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49.あなたの、いちばんの友だちになりたい

 私には昔から、親しい友だちと呼べる女の子があまりいなかった。

 別に、いじめられていたとか、そういうわけじゃない。むしろクラスメイトの女の子たちには、わりと頼られていた方だった。自分って男のことが大嫌いだったから、いつもああいう奴らに立ち向かうことが多かったし、自分からいうのもなんだが、誰かの世話を焼くことも多かったから、だと思う。

 ただ、自分ってあまり素直になれない性格だったから。誰かに自分のこと、素直に表すことができなかったから。

 だから、やっぱり友だちはあまり作れなかった。

 子供の頃にそうだったわけだから、もちろん、「組織」で「別の姿」で活動することになってからは言うまでもない。


 だから、私は女の子の友だちがほしかった。

 ああいう、女の子同士の友情とか、そういうのにすごく憧れていた。

 道を歩いていたら、べったりくっついて何かを楽しそうに話す、同年代の女の子たちをよく見かける。

 それがとても羨ましくて。

 誰かと、そういう関係になりたいなって、子供の頃から、ずっと思っていた。

 ……「別の姿」になっている時には、より激しく、それを求めていたと思う。

 おしゃれとかコスメとか、有名人とか、そんなことにはあまり興味のない、この歳にもなって黒ロリ好きな、「別の姿」を持つツインテ女である私だけど、やっぱり、そういうことには歳相応に憧れてしまった。


 まあ、ここまで変人である私と友だちになってくれるだなんて、そんな都合のいい話、あるわけないけど……。

 でも、願うくらいならば、大丈夫だって信じていた。

 私にだって、そういうの、夢見る資格くらいはあるって思っていたから。

 たとえ、それがあまり叶えそうにない願いだとしても。


 ……失いたくないんだ。

 雫という、私にとって、誰よりも大切にしたい人のことを。


 ――昨日、雫とあったこと。

 未だに忘れていないそれを頭の片隅に置きながらも、私はモニターに写る、とあるサイトをぼんやりと眺めていた。

「今度はこんな服が入ってきたのか……」

 そんなことをつぶやきながら、私はいつもの、黒ロリ関係でお世話になっているサイトをじっと見る。

 今のように、何かに悩んでいて頭が痛かったり、何か癒やしがほしい時に、私はこのような黒ロリ専門店を眺めながら、つかの間のおだやかな時間を過ごしたりする。

 ここを見ていると、やっぱり心が落ちつくから。

 まあ、誰もいないっていうのに独り言が「別の姿」仕様であることは、お仕事場でこんなこと見ている自分が持てる、せめての建前ってことにしておきたい。


 そうやって、私が画面の向こうにある黒ロリに視線を奪われていた時。

 何の予告もなく、それは突然起きた。

「ほらほら、これ、最近流行りのブローチだって。わたしにも似合うのかな、柾……木?」

 急にそんな声と共に、事務室のドアがパッと開く。

 それは、最近自分がこんなに悩むことになったきっかけの一つでもある、私の婚約者の雫。

 よ、よりにもよって、こんな時にやってくるとは……。

 そういや私、雫が来る可能性のある時間帯には、ああいう黒ロリサイトとか、あまり行かないことにしてたっけ。

 雫のことで頭がいっぱいだったから、今までずっと、忘れていた。


 なんとか隠そうとはしたものの、雫はすばやく、私の前のモニターを覗き込む。

「何隠そうとしてんの。わたしたちの仲でしょ……あれ、ここは?」

「そ、それ以上言わないでくれ。恥ずかしい……」

 何で他でもない雫に、こんなことがバレてしまったんだろう。

 今まではなんとか、なんとか誤魔化してきたのに。

 雫が変な矛盾とか、そういうの、抱かないようにって……。

「へ~これって、これって……」

 雫は、一瞬、どう答えたらいいのか、非常に迷うような視線をこっちに向けた。そこまで震えている雫の視線、今まで初めて見たような気がする。

 そう、こんな顔が見たくなかったから。

 ――雫が私のことで困っている顔とか、そんなの見たくなかったから、今まで避けてきたはずなのに。


「ま、柾木って、こんな服が、好きだったんだね!」

 その時、急に雫が、無理やり明るい声で、そんなことを言い出した。

「あ、そ、その、雫、そこまで無理しなくても……」

「で、でもわたし、初めて知ったよ。柾木って、こういうコスチューム? とか、好きなんだ」

「あ、ああ、それはその……」

「なんだ、柾木って、わたしが知ってたよりすごく変態さんなんだ」

「まあ、否定はしない。雫はやっぱり、俺に幻滅したと思うが……」

「別にそんなことしないよ? だって、ああいう服、相手に着させるのは男のロマンって聞いたし」

「そ、そう言ってくれると助か……ちょっと、今、なんて言った?」

 私は、思わず自分の耳を疑う。

 だって、今の雫、ものすごくぶっ飛んだこと、口にしてたから。


「え、違うの? だって、柾木ってああいう服、えっちなこと……っていうか、そういうことのために見てたよね?」

「ち、違うっていうか、なんていうか……」

 はっきり言って、今の雫は、自分の想像を超える出来事が起きてしまったから、無理やりこじつけで納得している……っていうか、納得しようと頑張っているようにしか見えない。

 今の「別の姿」の私と、黒ロリ。

 そのありえない組み合わせを、なんとか「自分が納得できる」形に落とし込むために。


「ともかく、そういう欲望があったら、いつでもわたしに言ってね? そんなこと、あんまり遠慮しなくていいから」

「あ、ああ、ああ……」

 今の私は、さっきとはまったく違う、だが結局同じことで悩んでいた。

 ――できる限り、雫には悟られないように気はつけたけど。

 これ以上、雫に無理なんて、させなくなかったから。


 雫。

 私は、あなたの隣にいたい。

 あなたが求める私が、「元の姿」じゃなかったとしても、私のこんな、「変なところ」がバレてしまったとしても。

 私は、あなたのことが好き。

 やっぱり、ああいう目で見ることはできないけど、それでも、ずっと雫といっしょにいたいと思ってる。

 ……雫の方は、どう思っているのかよくわからないけれど。

 あなたの「都合のいい彼氏」になるのは、私にとって、決して嫌だとか、そういうわけじゃなかった。

 むしろ、辛いところもあったけど誇らしいことである……なんて言ったら、あなたは笑うかな。


 雫は、きっと本当に私のことが好き。

 私の「元の姿」のことがバレても今のまま好きでいてくれるのかはわからないが、少なくとも、私のことを大切に思っているのは確かだ。

 だから、別に信じてないとか、そういうわけでは決してない。

 でも、やっぱり、不安なんだ。

 どちらにせよ、私が元の姿をバラしてしまうと、私たちの関係は、きっと変わってしまうはずだから。


 私、わがままなのかな。

 お互いの「好き」の形は違うっていうのに。あなたが私に求めることは、「女の子の友だち」なんかじゃないというのに。

 それでも、いっしょにいたいと願ってしまう。

 こんなこと、私のエゴなのかな……。

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