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25.これが「好き」ってことかな

「あれ、柾木って最近ぼうっとしてるよね。珍しいっていうか、なんていうか」

「そ、そうか。そうかもな」

「うーん。疲れた? やっぱり、学園生のうちにお仕事をやるのは辛い?」

「まあ、それもないわけでは……」

「そっか、じゃ、応援してあげようか? がんばれーがんばれーとか?」

「そ、それはちょっと、その、自分が……」


 どうしたんだろう。最近の自分はおかしい。

 なぜか、秀樹が気になって仕方なくなったのだ。

 なんで、と言われても、自分でもよくわからないから、答える術がない。

 だけど、秀樹の「何でもない」仕草にいちいちドキリとしてしまう。今だって、がんばれーとか、ものすごくかわいい、と思ってしまった。

 ……これって、なんだろう。

 秀樹のことを意識していることは自分でもわかるけど、これがどういう感情なのか、自分でも説明しづらい。


 もちろん、秀樹は、私がこんなことで悩んでるのはこれっぽっちも知らない。こんなの、バレるだけでも十分恥ずかしいから、私は必死で何でもないフリをした。

 だから、そんなこっちの気持ちも知らずに、秀樹は今日も私に甘えてくる。

「まーさーきー!!」

「な、なんだ」

「いや、呼んでみただけ」

「子供……か」

 あ、危ない。

 こんな、いつものような掛け合いすら、今の私には限りなく危険なことだった。秀樹には子供か、と言っておいたんだけど、実は恋人同士か、と言ってしまうところだったんだ。

 ともかく、どうしたんだろう、私。

 これって、まさか、誰かを好きになる気持ちとか、そんなわけ……。


 そんなことを思いながらも、私は秀樹と「組織」の建物の外に出て、いっしょに周りを歩いていた。やっぱり、室内ばかりだと辛くなる時もあるだろうから、いっしょに外に出よう、と私が提案したからだ。

「やっぱりね、こんなに天気がいい日には外に出るとテンション上がるよねー」

「そうか」

「そうだよ。柾木も時には、こんなふうに外を楽しんだ方がいいって」

 特別なことは何もなかった。もう、秀樹といっしょにここにいるのも、そこまでおかしなことではない。こうやって、並んで歩くのも、すでに慣れたような気がした。

 でも、なぜか、そんな秀樹に視線が行ってしまう。どれだけ「別の姿」だとはいえ、やっぱり元の方の面影もしっかりと残ってるから、よけいにドキドキする。自分が「異性」といっしょに歩いているのが、すごく実感できるから。

 今の秀樹は、いったい何を考えているんだろう。

 あくまで他人である私には、こんなふうに、そっと横顔を眺めるのが限界だった。いつものようなノンキな顔からは、それを読み取るのがちょっとむずかしい。

 ……なんでだろう。ただそれだけなのに、すごく悔しい。

 バカだな、私。

 秀樹は、こんな私の気持ちすら知らないというのに。


 その日の夜。

「自分って、いったいどうしたんだろう……」

 さっきと同じことをつぶやきながら、私は水汲みのために廊下へ出てきた。今日もお仕事は山のように積もっている。たぶん、このままじゃ徹夜になりそうだ。

 廊下に出てきた私は、近くのウォーターサーバーで水を飲む。いつものように、一気飲みだ。

「はあ……」

 自分から見てもだらしないとは思うけど、こうやって一気に水を飲むと、ものすごく気分がいい。気のせいなのかはわからないが、心もすっきりしたような気分だ。

 そうやって心が晴れてくると、自分が最近、ずっと思っていたこともまた蘇る。

 自分って、やっぱり秀樹のことが好きなのかな。

 頭がすっきりすると、そんな感情も、自然に受け入れられるようになった。


 だって、別にそれはおかしいことじゃない。たぶん、私は今、秀樹のことが「好き」なんだと思う。

 こんなの、認めることすら恥ずかしいけど、事実は事実だ。

 以前、秀樹が自分の部屋で、昔付き合った女の子がいると話してくれた時、私は動揺した。これも認めてしまうと恥ずかしいけど、今になっては仕方ない。

 よく考えてみると、それはおかしい。別に付き合ってもない秀樹の元カノの話に、なぜ自分はそこまで「なんでもない」と必死に思っていたのだろう。

 ……まさか自分から、秀樹のことが気になるだなんて。

 以前の自分に聞かせると、きっと笑われる。賭けてもいい。

 だが、今はそれが、私にとっての真実だった。

 べ、別に、はじめて出会った時から惚れていた、というのはないと思うけど……。


 ――なら、もう残っていることは。

 そこまで考えて、私は急に怖くなった。

 告白って。自分からやるのか、それを。

 思い浮かべるだけで、その可能性を頭におくだけで、怖いところか、今すぐ逃げ出したくなってしまう。

 それに、以前にも言われたように、私は最初に、秀樹のことを嫌って……っていうか、冷たくあしらっていた。

 そんなやつが、自分から「好きだ」と告白だなんて。

 でも、このままじっとしているのは、こっちが辛い。

 悶てしまう。我慢できない。

 だって自分だけ――自分だけが、つらい思いをしなきゃいけないのだから。


 どうしよう、私。

 どうしたら、この気持ちをまとめることができるのだろう――

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