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第65話:エピローグ-1

「……」

 そう、事件そのものは終わった。

 しかし、ある意味ではここからが本番でもあった。


「ご主人様」

 バグラカッツ含め、スレブミト羊爵とその配下の貴族たちは逮捕され、個別に事情聴取。

 これは事前に証拠を集めていたことと、配下の貴族の何人かが減刑と引き換えにあっさりと自白をしてくれた事もあって、あっさり終わった。

 また、バグラカッツとその仲間たちが王都で拠点としていた建物から、それぞれの強盗現場で手に入れた財貨や資料が見つかった事も、自白がスムーズに進んだ要因だろう。

 どうやら、バグラカッツは資料の棄却を命じられていたが、保身のために密かに残していたらしい。

 それも有象無象の記録ではなく、明らかになればスレブミト羊爵にとってクリティカルになるような資料を分類し、まとめておいてくれるという形でである。

 ある意味でバグラカッツの優秀さが窺える話だろう。

 なお、そんな優秀なバグラカッツは捕まった週の青の日には処刑された。

 死人に口なしであるらしい。


「分かってるから大丈夫だ」

 それと、王都での動きに合わせて、スレブミト羊爵領でも動きがあった。

 まず、件の隠し鉱山と採掘の為に作られた隠し街が摘発され、貴族、平民、それと違法奴隷の孤児たちなども含めて、その場にあった物全てを押収したらしい。

 同時にスレブミト羊爵領の領都でもスレブミト羊爵家の嫡子や家令などの主要人物を拘束して、反乱を起こせないようにしたそうだ。

 で、王家が処分を決定するまでの暫くは王家とフオセンド北絹爵双方から代官が派遣されて、相互監視の形を取りつつ、スレブミト羊爵領を治めるらしい。

 とは言え……スレブミト羊爵家を完全に潰してしまうのは、それはそれで面倒だろうから、恐らくは現嫡子を廃嫡し、王家寄りでなくともマトモな頭の持ち主の誰かに家を継がせて、アチラの処分はおおよそ終わりだろう。


「さて、アストロイアス君。どうして此処に呼ばれたのかは分かっているかな?」

 とまあ、事件のその後はこんな感じであり、俺も色々と細々とした調査や書類仕事に追われていた。

 そしてこの日、俺とクロは第七局の局長、レジンスア様に呼ばれて、局長室にやってきていた。

 レジンスア様も、スインツテア様も笑顔を浮かべ、ウォルカタ様は相変わらず眠っているが……非常に怖い。


「僕、面倒事は御免だと言ったよね。なのになんで、特大級の面倒事……第一局と第六局を抑えて、君が大活躍するなんて状況になっているのかなぁ? これ、完全に局の区分を侵犯しているんだけど?」

「えーと、ですね。それは不慮の事故と申しますか、不可抗力と申しますか……」

「ふうん……」

 レジンスア様は大変お怒りであるらしい。

 お怒りであるらしいが、こちらとしては第一局を抑えての活躍……恐らくはスレブミト羊爵家にあった塔を破壊した案件については、ディックと言う名の王太子様の御要望に応えただけなので、文句は言われたくない。

 第六局の方にしても、フルグール孤児院強盗殺人事件の犯人が、偶々他の強盗殺人事件も起こしていただけという話で済ませていい案件である。

 なので、流していただきたい。


「アストロイアス君」

「はい」

「とりあえず報告書を上げようか。他の局に対して差支えのない内容で。期限は……明日、4月第4橙の日の朝一としておこうか。スレブミト羊爵の逮捕から一週間経っている事だしね」

「あ、明日までですか」

「うん、明日まで。これまでの経緯を逐一まとめてあるなら、なんと言うことは無いよね」

「そ、そうですねー……」

 俺は思わず目を逸らす。

 実を言うと、他にやる事を優先していたため、これまでの経緯はあまり書いていない。

 なので、明日という期限はかなりキツいのだが……期日の変更をしてもらうのは無理そうだ。


「クロエリア君」

「は、はい!」

「アストロイアス君のサポートを頼む。無いとは思うけれど、仕事を投げ出したり、逃げ出そうとしたりした時には力づくで抑えて、とにかく仕事をするように促すといい。それくらいしないとこういう時には上手く働かないのがアストロイアス君だからね」

「分かりました。ご主人様の為にも精一杯お勤めさせていただきます!」

「よろしい」

 元々取る気はなかったが、逃げるという選択肢は完全に無くなったらしい。

 クロの力づくとか、俺では万全の状態でも抗うのが限界である。

 ましてや一週間経っても、俺はまだ万全とは言い難い状態なので、どう足掻いても抵抗は不可能である。


「さて、何か質問はあるかな?」

 俺もクロも首を横に振る。


「よろしい。では、報告書を楽しみに待っているよ」

 そう言うとレジンスア様は局長室を後にした。

 それとなくスインツテア様に伺ったところ、今回の一件に関して調査局上層部で色々と話し合いがあるとの事であり、完全に面倒事の類のようだった。


「ご主人様」

「分かってる。量が量だから、急いで書き始めよう」

 そうして俺は今回の一件を書き始めようと思ったが……報告書の書上げは一向に進まず、結局日暮れ近くになってから、敢えて真実を表に出した報告書を書き上げることになったのだった。

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