ライアン・フロディの日記 その1
僕の名前はライアン・フロディ。
バベル島での生活が始まったことを記念に生まれて初めて日記を書き始めてみた。いつかこれを読み返した時にこのことを懐かしく思える日が来ることを願っている。
日記というのはどのように書いていくものなんだろう。同僚のモンタナに聞いてみると、いつもの息子を諭すかのような声色で奴は俺にこう言った。
ライアン、日記に書き方なんてものはない。お前が思ったことをただそのままに、感情のまま、起こったことを事実そのまま書き綴るだけでいい。それが大事なんだ。
知った風な事を言う奴だ。だが、良い研究者というのは他人からの助言に耳を傾ける奴のことを意味する。モンタナの言う通りにしてみたいと思う。
研究者、そう、俺は研究者だ。あるいは科学者といってもいい。MITの理学部を卒業後、そのままマクガヴァン脳科学研究所に入り、分子神経学を専攻としている。
今回、合衆国の総力を挙げて計画されたこのオペレーションに参加出来るのは光栄だ。現代ダンジョン、バベルの大穴。史上最大の神秘、科学者にとってのブラックボックス。初めてバベルの存在を知った時は今まで学んできた事全て、読んできた本の全てを燃やし尽くしてしまいたいと思ったのを今でも覚えている。
それほどまでに、この場所はクレイジーでエキサイティングで、何よりもクールだ。先人が文字通り血の滲む努力で、爪を剥がしながら一枚一枚剥がしてきた神秘のヴェール、科学とは常に未知への挑戦だった。
ようやく科学がこの世界の神秘、そのほとんどを明らかに出来る、そう思っていた矢先に
これが現れた。
翻訳。バベル現象。まずこれから意味が分からない。どうやったら、一体何をどうすれば言語の齟齬をチャラに出来る? 脳のどの部分にどのような物質がどのように反応すれば、ニホン人とアメリカ人が言語齟齬なしに意思疎通出来るというんだ?
バベルの大穴とはよく言ったものだ。まさに、かの神話。神を恐れず、全ての世界の言葉が統一されていた時代、その再現じゃないか。
それと何よりクールなのは、あれだ! モンスター! クリーチャー! 怪物種!! ワオ!! 最高だ! 生物学の歴史に泥どころかクソとキャンディを混ぜて塗りたくったようなあの生命! 不思議なのは地上に住む生物と形がよく似ているものも多いことだ。形が似ているということはつまり、生命の樹形図の中のどこかで怪物種と地上の生き物が混じっていたタイミングもあるということじゃないのか? まあ、これを書き始めると貴重なオフを全て使い果たしても足りないから、この辺で。
あー、結局自分が何を書いているのか分からなくなってきたな。もしこれを読んでるのが合衆国の検閲員や、ぼく自身じゃないのなら適当に読み飛ばしてくれ。
というか、俺の日記を読んでいるのが俺以外という状況はあまり良くないな。
おい、君! キミだよ、キミ! この長ったらしいくだらない文章をここまで読んでいる奇特なキミだ!
なんで俺の日記を勝手に読んでいる?! …… なんてね。そんな奴がいるわけない。いるわけはないが、そうだな、世の中にはあらゆることが起こりうる。もしかしたらこの日記を俺以外の誰かが読んでいることも十分あるわけだ。なら、ここまで読んでくれたキミに感謝を。そうだな、こうしよう架空の読者がいるという体なら日記を続けることができるかもしれない。
そうだ、これは良いアイデアだ。
よし、名前も知らないキミ。俺はライアン・フロディ。このオペレーション、あー、オペレーション"レベル・アップ"の研究メンバーだ。
これからオペレーションの期間、日記を続けようと思う。気が向いたら、そうだな、ロクにやることがない日や、お気に入りのWEB小説の更新がない日、ソーシャルゲームのイベントがない時や、退屈な通勤通学の日。
暇な時に、気が向いたら俺の日記を読んでくれよ。キミという読者がいるんなら続きが書けそうだ。
退屈はさせない、何せあのアレタ・アシュフィールドに関わるオペレーションだ。
人類の進化に彼女はもうリーチをかけている。よし、そう考えたらなんとなくテンションが上がってきたぞ。
まずはストーム・ルーラーの内部エネルギーの反応の変遷とアレタ・アシュフィールドの関係性から始めていこう。
じゃあ、読者のキミ。そろそろ仕事の時間だ。次の日記でまた会える日を楽しみにしてるよ。
ライアン・フロディ。オーバー。
一度こういうの、やってみたかったんだ。
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