転生の日
ここは一体どこなのだろうか。
頭がぼんやりするが、確かに意識はある。
俺はトラックに撥ねられたはずだ。
完全に死んだと思っていたが、人体は俺が思っていたよりもずっと丈夫なものだったらしい。
ひょっとしたら、バイトして海外から取り寄せた黒魔術アイテムの御利益だろうか。
確かゾンビパウダーとか、不死鳥のフライドチキンとかを食べた記憶がある。
因みにゾンビパウダーは甘かった。コーヒーに入れて飲んだ。
不死鳥のフライドチキンはゴムみたいな味がした。部の先輩である山さんと分けて食べた覚えがある。
トラックに撥ねられてから長い時間が経っているような気もするし、そうでないような気もする。
案外、軽傷で済んだのかもしれない。
歩道に飛ばされて意識を失ったところまでは覚えているのだが、自分が重傷だったのかどうかはあまり自信がない。
いや、しかし、生きていてよかった。
そういえばあの子、泣きながら俺に抱き付いていたような気もする。
これは再説得の好機がある。黒魔術研究部は永久に不滅だ。
そんな益体もないことを考えながら目を開くと、見知らぬ女の人がいた。
明らかに日本人ではない。髪も肌も透き通るように白く、眼は赤い。
美しく、儚げな印象の人だった。
かなり顔が近い。思わず首を退こうとしたのだが、上手く首が動かない。
女の人は俺と目が合うと、にこりと笑った。
「――――――――」
それは、明らかに聞いたことのない言語だった。
女の人の横から、一人の男が俺を覗き込んでくる。
そちらの男も女と同様に髪が白く、そして瞳が赤かった。
えっと、どこのお国の人ですか……?
「ァ、ア、ウァ……」
俺は手振りを交えながら意志の疎通を図ろうとしたのだが、上手く言葉が出なかった。
いや、それだけではない。
俺は、自分の手を見て驚いた。まるで赤子のような、小さな手だったのだ。
しかも目前の二人同様、色素の薄い色白である。
直感的に察した。
まさか俺は、生まれ変わったのではないだろうか。
ひょっとしてこの謎の異国風の美男美女は、今世での俺の両親なのではないだろうか。
いや、そんなこと、あり得るはずがない。
俺はばっと自分の足許を見る。
女の人に抱え上げられていた。
「アゥ、アゥッ! アァァァァアアアアアアアアアッ!」
俺は泣き叫んだ。
女の人は、あやすように俺を持つ手を上下してくれた。
違う、そうじゃない。
男の人と女の人は、俺を微笑まし気な表情で見ていた。
完全に我が子を見る親の目であった。