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シンショク

 



 ……

 …



 〜アレタ・アシュフィールド、自宅。深夜、味山只人が夢を見ている時と同時刻〜






 心が、みえればいいのに。




 あなたの心が、どんなものなのか、見えたらいいのに。




 あたしは、おそらく今日中には帰ってこないだろうメッセージの返事をそれでも待ちながら、広いベッドに仰向けに寝転ぶ。




「……ひどいメール。めんどくさい奴ね、我ながら」




 自分で打った文章を流し見してため息をつく。なんでこんなメール送っちゃったんだろ。ほんと、意味わかんない。




「……やな気分ね。ああ、ほんとにやな気分だわ」




 あなたの心が見えたなら、こんな気持ちにもならないのかもしれない。



 思考がまとまらない、自分が何をしたいのかがわからない。



 こんなメール送ったところで、なんの意味もない。なのに、送らずにはいられなかった。



 反応が、欲しい。あなたが、あたしを認識して、意識していることを確認したい。





「……だめね。飲み過ぎたわ。ルーンのことは言えないわね、これじゃあ」




 端末を枕元に。もしかしたら、彼が気まぐれで返信をするかもしれない。いや、それはないか。




 タダヒトの事だ、きっと気付かないフリして明日の朝に返事が来るに決まってる。



 それはわかり切っていた。





「……これでもあたし、アレタ・アシュフィールドなんだけどな……。ほんとにわかってるのかしら、あいつ」



 言ってから、ふと自分の傲慢さに気付く。




 あたしが、アジヤマタダヒトを気に入っているのは、そう、今のところ上手くやれているのは彼がそういう奴だからだ。




 そういう奴、彼はどこまでもとぼけた奴だからだ。




 あたしを、52番目の星、英雄、指定探索者、VIP、そんな特別な存在としてのアレタ・アシュフィールドじゃなく、只の1人の個人、只のアレタ・アシュフィールドとして接してくれる。





「……」




 でもそれは彼が天然だからというわけじゃない。



 味山只人は、世間での立場、人間の役割が理解出来ないタイプではない。むしろその逆、評判、世間体、立場には人一倍敏感な小市民だ。




 彼は意識的に、あたしの役割や、立ち位置を無視して接してくれている。



 もし、出会い方が違っていれば、彼とてあたしを52番目の星として扱うだろう。




 他の大多数の人たちと同じように、世界に輝く星として。





「わがままな女ね、こんな人間だったのかしら」




 彼があたしを特別扱いしないのが嬉しい。1人の人間として接して、笑って、驚いて、怒って、そうしてあたしと接してくれるのがとても嬉しい。





 彼があたしを特別扱いしないのが、腹立たしい。彼はあたし以外の人間に、あたしに向けるような笑いを、驚きを、怒りを、向けるのがとても腹立しい。





 あたしを特別扱いしないで欲しい。




 あたしを特別扱いして欲しい。




 相反する欲望は、しかし確かにあたしの中に存在する本当の気持ちだ。





 タダヒトにはあたしを優先して欲しい。




 タダヒトにはあたしを優先しないで欲しい。





「ふ、ふふふ、なんて奴かしら。ロクな女じゃないわ」





 かたかたかた。



 部屋の調度品が、揺れる。




 びゅう、びゅう、窓を揺らして風が吹く。




 いけない、最近気を抜くとすぐにこうだ。




 あたしは目をつむり、深く呼吸をする。




 この力は、あたしの心と深く結びついている。最近、時間が経ってそれがわかってきた。





 合衆国の研究チームの何人か、あの年の近い研究員クンの仮説はきっと、正しい。




 ストーム・ルーラーは、いいえ、全ての遺物は所有者の心、感情の動きに呼応する。



 まあ、研究員クンからすれば、脳内の電気信号の動きに反応しているって表現するでしょうけど。




 ふと、気付く。



 風が止んだ。



 さっきまで静かな夜の空気を窓を通じて感じていたのに、今はもうそれが分からない。





 ああ、またか。




 あたしはため息をつく。




「……あなた、趣味が悪いわ。こんな時間にレディの部屋に侵入するのはやめて欲しいのだけれど」




 あたしは、暗い部屋、ベッドから起き上がり、ゆっくりと腰掛ける。




 リビングの入り口、キッチンのバーカウンターの辺り、闇が濃いその部分に話しかける。






「ふふ、今更ね。合衆国、あなたの国の研究チームだってこの部屋に沢山の監視システムを置いてるじゃない。私1人、遊びに来るくらい多目に見てよ」




「名前も知らない女の子、夜中に突然現れるあなたみたいのをなんていうか知ってる? お化け、ホラー、怪物。その他もろもろね」




「うふふふ、ひどいわ。傷ついちゃう。ねえ、あなた悩みがあるのね。とてもとおても、素敵で、可愛い悩み。でも不思議だわ。あなたはその悩みを解決できる力を持ってる。なんでそれをしないの?」




「……もう寝る。あなたも早く消えてちょうだい」




「ふふふふふ、あなたには力がある。あなたはそれをもう使っている。もう、戻れないわ。そしてあなたは知ってる。あなたが欲しいものの手に入れ方を」




「欲しいものなんて、ない」




「嘘よ。あなたは欲しい。あの人が、あの男が欲しいの。でも、あなたは人間から離れてるから、きっと手に入れても幸せにはなれない。あなたが苦しいのは、悩んでるのはね」




「……やめて」




「あなたが苦しんでるのね、あなたが人間のフリを続けてるから」




「……黙りなさい」




「あなたは人間の幸せを求めるべきじゃない。あなたは彼と共に在るべきじゃない。あなたと彼の関係性は対等じゃない。支配者と被支配者の関係よ」




「……ほんとに、やめてってば」





「手に入れなさいな。彼を、その力で。簡単よ。その力を振るって、彼とあなたの邪魔するもの全て壊せばいい。理解し合う必要なんてないわ。だってあなたはーー」





「黙れ」





 びゅう。




 風が吹き始める。世界が動き始めて、窓から秋の夜の空気が伝わる。




 ゆっくりと、雲に隠れていた青白い月が、あたしの部屋を照らす。




 そこにはあたししかいない。月明かりのもとにはあたししか。




 濃い闇、そんなもの存在しない。




 あたしは、目を瞑る。




 眠ろう。疲れているんだ、慣れない実験、崩れた1日のリズム。自律神経の乱れが見せる幻だ。




 眠る、夢の中へ。




 せめて良い夢が見れるように願いながら。あの嵐の夢や、ありもしないもしもの世界の夢なんかではない、ただ暖かくやさしいゆめを。







「……おやすみ」




 月明かりに寝転ぶ。



 ベッドの豊かなスプリング、シートの冷たさが心地よい。




 ねむけが脳を撫でる。




「……あなたは、どんなゆめをみてるのかしら」





 手放す意識、ふとくだらないことを思う。




 もし、ゆめで会えたらそれはとてもーーーーーー















 ええ、とても素敵ね、私。















 ……

 …



 〜合衆国バベル派遣研究チーム、"レベル・アップ"観察ログ202810記録より〜



 アレタ・アシュフィールドの就寝前監視記録。




 入眠の寸前、部屋に備えている極小監視カメラ群に異常有り。






 暗所録画機能付きの592個のマイクロカメラ、その全ての動作が停止。原因不明。




 辛うじて残った集音マイクが、アレタ・アシュフィールドの会話音声を記録。




 何者かとの会話らしきものの録音に成功。



 しかし、その時刻、アレタ・アシュフィールドの自宅に訪問している人物の記録は無し。



 声紋鑑定の結果、記録された音声、その全てはアレタ・アシュフィールド本人のモノと確定。





 会話、と思われた音声は全てアレタ・アシュフィールドが1人で話していたものだった。




 この会話らしき音声羅列終了後、マイクロカメラ全てが一斉に復旧。



 技術チームが、その全てを回収、しかし今日までカメラに異常は見られない。





 アレタ・アシュフィールドの実験進行行程を見直す必要があると大多数の職員が検討中。





 研究班責任者の判断により、集音マイクの記録を極秘情報として秘匿。クリアランスレベル・ブルー以上の職員以外の検閲を禁ず。










 クリアランスレベル・ブルーを確認。





 以下、アレタ・アシュフィールドの寝室で確認された不可解な会話記録。




 注意。



 この音声記録は、全てがアレタ・アシュフィールド1人の音声である。







 5






 4







 3









 2








 1








「……あなた、趣味が悪いわ。こんな時間にレディの部屋に侵入するのはやめて欲しいのだけれど」





[アレタ・アシュフィールドのため息の音]












「縲後?縺オ縲∽サ頑峩縺ュ縲ょ粋陦?嵜縲√≠縺ェ縺溘?蝗ス縺ョ遐皮ゥカ繝√?繝?縺?縺」縺ヲ縺薙?驛ィ螻九↓豐「螻ア縺ョ逶」隕悶す繧ケ繝?Β繧堤スョ縺?※繧九§繧?↑縺??らァ?莠コ縲?♀縺ウ縺ォ譚・繧九¥繧峨>螟夂岼縺ォ隕九※繧医?」




「名前も知らない女の子、夜中に突然現れるあなたみたいのをなんていうか知ってる? お化け、ホラー、怪物。その他もろもろね」




「縺??縺オ縺オ縲√?縺ゥ縺?o縲ょす縺、縺?■繧?≧縲ゅ?縺医?√≠縺ェ縺滓か縺ソ縺後≠繧九?縺ュ縲ゅ→縺ヲ繧ゅ→縺翫※繧ゅ?∫エ?謨オ縺ァ縲∝庄諢帙>謔ゥ縺ソ縲ゅ〒繧ゆク肴?晁ュー縺?繧上?ゅ≠縺ェ縺溘?縺昴?謔ゥ縺ソ繧定ァ」豎コ縺ァ縺阪k蜉帙r謖√▲縺ヲ繧九?ゅ↑繧薙〒縺昴l繧偵@縺ェ縺???溘?」




「……もう寝る。あなたも早く消えてちょうだい」




「溘↓縺ッ蜉帙′縺ゅk縲ゅ≠縺ェ縺溘?縺昴l繧偵b縺?スソ縺」縺ヲ縺?k縲ゅb縺??∵綾繧後↑縺?o縲ゅ◎縺励※縺ゅ↑縺溘?遏・縺」縺ヲ繧九?ゅ≠縺ェ縺溘′谺イ縺励>繧ゅ?縺ョ謇九↓蜈・繧梧婿繧」




「欲しいなん↑縺溘て、ない」




「縲悟?繧医?ゅ≠縺ェ縺溘?谺イ縺励>縲ゅ≠縺ョ莠コ縺後?√≠縺ョ逕キ縺梧ャイ縺励>縺ョ縲ゅ〒繧ゅ?√≠縺ェ縺溘?莠コ髢薙°繧蛾屬繧後※繧九°繧峨?√″縺」縺ィ謇九↓蜈・繧後※繧ょケク縺帙↓縺ッ縺ェ繧後↑縺??ゅ≠縺ェ縺溘′闍ヲ縺励>縺ョ縺ッ縲∵か繧薙〒繧九?縺ッ縺ュ縲」




「……や繧後めて」




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「……黙鮟吶j縺ェ縺輔>縲」





「縲後≠縺ェ縺溘?莠コ髢薙?蟷ク縺帙r豎ゅa繧九∋縺阪§繧?↑縺??ゅ≠縺ェ縺溘?蠖シ縺ィ蜈ア縺ォ蝨ィ繧九∋縺阪§繧?↑縺??ゅ≠縺ェ縺溘→蠖シ縺ョ髢「菫よ?ァ縺ッ蟇セ遲峨§繧?↑縺??よ髪驟崎??→陲ォ謾ッ驟崎???髢「菫ゅh」




「……ほんと繧薙→縺ォ縲√d繧√※縺」縺ヲってば」






「縲梧焔縺ォ蜈・繧後↑縺輔>縺ェ縲ょスシ繧偵?√◎縺ョ蜉帙〒縲らー。蜊倥h縲ゅ◎縺ョ蜉帙r謖ッ繧九▲縺ヲ縲∝スシ縺ィ縺ゅ↑縺溘?驍ェ鬲斐☆繧九b縺ョ蜈ィ縺ヲ螢翫○縺ー縺?>縲ら炊隗」縺怜粋縺?ソ?ヲ√↑繧薙※縺ェ縺?o縲ゅ□縺」縺ヲ縺ゅ↑縺溘?繝シ繝シ縲」





「鮟吶l縲」














 会話記録、終了。





 この会話は全て、アレタ・アシュフィールド1人が、1人で話し、1人で問いかけ、それに答えている。





 アレタ・アシュフィールドが話していた言葉らしきものに類似する言語体系は地球上のどの文化圏にも存在しないものである。




 この会話、音声の発声終了後、アレタ・アシュフィールドは入眠。脳波の反応から強い悪夢を見ていた可能性有り。






 被験体、アレタ・アシュフィールドに心的ストレスが強くかかっている可能性がある。




 以上のデータを本国に送信、より詳しい解析を待つ。






読んで頂きありがとうございます!






わ宜しければ縺ー縺ー縺ー縺ー縺ー縺ー縺ー縺ー縺た縺ー縺ー縺ウ縺ウ

しりがとう縺ゅj縺後→縺?#縺悶>縺セあはます!ありがとうございます。なりがとあ縺ゅjわ縺後→縺?#縺悶セ縺たございまなよろ縺ー縺ー縺ーた縺ーはー縺は縺ー縺ー縺ー縺た縺ー縺ウ縺ウありがとわうわ

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