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85話 アレタ・キサキ・ユートン・イン・パーティーそのⅥ

 




「ふふ、で? さっきから何度も言ってますよね? 味山さんは私が看ておきますから、えっと、雨霧さん? あなたは会場に戻って頂いて結構です」






「あら。まあ。貴崎凛さん。とても怖い顔でございますね。目尻に、皺が寄っていますわよ?」






「お気遣いなく、私まだ10代なのですぐに消えるんです。え? 雨霧さんは皺がすぐ消えないんですか?」





「ふふ、若さだけを誇る女が歳を取った時、そこには何が残るのでしょうか? 見てみたい、気も致しますが……」






 うわあ。




 味山只人が目を覚ました瞬間、部屋に充満する甘い匂いにまず気付いた。




 女のいい匂いにうっとりする間もなく、綺麗な声で繰り返されるお上品な罵倒。




 よし、寝たふり続けとこ。




 味山は状況を瞬時に理解し、薄目を開けるのをやめて。







「あ、起きた」




「あら、おはようございます。味山様」





 ダメだった。



 どうやって判断したかは分からないが、貴崎と雨霧ははっきりと味山の覚醒に気づいていた。





「……おはようございます…… あの、2人とも、近いんすけど」




 味山が観念して眼を完全に開く。



 近い、近いよ、ほんと。




 顔のいい女が2人、上着を羽織ったドレス姿で味山を覗き込んでいた。



 ほぼ抱きつかれてるかのような距離感。




 うわ、貴崎まつげなが。色白。




 雨霧さん唇潤いすぎ、なんかめちゃ新鮮な桃みてえ。あと目でっか。





 割と本気で2人の顔の良さにビビる。コイツらほんと顔で飯食っていけるわ。あ、雨霧さんは顔で飯食ってるわ。




 寝起き特有のボケた頭のせいでIQの低い感想しか抱けない。





「あ! ご、ごめんなさい!」



 目が合った貴崎が、わひゃっと叫びながら後ろに下がる。その動きは早い。




「あ、悪い、貴崎。ちがう、セクハラじゃないんだ。顔近づけてごめん、キモいよな。ほんと通報だけは勘弁してください」




「い、いえ、お、驚いただけですので…… お、お気になさらず」




 やってしまった。貴崎はまだ学生だ。いくら成人とされる歳とはいえ一昔前前ならまだ児童だ、児童。




 何よりもコンプライアンスと条例を恐れる味山が早口で貴崎に謝る。




 貴崎は貴崎で、誰も踏んだことのないゆきみたいに白い肌を桜色に染めて髪の毛をいじいじしながら離れてしまった。




 やべえ、怒りで顔が赤くなってる。





 どうにか味山が何かいい言い訳を貴崎に伝えようとして身体を起こす。








「あら、ふふ、わたくしが近いのは味山様、お嫌、ですか?」





「お嫌じゃないです」





 気付けば脳が勝手に言葉を紡いでいた。




 とびのいだ貴崎とは裏腹に、更に深くしなだれかかってくる雨霧。




 もう、やっばい。



 髪の毛の先から果物でもなってるんじゃね、と思うほどいい匂いがする。





 甘い、脳みそを蕩かせるような匂い、ニオイ。



 ドレスの上から分かるしなやか、かつ柔らかそうな身体。ほんの少し手を伸ばせばそれに触れるような距離。




 視覚に伝わる情報もあまりに女の魅力が暴力的で。





 本当、美味そーー






「馬鹿野郎が!! このコンプラ野郎!!」




 どがん。



 味山が反射的に自分の側頭部、"耳"の辺りをぶん殴る。今、何を考えていた?




 女の身体見て美味しそうって、完全にヤバい奴じゃねえか。




 味山は思ったより良いのが入ってしまい痛む耳を抱えつつ、舌を噛む。すっごいぐわんぐわんするがそこまでしてようやく、雨霧に対して芽生えた妙な興奮が収まってきた。





「あ…… フフ」




 痛みにうずくまり頭を下げた味山は見ることが出来なかった。




 それに耐える味山を見て、雨霧が笑っていたことに。妖艶な女の笑いではなく、無垢な少女が、何か自分にしかわからない喜びを笑うように。





「味山様……」




「え? なんすか? 今結構いいの入ったんでもう少し待っーー」




 言葉が止まる。




 雨霧の目、潤んだ瞳に、半開きになった唇。




 それがゆっくり、近づいて。




 柔らかな腕が味山の頭を包む。もう、味山の視界には膨らんだ青い高そうな生地のドレス、盛り上がった胸元しか映らない。




 あ、見え、見えそーー






「味山様ーー」





「ちょっと!!? こ、の!!」





 柔らかい言葉、それとともに柔らかい感触が消えた。




 味山の頭を抱きしめていた雨霧を、貴崎がものすごい速さで引き離していた。




「あ、ん。ふふ、なんだ、まだいらしたんですか? 貴崎凛さん」




 貴崎に、上級探索者に羽交い締めにされてるにもかかわらず雨霧は余裕を崩さない。




 むしろなんか、背中から掴まってるせいで髪は乱れ、胸は突き出されて、腰がくねっている為、余計色気が、やばい。




 ぶっちゃけ、顔の良い女2人がドレス姿で絡んでる姿は清々しくエロかった。




 味山は静かに心のフォルダに目の前の光景を収める。




 なんで寝てるのか、とか。ここはどこだ、とか。あの後どうなったのか、とか。




 そんな事はもう全てどうでもいい。ただ、この目の前の最高のご褒美の光景を脳内に収めることだけに集中する。




 味山は無意識にベッドのうえで正座をしていた。



「いますよ! い、いいいいま、貴女、何しようとしてました?!




「あら、ふふ。可愛いお顔が真っ赤ですよ、貴崎凛さん。なに、とは?」




「なに、なになにって、今、あなた完全にき、き、キスしようとしてましたよね?! なんかもう完全にキスしようとしてました!」




「あらあら、だって、味山様が痛そうにされていましたので。ご存知ないんですか? わたくしの故郷では口付けには痛み止めの効果があると言い伝えられてありまして」





「どこの国の話しですか?! もしその話がほんとだとしても、ここはニホンの領土です! だめです、そんなの!」





「ふふ、お可愛いこと。貴崎凛さん。でも、貴女に止められる謂れはございません。……味山様は、わたくしに口をつけられるのお嫌ですか?」





「お嫌じゃ…… いかん。いえ、雨霧さんにそんなんタダでやっていただくわけには……」





 思わずお嫌じゃないと言ってしまいそうになったが、ウルウルした目をこちらに向ける貴崎を見て反射的にそう答えた。





 なんだこの状況。




「ふふ、ああ、面白い。でも、わたくしはやりたいようにやります。私の可愛い2人のセンニンからもお許しを得ていますので」




「え、あ!?」

 



 貴崎が声を上げる。






「あ」



 味山も驚いた、なんなく雨霧が貴崎の拘束を解き、抜け出た。力ではない、洗練された技術による動き。




 そして、呼吸の合間を縫うように雨霧が味山に覆い被さって。







 ちゅ。




 耳に、柔らかく、そしてわずかに湿り気のある感触が。






「ふふ、いたいのいたいの、飛んでいけ。合っていますか? 味山様?」




 雨霧が、味山の耳に口付けた。





「あ、あ、あああ……」




 貴崎が物悲しい声を上げる。




 味山は未だに何が起こったのかわからない。




 髪のセットが解けた雨霧、長い濡れた鴉羽の黒髪がベッドに垂れ、暗いとばりのようになっているそれから雨霧の表情が、見える。




 長い人差し指で自分の唇をなぞり、微笑む。




 WAO。



「味山さま。続きは貴方の方からしてくれる日を楽しみにしていますね」




「あ、はい」




 味山がぼけーっと、返事を返す。わあ、すっごい柔らかかった。




 ただでさえ高くないIQが更に低くなる。




 味山がぼけーっとベッドで正座のまま固まってると。





「う、ううううう!! し、失礼しますね! 味山さん!」




 ふっ、一瞬、貴崎が本当に視界から消えた。



 たまにあの渓流のゆめのなかで、鬼裂に稽古をつけてもらうときにみたことある特殊な足運び。



 それによく似ていてーー









 ちゅ、ぺろ。




 柔らか。小さ、熱。




 薄い花みたいな香りが鼻を擽る。次の瞬間、雨霧に口づけされたところと同じ場所に感じる、感覚。





「あ、は、あは、やっちゃった…… ご、ごめんなさいいいい。うう、でも、これが味山さんの……」




 貴崎が耳から唇を離す。貴崎もまた、味山の耳に身体を乗り出して口づけをした。




 真っ赤な顔で、目を泳がせる貴崎。


 しかし、口元には確かな笑みを浮かべて。



 ぺろり、赤い舌が艶かしく桜色の唇を舐める。




 OH。




「ど、どうでした? 味山さん」



 どこか的外れの貴崎の言葉。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳。



 男の嗜虐心を煽る表情、それを目にした味山は





「あ、はい」




 もう、味山にはIQがなかった。



 非モテのアラサーには刺激が強すぎる美女と美少女のその仕草。





 もう何がなんだかわからない。




 味山はとりあえず2人のエロい表情を心の鍵フォルダに焼き付けようとガン見する。





「ねえ、味山さま。どうしてわたくしがあなたにこんな事をするとお思いですか?」




「はい」




「ふふ、もう、惚けたフリはよしてください。いけず、です。わかっておられますれるのでしょう? あなたは少し鈍い方ですが、馬鹿ではない」




 雨霧の顔が近い。



 やばい、本当に近い。その整いすぎた顔が近づいてくる。いや、近付いているのは俺? ああ、もうわかんねえ。




 味山が雨霧に吸い込まれそうになって。





「こ、こっち! こっちも! こっち見てください! 味山さん! わ、私もわたしもなんで味山さんにこんな事するか、考えたことありますか?!」




 こきっ、物理的に貴崎が味山の視線を奪う、見事な力と理の合一。



 こめかみを両手で抑えられぐいっと、首ごと引き寄せられる。





 え、何この状況。





 顔の良い女。



 動きが多かったため、若干ドレスの着付けが乱れている。髪の毛は少しばらけて、胸元は緩くなり、スカートの隙は多い。肌めちゃ見える。





「味山さま」




「味山さん」





「なんでわたくしが」




「なんで私が」






「「こんな事、貴方にするって思いますか?」」






 2人の女の潤んだ眼差しに、味山はもうーー










 がちゃり。




 ドアが開いた。










「答えは簡単よ。貴女達がヒトのモノを欲しがる発情した雌犬だから」





「そうよね? タダヒト?」








 タマが、ヒュン。



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<苦しいです、評価してください いつも本当にありがとうございます> デモンズ感

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