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第45話:作戦会議-3

「まず第一に、陛下は今回の件を出来るだけ穏便かつ表に出さずに事を終えたいと思っている」

「内乱を起こしたくないからですね」

「その通りだ」

 まあ、内乱が起きてくれた方が得をすると思っている連中と言うのは、だいたい碌でもない連中だからな。

 普通の連中は内乱が起きない方がいいに決まっているし、上手くやれる奴は内乱が起きようが起きまいが上手くいくと相場が決まっているからだ。


「第一局としても、陛下のご意向に沿う形で事を進める事で一致している」

「だから、スレブミト羊爵と最低限の実行犯か」

「その通りだ」

 そう言った連中には可能な限り得をさせるべきではないし、余計な事を考えたり、したりすると報いを受けるぞと言う脅しは必要だ。

 だから、俺としても第一局の方針に異を唱える気はない。


「では、具体的に何処までを捕らえるかだが……まずはスレブミト羊爵領にある隠し鉱山。ここは必ず押さえる。鉱山そのものの違法性もだが、違法奴隷も居るし、探れば他にも何かあるかもしれない。第一局、第二局、第三局に軍の一部も出張って一気に落とす予定だ」

「え……それって結局は内乱に……」

「ならないし、させないさ。幸いにして隠し鉱山は山奥。きっちり包囲して仕留めれば、事が終わるまで押さえられている事が露見する事もない」

 ディックが笑みを浮かべる。

 まあ、第一から第三の局員に軍が出てくると言うのなら、制圧については心配しなくてもいいだろう。

 むしろ動く人間が多すぎて、それで事が露見しないかが心配だが……俺の気にする事ではないか。


「次に今回の件の実行犯、つまりはバグラカッツたち。こいつら……特にバグラカッツは必ず捕まえろ。陛下のお膝下である王都で強盗殺人事件を起こしているだけでも許し難いことだが、バグラカッツは存在そのものがスレブミト羊爵の違法行為を示しているようなものだからな」

「それが第六局とアストの仕事と言う事ね」

「そうだ。ただ、バグラカッツの実力を考えると、アスト以外が当たるなら最低でも3人以上で事に当たるべきだな。1人で当たるのは絶対に辞めておけ」

「分かったわ。第六局の皆にも伝えておく」

 バグラカッツたちを捕まえるのは当然俺たちの仕事だ。

 クロもやる気に満ちている。

 しかし、俺としては……


「クロ、お前は……」

 危ない目に遭ってほしくないから、寮か第七局に居て欲しい。

 そう言おうとした。

 だがそれよりも早くクロが口を開く。


「ご主人様について行きます」

「いや、それは……」

「ついて行きます。『俺の目の届くところに居てくれ。居てさえくれれば大体の事はなんとかできるからな』でしたよね」

「……。分かった」

 確かに言った覚えはある。

 言った覚えはあるが、それは魔糸に関しての話であって、今回の話には関係がない気もするのだが……。

 それと、ネーメとディックの二人から俺に向けられる視線が痛い。

 特にネーメからの『分かっているんでしょうね?』と、言わんばかりの視線が。


「ははは、さて親友の身内状況はさておきだ。スレブミト羊爵とその側近数名については俺を含めた第一局が担当する」

「……。大丈夫なのか? 羊爵ともなると、身辺警護も相当のものだろう」

 俺は微妙にニヤけているディックに視線を向ける。

 実際、俺の懸念事項は現実のものになるだろう。

 相手は羊爵、当人の実力も相応の物だろうし、周囲に警護が居ないなどと言うのは有り得ないだろう。


「心配無用だ。俺を誰だと思ってる? 親友」

「ディック=ヨリート。ヨリート綿爵家の四男坊だろう? まあ、実力があるのは学生時代の模擬戦で知っているが、それとこれとは話が別だろう」

「いいや、同じだとも。俺の知る限り、親友以上の魔糸捌きが出来る魔糸使いが居た覚えは無い。そんな魔糸使いを知っていたら、量が多いだけの連中なんて三下にしか思えないな」

 が、ディックは何も心配していないようだった。

 いやまあ、確かにディックは強い。

 ヨリート綿爵家の生まれとして、殆ど羊爵と言ってもいい量の魔糸を持っているし、黄色の魔糸によって強化を施した剣は鋼の鎧であっても難なく切り裂ける。

 身体強化も一応は出来るし、状況判断能力なんかも確かだ。

 だがしかしだ。


「油断するな。戦いに絶対はない。必ず勝てるなんてのはあり得ない。俺に出来る事は、俺以外にも出来る事なんだからな。バグラカッツの魔糸の使い方がいい例だ」

「……。きちんと心に留めておくとしよう。親友」

 一瞬の油断が死に直結するのが戦いと言う物だ。

 戦いの場で誰が生き残って、誰が死ぬかなんてのは蓋を開けてみるまで分からないものなのだから。


「で、スレブミト羊爵を捕えるのに北の方に行くのか?」

「いいや、その心配はない。来週の赤の日だが、スレブミト羊爵当人がやってくる形で、王都にて羊爵主催の夜会が開かれる事になっている。そこで事を終わらせる」

 スレブミト羊爵が王都にやってくる?

 どうしてだ?

 俺としては非常に気になる事だったが、ディックに教える気は無いらしい。

 笑顔を浮かべたままだ。

 だから俺は話題を変える。


「それまでバグラカッツたちは泳がせておくのか?」

「まさか。見つけ出し次第捕縛しろ。アレを放置するのは危険すぎる」

「分かった。となると夜は張り込んで、昼は地道に探すしかないか」

「頼むぞ」

 方針は分かった。

 やる事に変わりはない。

 しかし、敵はこれまで以上にはっきりした。


「じゃあ、まずは地図でも取ってくるか。クロはディックたちに茶の替えを頼む」

「分かりました。ご主人様」

 だから俺は部屋の外に出ると、資料室に向かった。

02/06文章改稿

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