41.また公園で
そうして、私と秀樹が「元の姿」で絆を重ねてから。
また、土曜日が戻ってきた。
「いや~久しぶりだね、ここも」
「……ああ、そうだな」
私と秀樹は、今、「組織」の近くにある、あの公園まで来ていた。お互い、あの時のように「別の姿」の状態である。
まあ、別にここに来なきゃいけない理由なんてないけれど……。あえていうと、なんとなくかな。
時間は昼過ぎ。これからますます暑くなってゆくはずだけど、今はまだ、太陽のまぶしさが心地よかった。
まあ、大変な目に会うのはこれからなんだけどね。
ともかく、今、重要なのはそっちじゃなくて……。
「あの時にはまだ、柾木とこうやって付き合うとか、えっちなこととか、考えたこともなかったのに」
秀樹が言っているとおり、私たちは恋人同士になって、もっともっと近い関係になれた。自分からこういうのを話すことはとても恥ずかしいけど、本当にそうなんだから仕方ない。
そういうわけだから、一度はこうやって、ちゃんと話し合いたくて。
私たちは、今、ここにいるんだ。
「これからはずっと、楽しいことばかり起きたらいいよね」
青空の下で、精一杯笑って見せながら、秀樹はこっちに振り向いて、そんなことを言う。そのまぶしい日差しと重なって、ますます秀樹のことが綺麗に……つまり、かわいく思えた。
今は「別の姿」なんだけど、それでも私の立派な彼氏。だからか、今の姿だって、とてもかわかっこいく見えてしまう。秀樹が聞くと、いったいどんな顔をするのかな。
こんなこと、口にすると恥ずかしいから、絶対に話さない。
だからこれは、私だけの感想、ってことにしておこう。
「今だから聞くが、秀樹って、本当に自分でよかったのか?」
「うん?」
そう聞いてみると、秀樹は目を丸くしてから、しばらく考え込んで、「あ、あれか」という顔をする。
「柾木が『別の姿』を持ってるということ?」
「ああ、やはり気になったんだろ?」
「まあ、ちょっとはそうだったかもしれないけど……別に気にしなくなったよ。そもそも、誰だって付き合ってみると、気になるところはどうしても見えてくるし」
「そ、そうか」
「そもそも、今の俺って、柾木のことが大好きなんだから、別の姿でもなんでも、どっちでもいいな」
「そ、そうか……」
ダメだ。
まだ、秀樹の話に照れてしまいそうになっている。
「俺はね、柾木に助けられたからさ、これからは自分が柾木の力になりたいんだよ」
私が心の中であたふたしていると、秀樹は私を見ながら、そんなことを口にする。
その晴れ晴れした笑顔が、とても、とても印象に残った。
「別に、俺は見返りとかを求めてそうやったわけじゃ……」
「でも、やっぱり柾木だって、辛い時くらいはあるんだろ?」
そ、それはたしかに、そうかもしれないけど。
私が何も返せずにいると、秀樹は胸を張って、今度は精一杯腕を伸ばす。この大きな空を、そのまま一気に抱きしめようとするように。
「だからね、これからは俺が柾木のこと、守ってあげる」
私は思わず、その姿に見惚れる。
どうしてだろう。ここまで子供じみた……というか、いつものような秀樹の姿なのに。
なぜか、それがとても、頼もしく思えるのだ。
「柾木のためならば、こんな姿でも大丈夫! まあ、実際にこうなってるわけだしね。これからは俺も、柾木のためになるよ」
「い、いや、そこまでしてくれて、こっちはなんと言えばいいのやら……」
こんな彼氏がいて、よかった。
私は今、心から、そんなことを思っていた。
その、自分なんか「別の姿」だし、素直じゃないし、だから可愛げなんてまったくないけれど……。
こんな自分を、大切にしてくれる人がいるなんて、今までは考えもしてなかった。
もちろん、雫のことはとても頼りにしてるけど、私の「別の姿」をそのまま受け入れてくれたのは、今はまだ、秀樹一人なのだから。
今だって、私は「組織」のことで忙しいというのに、「柾木に会いたいから」という理由だけで、わざわざ「別の姿」になってくれたんだ。この「組織」では、「別の姿」である方が目立ちづらいという、ただそれだけの理由で。
まあ、これからも秀樹は、検査などのために「別の姿」になることも時折あるはずなんだけど、それでも、今はただ、その心遣いがありがたい。
――もちろん、私だって、辛くなる時はある。
自分の矛盾されたところ、素直じゃないところ、雫や美由美のこと、それ以外にも、たぶんいろいろ……。
そんな辛さや弱い心に、いったいどうやって折り合えばいいのか、未だに答えは出ていない。
でも、秀樹とこうやって恋人同士になって、気づいたことがある。
私には、自分のことをわかってくれる大切な人がいるってこと。
やっぱり、秀樹に甘えるのは照れくさくて無理だけど……それでも、秀樹がここにいてくれるだけで、私はいつでも前に進めるんだ。
「あ、そうだ。せっかく外だし、今日は柾木に甘えちゃおう。えーいっ!」
「な、なんだ……なんだ、抱きつきか」
そうやって、今日も甘えん坊な秀樹に抱かれながら、私は考える。
――やっぱり、秀樹には敵わないな。
いつも私を照れさせて、いっぱい甘えて困らせて、そして、暖かくする。
誰かにここまで素直に愛させるのが、ここまで嬉しいだなんて、今まで考えたこともなかった。
このぬくもりを、大切にしたい。
秀樹の体温を体で感じながら、私はふと、そんなことを思った。
こうして無事に秀樹ルートが終わりました。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
自分が言うのもアレですが、こんなにニッチな作品に1000pvを超える反応があって、ものすごく頼りになりました。感謝です。
では、さっそくこれからの予定について。
最初の頃には、秀樹ルートだけなろうに載せようか、とも思ったんですが、自分の予想外に反応があって、それがとてもうれしかったので、もうちょっと連載しようと思っています。
一応雫・美由美というヒロインたちのルートまでを想定していますが、これからどうなるのかは未定です。
ただし、次は雫ルートだということは確定していますので、これからの「ジュブイク」も、どうかお楽しみにしていただけたらと思います。
ちなみに、本編であるジュブイクは「秀樹ルート(今までの内容)→雫・美由美ルート→グランドルート」みたいな感じで進んでゆく予定です。
またまた先は長いですが、引き続きお楽しみにしていただいたら幸いです。
雫と美由美ルートは秀樹ルートのその後が舞台ですので(作品の時間帯も6月から7月へと移ります)、このまま読んでいただいても大丈夫です!
雫ルートはあくまで、「共通ルートであった16話までのどこかに出てくる、(秀樹ルートを見てから出現する)とある選択肢を押し、それによって開いた」ルートになります。
たぶん読み返してみると、どこらへんに選択肢が入るのか少しわかるかも?
さて、これからは少し前の話になりますが……。
すでに記載したとおり、ジュブイクは基本的に「本番」がある作品でして、なろうに連載することになってからは、その本番を削ってお届けしてします。
とはいえ、まだ書き切ったわけではなく、あくまで「こういうシーン」というアイデアと、構成くらいしか用意されてませんが……。
もちろん、その本番の場面をこのままなろうに書くわけには行きませんが(どちらにせよ、えっちなところがメインではない作品なので、本編はなろうで上げたかった)、少しでもジュブイクのいろんなところをみなさんに見せたい! とどうしても思ってしまい、本番の後のピロートークをここに載せてみようか、と考えています。
ただし、ピロートークを書くためにはこっちも本番を書く必要があると思ったので、少し遅くなってしまうかもしれませんが……。
できる限り、雫ルートを優先しようとは思うものの、せめて最初のピロートークくらいは上げてみたいと思っていますので、気長に待っていただけたら幸いです。
では、これからの「ジュブイク」も、どうかよろしくお願いします!