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第63話:バグラカッツ捜索-8

「助かったが……自分の魔糸を他人に供給するのは、今後禁止だ。全身が弾け飛んで死ぬところだった」

「はじっ……分かりました。やらないようにします。ご主人様」

 無事に復活は出来た。

 なので俺はまず輸血ならぬ輸糸行為を今後はしないようにクロへとはっきり言っておく。


「ほう、そんなに危険な行為なのか、親友」

 そこへディック……いや、ヨル・キート王国王太子ディプスィーク=ヨル・キートが話しかけてくる。

 さて、正体を知ってしまった以上は、ここで畏まった態度を取るべきなのだろうが……今の俺にそんな余裕はない。


「危険なんてレベルじゃない。今も体内で制御しきれないクロの魔糸が暴れ回って……げほっ、ごほっ。ぶっちゃけると、魔糸の制御にしくじったら、そのまま身体の何処かが吹き飛びかねない状態になっているな」

 俺の口から血の塊が吐き出される。

 どうやら肺か喉の血管が何処かで弾け飛んだらしい。

 その光景にクロは蒼ざめ、ディックは諦めた顔し、ディックの従者たちは明らかに引いている。


「ご、ご主人様! 血が……」

「とりあえず内臓が傷つくよりは体表が裂ける方がマシだな」

 今度は左腕の皮膚が裂けて、血が滲みだし始める。

 しかし、内臓に対する魔糸の操作を優先したおかげで、体内のダメージはだいぶ落ち着いている。


「私のせいで……」

「クロは俺を救うためにやったんだろ。だから何も問題は無い。問題は無いが、今後は本当に禁止だ。普通の魔糸使いに同じことをやったら、十中八九死ぬ」

「はい……」

 輸糸の結果としてこんな状態になるのは……まあ、一種の拒絶反応、あるいは個人個人の魔糸の性質差が出ているんだろうな。

 後は保有できる魔糸の量の差も原因として挙げられるか。

 なんにせよ、自分のものでない魔糸が原因となって、強度強化以上に別の強化が起きて……いや、強度強化もおかしくなってるな。

 油断していると、魔糸の暴走による体内組織の硬質化も起きそうだし、ガン化や自己組織の疾患に端を発する病気を併発しそうだ。

 輸糸による復活そのものは上手くいっているのだし、きちんと研究をすれば、安全な輸糸も出来るようになるのだろうが……時間はかかるだろうな。

 ああまずい、考える事が多すぎて、考えがまとまらない。


「親友がそこまで言うなら、基本的には禁止するべき行為と言う事か。やるなら、本当にいざという時だけだな」

「心配しなくても、そもそも普通に魔糸を使っている分には魔糸不足になんて陥らない。これは魔物の力を使っている貴族特有の問題だろ」

「かもな」

 うん、脇に置いておこう。

 そして俺自身の魔糸の量はだいぶマシになってきたし、クロの魔糸っぽいものは体の何処か安全そうな場所に……


「うっ……」

「ご主人様!?」

「あー、大丈夫だ。少し耳の方に魔糸を回しすぎた」

 俺の頭の中に周囲の音や物の位置が非常に鮮明な形で入ってくる。

 どうやら元がクロの魔糸だけあって、身体強化の効率が非常によろしいようだ。

 別の場所に回す……前に、少し周囲の状況を把握するか。


「ディプスィーク様。塔の上層部の制圧完了しました。スレブミト羊爵も右腕と右足が焼け焦げていますが、確保に成功しました」

「分かった。残りは?」

「地下です。どうやら下水道から逃げ出そうとしているようで、現在は前後から挟み撃ちにして、制圧を試みています」

 第一局の誰かがディックに報告をする。

 報告の内容は正しい。

 確かにスレブミト羊爵は『落雷』によって右腕と右足を焼かれて失神し、捕えられている。

 そして地下では地上から追っていた局員と、予め下水道に張っていた局員が、バグラカッツたち生き残りを挟み撃ちにしている。

 この分ならば、直に捕らえられるだろう。

 そう、俺が思った時だった。


「っつ!?」

「ご主人様?」

「ディック、バグラカッツが一人だけ囲みを破って、逃げ出したようだ。俺はそっちを追う」

 バグラカッツが囲みを無理やり突破した。

 そして、残りのメンバーを見捨てることによって全員の虚を突いて、下水道を高速移動し始めている。

 他の反逆者を抑えないといけない第一局の局員たちにバグラカッツを追う事は出来なさそうだ。


「……。追えるのか?」

「追えるし、捕えられる」

「分かった。行け。応援は直ぐに出す」

 俺はディックと少し言葉を交わして駆けだす。


「ご主人様、そんな体で……無茶です!」

「此処でバグラカッツを逃がす方が拙い」

 直ぐにクロも俺の後ろに着く。

 バグラカッツの位置は……何とか追えているな。

 スピードと下水道の複雑さでこちらを撒く事を考えているから、追いやすい。

 追いやすいが……今の俺の脚だと振り切られるな。


「クロ、全身強化を維持したまま、聴覚を強化できるか?」

「……。出来ます」

「ならやってみてくれ。そして、向こうの地下から聞こえているのがバグラカッツの移動音だ」

「……。捉えました。では、ご主人様は……」

「よし、俺を担げ。そして、バグラカッツが下水道から外に出ようとする所まで追い続けるぞ」

「えっ!?」

「担いでくれ。クロの言うとおりに無茶だったらしい。息が上がり始めてる」

「……。分かりました! しっかり捕まっててくださいね!」

 クロが俺を担ぐ。

 そして地下を行くバグラカッツと地上を行くクロの追いかけっこが始まった。

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