!」
フィロは白い頬を真っ赤に染め、走って去って行った。
……いつも露骨についてきたそうな雰囲気を出しながら話しかけてくるのだが、フィロが素直じゃないところを利用して振り払わせてもらっていたからな。
悪いとは思うが、仕方ない。
族長の孫娘が一緒になっていたとなると有利にはなるかもしれないが、その分迷惑を掛けることになる。
後できっちり説明しよう。
そんなこんなで二週間が経ってから、
ジゼルと抱き合い、シビィとハイタッチして喜びを分かち合った。
どさくさに紛れてジゼルに抱き付こうとしたシビィを蹴っ飛ばした。
動きは止めたが、シビィにダメージはなさそうだった。シビィ強い。
家近くで干しているとノズウェルの耳に入る可能性が上がりそうだ。
なので、森の日当たりのいい場所に吊るして干すことにした。
ちょっと気は早いが、木彫ナイフでキセルを彫っておいた。
オーテムで慣れているので、このくらいはお手のものである。
魔獣の血液を混ぜた塗料を塗って完成だ。これで簡単には燃えなくなる。
龍の装飾を施してある。これは格好いい。
シビィにもせがまれたので、シムパロットの装飾が入ったキセルを彫ってやった。
複雑な顔をしていた。
また、一週間が過ぎた。
そろそろ俺の成人の儀が近い。
だいたい、
試しに吸うのなら、もう充分だろう。
無事に乾燥した
魔術で小さな火をつけると、煙が上がる。
匂いはかなりいいと思う。
反対側に口をつけ、吸ってみた。
「かふぉっ!」
やっぱり、どうにもこの煙たい感じには慣れない。
カルコ家のものも試しに吸ってみたのだが、同じ結果だった。
体質から合わないのだろう。
俺は癖にはならなさそうだな。
しかし、味がわからないというのも困る。
一応『
「私も、私も試しに吸ってみたいです! 兄様、キセルを貸してください」
「駄目だ。ジゼルにはまだ早い」
悪いが、ジゼルには吸わせるつもりはない。
正直な話、
前世のせいか、身体に悪いんではないだろうかと勘ぐってしまう。
幸い、成人の儀で
ジゼルには、せめて二十歳になるまでは我慢してもらおう。
未成年の妹が煙草みたいなものをすぱすぱ吹かしてると思うと、兄としてちょっと引っかかるものを感じる。
「そうですか……あ、だったら、ちょっと、ちょっと咥えるだけでいいですから! 雰囲気を味わってみたいのです!」
「なんだ、こういう大人っぽいものに憧れてるのか?」
「別にそういうわけでは……いえ、そうです!」
どうにも背伸びしたい年頃らしい。
仕方ない、それくらいならいいか。
キセルを布で拭こうとすると、ジゼルに止められた。
「そのままで、そのままで大丈夫ですよ! すぐ返しますし!」
「……お前、本当に
しかし、味の確認はどうしたものか。シビィも
ジゼルに至っては吸ったこともない。
とりあえず目標となるポイントは綺麗に抑えられたつもりだが、やはり最終確認をしておきたい。
ここまできたのだから、大人はなるべく関与させたくない。
もしも失敗したとき、ダメージが大きいからだ。
俺とジゼルなら、まだ成人の儀も終えていない子供だ。
ノズウェルの親も、そこまで目くじらを立てて排除しようとはしないだろう。
しかしできることならば、吸い慣れている人から吸った感想を聞きたい。
悩んだ結果、こっそりと父の
早速帰ってから実験を行ってみることにした。
父がトイレに立った隙に、
代わりに持って帰ってきた
「む、今日の
「味に違いがあるのですか?」
「うむ。まぁ保管状態によっても品質が変わるからな。それに葉のついた位置、オーテムの個体差、天候の善し悪しによっても多少の違いは出るものだ。そのうち、お前にもわかる」
言っていることは的外れな気もしたが、上機嫌そうなのでとりあえずは大丈夫そうだ。
成人の儀では、父様の知人や血縁関係の近しい人が出席してくる。
俺が族長の弟子ということもあり、族長の機嫌取りを目的に来る人も多いだろう。
そこで自家製