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第56話:バグラカッツ捜索-1

 翌日の4月第3白の日は久しぶりの雨だった。

 だが、雨かつ休日だからと言って休んでいられる状況ではない。

 だから俺はクロと共に買い出しを装って局員寮の外に出た。


「あの……ご主人様?」

「なんだ?」

 春の雨と言う事もあって、雨脚は強くない。

 しかし、きちんと傘を差さなければ、色々と濡れてしまう事になる程度の雨だ。

 もっと言ってしまえば、いざという時は無視できる量の雨だが、平時まで無防備に浴びていたい規模の雨ではない。

 なので俺は大人二人が入れるような大型の傘を差している。


「これって、どうやっているんですか? 傘自体も水を弾いているようですし……」

「ああ、これか?」

 と、クロが不審な目を傘の外側に向ける。

 傘の外側では、傘の縁から出た細い金色の魔糸が宙を漂っては、魔糸に触れた雨水を俺とクロの後方、俺たちが濡れない位置へと受け流している。

 当然、俺のやっていることだ。


「俺の傘は魔糸の適性に合わせて骨が金属製になっていてな。傘そのものに強化を施してあるのが一つ」

「こんなに細い金属でもいいんですか……」

「魔糸による強化を前提にするならな」

 まず、俺が使っている傘は特製の物である。

 この王国ではまだ傘そのものがそこまで一般的でないと言うのは置いておいて、一般的な傘の骨が木で出来ているのに対して、この傘の骨は金属で出来ている。

 それもクロが指摘したとおりに、魔糸による加工が行われたと一目で分かるような細さ。

 そしてアルミなどと言う便利な物ではなくただの錆止めが施された鉄なので重くもある。

 が、それでも使い物になるのが魔糸による強化と言う物である、いざという時の武器としての用途含めて。


「で、傘を自分の体の一部と考えて、傘の縁から俺の魔糸を出して。外に出た魔糸には触れた雨水を特定の方向へと弾くように命令を出してある」

「えーと?」

「特定の条件に従って動くように魔糸へ事前に指示を出しているって事だな」

 でまあ、話を戻すとだ。

 俺は傘の外に出ている魔糸には、特定の条件で自動的に反応、特定の操作を行うように命令……と言うよりはプログラミングをしてある。

 これのおかげで、雨の中を二人で歩いていても雨粒一つ触れずに済むようになっているのだ。


「……。そんなことも出来るんですね」

「その都度、魔糸が繋がったと認識してから、細かく指示を出したり強化したりじゃ、間に合わない場合もあるからな。他にも用途はあるが、基礎が出来ている魔糸使いが使うなら、かなり厄介な使い方も出来る」

 さて、この魔糸のプログラミングとでも言うべき技術だが……魔糸を各種方面で活用するなら、是非とも習得しておくべき技術である。

 基礎と慣れと知識は必要だが、出来て損になることは無いだろう。


「厄介ですか?」

「バグラカッツの推定水圧カッター……と言うよりは水に高圧力をかける技術だな。たぶんだが、同じような事をやって、高速化は図っていると思う」

「なるほど……」

 とは言え、戦闘用途が一般的で、非戦闘用途でも自分の適性に関わる使い方しか各自が魔糸の使い方を模索していない王国の世の中で、俺のように雨を避けるためだけに魔糸を使っている魔糸使いなど早々居ないが。


「あれ? と言いますか、ご主人様。もしかしなくても、今日のような雨の日のバグラカッツは……」

「厄介だろうな。普通に考えれば」

「いえ、普通に考えなくても水に適性のある魔糸使い相手に雨の日と言うのはかなり危険だと思うのですが……」

「普通ならな」

 改めてとなるが、俺たちはバグラカッツたちを探して寮の外に出ている。

 見つければ、不意打ちで沈められない限りは戦闘にはなるだろう。

 そして、水に適性のある魔糸使い相手に雨の日に挑むと言うのは、一見すれば自殺行為にも思えるシチュエーションだが……案外そうでもない。


「だが、バグラカッツは普通の魔糸使いじゃないからな。直接圧力をかけられる近接戦闘と水圧カッターを撃てる中距離戦はともかく、遠距離戦に限ればバグラカッツは雨の日の方が苦手だろう」

「そうなんですか?」

「恐らくでしかないけどな。しかし、嫌がる可能性は高いと思うぞ。大量の雨粒と言う壁を前にして、強化が途切れて自然法則に従って飛ぶだけの水圧カッターがそこまでの威力を出せるとは思いにくい」

「なるほど」

 バグラカッツは水に適性がある魔糸使いではあるが、射程と言う面において難のある魔糸使いだからだ。

 そこを突くならば、晴れの日よりも雨の日の方がやり易いだろう


「とは言え、相手の隠し玉が水圧カッターだけとは限らないし、油断は出来ないけどな」

「……」

 しかし、水圧カッターを思いついたバグラカッツの手札がそれだけとも限らないし……定番以外の隠し玉も少しは考えておいた方がいいか。

 相手の足元の水に特定方向に対する圧力をかけて、超高速で転ばせるぐらいは出来るかもしれない。


「とりあえずクロは戦闘に入ったら、全身強化を絶やすな。それだけでクロなら何とかはなるからな」

「分かりました。ご主人様」

「さて、早いところ見つかってくれると嬉しいんだがな……」

 その後、日が暮れ、バグラカッツたちが行動を起こすであろう時間まで粘っては見たものの、動きは見られなかった。

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