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ソフィ・ダイアリー

 



 今日は、楽しかった。久しぶりに会ったあのいけ好かない女も元気そうでよかった。



 結局あのあと、アレタはあの2人組の男から話を全て聞き出して、それはもう愉快な感じに仕上がってしまった。



 酔いもあるのか、アジヤマに対する愚痴を続けて普段の凛とした彼女からは想像も出来ない姿をワタシに見せてくれた。




 アジヤマ・タダヒト。ワタシは未だに彼に対する評価を決めかねている。



 つまり、信頼に値する人間か、否か。



 と言っても、ワタシは実のところかなり彼に絆されている。アレタが彼を異常なまでに気に入っているのを除いては、彼という人間はワタシにとっても割と、好ましい奴だ。



 人間の価値は、窮地にこそ、その真価を発揮する。ワタシのアレタがピンチの中で1番星のように輝くかの如く。



 その点で言えば、アジヤマは悪くない。ソフィポイント的にも、あの時、撤退戦においてアジヤマはいのいちに殿軍を申し出たのは高得点だ。



 ああ、そうだ。ワタシは窮地の中、恐怖に立ち向かうことの出来る人間が嫌いじゃない。ああいう人の姿を見るたびに、この世界も捨てたものじゃないと認識させてくれる。




 だが、ワタシには懸念がある。




 アジヤマの隠している謎についてだ。



 彼はときに恐ろしいほど簡単に真実にたどり着く。


 共にした探索において、ワタシより早く怪物種の特性や、正体を言い当てたり、推測したり。



 はっきりと問い詰めたことはない。あくまで彼は指定探索者、アレタ・アシュフィールドの補佐。つまりは、アレタの所有物だ。ワタシが過分に口を出すのは、アレタを信用していないことになりかねない。



 アジヤマ、君が自分から言い出してくれれば楽なのだが、きっとキミはそれをしない。



 特異な力をひけらかすのは愚策だと考える程度にキミはきっと、利口で、臆病なのだろう。





 臆病。



 そうだ、アジヤマのある種恐ろしい点はここにある。




 彼の人格は、至って単純。




 実利的、自己中心、慎重で臆病。




 至って普通の大凡なる人間のものだ。それだけならいい。彼の特異なところ、いいや、はっきり言おう。




 恐ろしいところは、同じく単純。





 彼は窮地において、それらを簡単に捨て去る。



 平時では、実利、自己中心、臆病な彼、そのはずなのに実際はどうだ?



 窮地に陥った途端にそれを本当に忘れたかのように捨て去るのだ。



 他利、自己犠牲、大胆にして蛮勇。



 それが窮地においてのアジヤマタダヒトのあり方だ。



 人はそんなにも簡単に、あり方を変えれるものだろうか。



 その時、その環境、その状況で変わる彼の人間性の変容。それがワタシには恐ろしい。




 ああ、こうして文章に書き出していてわかった。



 アジヤマは、少し、ラドンと似ているんだ。



 あの天才にして、天災。ついぞ生きている間には奴の真意などまったく触れることが出来なかった傑物。




 目を瞑ると、ラドンの雑なドレッドヘアと発明や科学に興奮しで高笑いするあの姿が今でも思い浮かべる。



 クソ親父。




 ああ、あのクソ親父とアジヤマは似ているんだ。



 目的の為に、簡単に自分を捨てることができるあのイかれた部分が。




 あのクソ親父が生きていれば、きっとアジヤマを気に入ったことだろう。ふむ、なんだかんだアジヤマもあの親父と相性が良さそうだ。




 ……アジヤマタダヒト、ワタシは願う。キミが同士であることを。



 アレタ・アシュフィールドのためならば、世界にすら歯向かう大馬鹿であることを、祈る。




 世界はよくない方向に向かっている。アレタ以外に深度Ⅲに到達する可能性のあるものは未だ現れない。




 頼む、頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む。どうか、どうか、アレタをこのままで。




 ワタシは今が続けばそれでいい。それ以上は求めない。




 アレタがいて、ワタシがいて、助手がいて。そこにはアジヤマも居ればそれなりに心強い。



 あの、アレタが選んだ人間だ。だから、ワタシも信じたい。




 ラドンの予言した通りに、世界は進んでいる。このままアレタの深度Ⅲへの移行が科学的に解明され、L計画が完遂されたのち、世界は大きく変わるだろう。




 ……なぜだ?  ラドン・M・クラーク。ワタシを孤児院から見出し、娘にした男、稀代の天才、世界の天災。あの男はなぜこれほどまでに性急に、そして綿密に、L計画なんてものを遺した?




 アレはどこまで行っても愉快犯、自分が楽しめないことに関わるような人間じゃない。



 自分が死んだ後にまで遺る壮大な計画。



 その最終目的は"人類へのレベル概念の付与、及びそれによる種としての強化"



 奴にしては迂遠すぎる計画。



 ラドンは何のために、L計画を遺した? そしてあの委員会のカビ臭い連中がなぜあれほどまでにL計画に固執している?





 ……ラドン、あの親父は何かに備えていた?




 ……ダメだ、酒の廻る頭ではまとまらない。朝が近い、そろそろ寝よう。




 そういえば助手の奴、今日は帰らないつもりなのか?


 まあ、そんな日があってもいいか。




 ……待てよ、アジヤマが夜遊びしていたということは、まさか……



 ふむ、詰問が必要かも知れないな。ワタシの助手だ。しつけもワタシの仕事の内だ。




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