58話 バベル・イン・アクターⅦ
刀を構える。味山がその男を見る。
「あ、ありえない…… そんなワケ、出来るワケが…… 出来るわけがない!」
カウントダウンもなしに放たれる銃声。
味山にカラーボールが迫り、そして。
「遅い」
腕を振るう。
刀が真横に振られる。なにもしていなくてもひんやりと濡れている刃が滑り、宙空をゆくカラーボールを断つ。
ぱしゃ。
真二つになったボールがまた味山の足元に。
「参れ」
「な、ほ、本当に…… 刀で……そんな野蛮な棒切れで……?」
大統領が今度こそ認識する。
斬られた。
今、目の前で己の放ったカラーボールが、断たれたのを認識する。
「参れ」
だん、味山が壇上を大きく踏み締める。また一歩、大統領に近付いた。
「あ…… み、みなさま! し、ショウはお楽しみいただ方でしょうか!? こ、これにて、ガンマン対サムライは終わーー」
味山の様子の変化に気づき、自分の立場に気付いたらしい大統領が軌道修正を図る。
だんっ!!
揺れる。空気が揺れるような踏み込みに大統領がびくりと体の動きを止める。
「参れ」
腹の底から湧く声。はっきりと通るその声に誰もが息を飲む。
「お前が引いた引き金だ。既に貴様は線を超えた。もう戻ることは出来ない」
味山が刀を構える。片手で持つその鋭い刃を大統領に、乗り越えるべき恐怖へと向ける。
「始めた事は終わらせなければならない。銃を構えろ、アランウェイク大統領」
その言葉。その振る舞い。
味山の再現した物語、鬼を裂く神秘の残り滓との合一。
「ワアアアあああああああああおああ」
「凄い!! 本当に斬ったぞ!!」
「ホンモノのサムライじゃないか!!」
「こりゃいい!! 大統領がピンチだ!」
嗤いがまた起きる。
もうそれは統制が取れていない悪意だ。
酔いに呑まれた人が、その浅ましい本性をーー
「だまれ」
静かな声だった。でも腹の底から響かせた声だった。
掻き消されるはずの声量は毒のように観衆へと広がりその昂りを一瞬で、鎮めた。
沸いたヤジを歓声を口笛を、全て搔き消す。
マスコミのフラッシュすら、消えた。
朝方の湖の水面如く鎮まった会場に味山の声が響いた。
「これは貴様ら下郎への見せ物にあらず。俺と奴の果たし合いぞ。次、邪魔をしたものいればそっ首、叩き落としてくれる」
向き直る。刀を構え、壇上で目を剥く大統領へと言葉を向けた。
「よい、これで邪魔者はおらず。遠慮せず参れ」
「は、はあ、はあ…… お、おいおい、そ、そんなに熱くなるなよ、Mr タダヒト…… こ、これはジョーク、ショウのはずだろう?」
余裕の態度を保とうと張り付いた笑顔に浮かべた言葉。
恐らくこのような危機を何度も超えてこの男は大統領になったのだろう。
いつも通り余裕を取り戻そうと笑う。
「よい、もはや言葉はいらぬ。火筒と刃があるのなら答えはそこにあろうて」
「だ、だから、あれはーー」
「参れ」
それでも往生際悪く喚く大統領に、味山が短く返す。
「気付け。貴様が超えたラインを。踏んではならないものを踏みにじった失態を。それを雪ぐに言葉は不要」
「あ、はは…… 舐めるなよ、ニホン人。斬れるわけがない。この距離で、そんな野蛮な棒で、ただの偶然…… いい気になるな!!」
パァン!!
「よい」
すぱり。
2つに斬られた球から、血のように塗料が溢れる。
そして、一歩。味山が大統領へ近づく。
撃ち放たれたカラーボールを1つ、斬り落とすたびに、味山が大統領へと近づく。
「や、やめろ。くるな…… 何をするつもりだ。くるな!! おい、お前達!! コイツを早く摘み出せ!!」
大統領が、ようやく自身の護衛達に声を掛ける。
事態を見守り、指示を待っていた屈強なボディガード5名が大統領の周りに集う。
筋骨隆々、身長も2メートル近い黒尽くめの男たちが大統領を守る。
世界最大の権力を持つ男はその姿に隠れて見えなくなる。
「ぷっ!! ははは、ははははははは!!」
味山がその様子を見て、笑い始めた。腹を抱え身体をくの字におりながら大笑いする。
「な、なんだ!! なにがおかしい!?」
「あはははは!! なにが? なにがおかしいだと? あはははは、これは、これは滑稽よな!! 世界を動かす選ばれた人間が、俺のような凡人に怯え! そんな大仰に護衛を呼ぶなど! どうした、大統領! まさか先程の口上をわざわざ本気にしてくれたのか?」
「な、何を、何を言っている?!」
「いやなに、気にするな。まさかアンタがここまで面白い奴とは思ってなかった。ああ、アシュフィールドもきっと気にいるさ。大統領の力の素晴らしさに。喧嘩の場に頼れる大男がいつもついてきてくれるって言えばいいさ」
「笑うな、嗤うな! お前のような身の程知らずが、俺を嗤うな!」
声を震わせながら、大統領がボディガードの隙間から身体突き出して叫ぶ。必死に抑えられながらも唾を飛ばした。
味山はその必死な様子を見て、唇を歪めた。
「どうした? 必死な顔をして? アンタが言ってたんだ。これはショウだって。最後まで演じてくれよ」
「だ、黙れ、黙れ! そんなものもう終わりだ! おい、お前達、アイツをすぐにひねりつぶせ」
味山がヘラヘラと嗤う。その笑い方はよく仕事中に無意識に出るものだ。
自らより強大なモノ、自らが滅ぼすべきもの、それへ向ける嘲笑。
「はは、侮ってた奴に手を噛まれるのはどんな気分だ? ああ、なんか、いい歳こいて最後の最後にはボディガードみたいな他人に守ってもらわないとロクに立てないアンタは、あー、なんつーか、こう、あれだ。見てて笑えるっていうかーー」
酔っぱらいの笑み。
「みじめすぎて、笑えるぜ。よく生きてられるな、あんた」
それを言い放った。
「あああああああああああああああ!?!?!!!」
「大統領?!!」
瞬間。
目を剥き、近くにいた黒服から何かを奪いとった大統領がめちゃくちゃに喚く。
プライドを大勢の前でめちゃくちゃにされた酔いに侵されている男の行動は早く、短絡的だった。
「ジャッアアアアアアプ!!!?!」
がちん。
奪いとり、構えたそれは拳銃。その国に広く流通し、その国の自由の象徴になっている武器。
流れるような手つきで簡単に外された安全装置。
酔いにより、その引き金は更に軽く。
やべ。煽りすぎた。
味山は簡単に突きつけられた本物の銃に一瞬、焦る。
そしてすぐに刀を構えた。
「限界を超えて働け。神秘の残り滓」
パン。
乾いた破裂音。あまりにも一瞬の出来事に会場の誰もが動かず。
「あ、ははは…… は………?」
血走り、凶行に走った大統領が浮かべたのは疑問符だった。
張り上げられた刀。下から掬い上げたように刀を振るった味山は倒れず。
き、きん。
少し時間を置き、空中に舞っていた2つの金属片が大統領と味山の間に落ちた。
シンと広がる静寂。
大統領を守っているボディガードたちが恐らく最初に気付いたのだろう。
ジーザス…… 呟きが聞こえた。
「な、なんで…… うそ、だ。うそだうそだうそだうそだうそだ!! おま、お前、銃弾を!?」
「鬼裂が、業。"種子島"」
銃弾を、斬った。
音速を超えて飛ぶ銃弾を斬り、あまつさえその勢いをいなし、殺し、叩き落とした。
「少しコツがある。斬ると同時にな、真二つにした弾の腹を弾くのよ。これをせねば種子島はその勢いままに直撃するでな。イセナガシマやナガシノでは痛い目に負うたわ」
ケラケラ笑う味山、その言葉ぶり、体捌きは既に味山だけのものではなかった。
「あ、あ、ああ……」
刀が振られる。その冷たい刃に一つの毀れなし。
味山が一歩進む、二歩進む。
「ひ、ひい……!!」
どた。間抜けな音をたてて大統領が尻餅をつく。
ボディガードたちが大統領に手を貸すよりも早く、味山が駆けた。
「いただく」
「ひ、ひいっ?!!」
振るわれる刀、殺されると大統領が悲鳴を上げて
「確かに貰った」
味山がかぶりをふるって背を向ける。振るわれた刀、しかし大統領には傷一つなく。
「な、なにが、起きて……」
ボディガードたちが大統領を囲む。
味山は悠々と背中をむけ、そして顔にヒノマルを写した男へと何かを差し出した。
「顔、拭いてください」
「あ、ありがとう…… 味山くん。っ、これは!?」
「拭いてください。総理。それで対等だ。それが平等だ。アンタがそれを使わなければ、ニホンを対等に扱う国はなくなる」
味山が差し出した布。
大統領の胸ポケットに備わっていたポケットチーフ。
星条旗の描かれたそれを差し出した。
あの一瞬、刀は何も斬ることなく、胸ポケットのチーフを掬い掠め取っていた。
「……はは、キミは恐ろしい人間だね、だがありがとう。正直ガラにもなく、ノープランで飛び出してしまってね。顔が、拭きたかったんだ」
総理は一度迷ったように手を止め、そして味山からそのチーフを受け取った。
顔を拭うと、湿った塗料が簡単に落ちる。星条旗に白と赤が混じった。
「ああ、いい生地だ。どうかな、上村くん。綺麗に取れているかい?」
「はい…… きちんと拭けています」
総理が立ち上がる。己の顔に塗り付けられた塗料は綺麗に拭い去られ、いくつもの苦労と屈辱を飲み込んできたシワがれた顔が顕になる。
「さて、味山くん。キミはこのショウの終わりを描いているのかな」
「あ、すんません。割とノリノリで始めたんで畳み方は一切。総理、ここは1つご手腕、拝見したく」
おどけた味山がヘラヘラと笑いながら刀の刃を地面に向ける。
驚くほど冷たい刀身は命を奪うことなく、誇りだけを守った。
「年寄り使いが荒いね。まだまだ我が国は安泰のようだ」
小男が立ち上がる。
一瞬、何かとてつもなく大きなものがみじろぎした、そんな錯覚を味山は覚える。
ざわざわし始める会場。
それは困惑の声。今自分たちが見せられたもの、それがショウではなかったのではないか。
今、まさに見せられているのは世界最大の国の指導者が貶められている事実ではないかーー
これはまさか、ショウではないのではないかーー
混乱が広がろうとして、
ざわつき、そして、気付く。
最大の国のコバンザメ。極東、アジア人の国の長が舞台に立っていることを。
「紳士淑女の皆様、どうか、どうか、拍手を」
静かな声。大統領のカリスマあふれる美声とは違う。
「盛大な拍手を、アラン・ウェイク大統領へ。
ご覧下さいましたでしょうか? 彼の迫真の演技を。憎いヘイト役から、奇抜な道化役、その全てをこなした立役者へ、万雷の拍手を」
しかし、その言葉は届く。
「あ、ああ、全部演出か」
「すごい仕掛けだ…… 」
「最後ほんとに発砲したかと思ったよ」
ざわつきが、次第に安堵の声に変わる。
確かに広がる安堵、自分達が今目の当たりにしたものがエンターテインメントであると認識する人々の中に、しかし数人の闘いに身を置くモノ達は目を見開き、味山を見つめていた。
味山は静かに刀を鞘に戻し、小男、自分の国の総理の小さな背中を見つめる。
「アラン大統領、どうぞこちらへ。本日の主役の言葉を皆さまが待っております」
内蔵マイクから響く声は柔らかく、その中に嫌味や含みといったものは一切感じられない。
その言葉を向けられた大統領の瞳。
恐怖に縮んでいた瞳の中に一瞬で数多くの火が灯る。
怒り、屈辱、憤慨、狂気。
ありとあらゆる感情の昂りは、しかし一瞬で鎮まり消えた。
為政者の瞳、味山は素直に感心する。
「……ああ! ありがとう! シンジ! 皆さま!! 本日のショウ、お楽しみ頂けましたでしょうか? ガン&ソード! 探索者! この時代を駆け抜ける英雄たちの手に握られた刀は、銃という人間の作りたもうた神すらも殺す武器にすら、勝るのです! どうか、拍手を、星が認めたニホンの探索者に!!」
ボディガード達の間を抜け出し、大統領が服装を整えながら多賀総理の隣に並び立つ。
「やってくれたな、シンジ。このタヌキめ」
「はて、なんのことでしょう、大統領」
2人の小さな呟きは、背後に立つ味山にしか聞こえないものだった。
「ショウに協力してくれた私の優秀なボディガード、シークレットサービスの彼らにもどうか皆様、拍手を!! 迫真の演技で盛り上げてくれました!」
状況を理解したらしいボディガード達が瞬時にその場にあわせる。この舞台の上にはプロしかいなかった。
「皆さま、今日をもって世界は変わります。アレタ・アシュフィールドが持ち帰った成果が再び、我々の手に嵐を治めた日と同じように、世界を変えるのです! 今日のこのショウはその前座、皆さまの心に残れば幸いです。ああ、でも、私の喚いてるシーンは忘れて頂いても構いません、次の大統領選で再生されそうだ」
大統領の言葉に、観衆が笑う。その様子はどこか安心したようでもあった。
大統領と総理が2人硬く握手を交わしながら会見は終わる。
高らかに叫ばれるのは合衆国とニホンを称える歓声。
どいつもこいつも酔っている、味山は鞘に入れた刀を、刀置きに静かに戻した。
「助かったよ、先生」
呟きへの返事はない。自分でない存在と身体を共有していた奇妙な感覚はほんの少しの倦怠感に変わるだけ。
カメラフラッシュに背中を向け、味山は静かにみなの注目が、指導者達に向いている隙に舞台の袖に戻る。
「あ」
舞台袖に戻った瞬間、目に映るのは。
ソフィに支えられた上司。
蒼い瞳に今にも溢れそうな涙をたたえた52番目の星の姿だった。
………
……
「いやはや、肝が冷えたよ。上村くん、お疲れ様だったね」
人払いの済んだ部屋。
会見からしばらくしての休憩時間、護衛を外し側近と2人きりの部屋で、多賀が靴下を脱ぎながら呟いた。
「肝が冷えたのはこちらですよ、総理。……全てあなたの筋書き通りですか?」
パリッとした長身の男が頭を抱える。
「何をいうかな、私は、私の国の若者を信じていただけだよ。52番目の星が認めた男が、あの状況で尻込みするわけがないだろう」
ニヤリと笑うその脂の浮いたシワ塗れの顔、よく見るとまだ塗料が残っている。
側近から差し出された手拭いを受け取りそれを拭う。
「……まったく、あなたは……。顔に塗料を塗り付けられるのも計算のうちですか?」
「ああ、あれは驚いた。アランはもうだいぶ酔いに飲まれているね。いや、違うな、バベルの大穴と、アレタ・アシュフィールドの存在が彼を酔わしたと考えるべきか。本来彼は、もう少し思慮深い男だよ」
淡々と呟くその姿、頭は冷静に、先程起きた愉快なショウの話題を口にした。
「しかし、手の込んだショウでしたね。本当に実銃かと思いましたよ、あれも総理の仕込みですか?」
少し笑いながら、上村が問いかける。ハンドロケットは全てこの男達が用意したものだった。
「いいや、違うよ。あれは多分本物だ」
あっけらかんと返ってきた言葉に、上村がぱちり、ぱちり。形の良いまぶたを閉じたり、開いたりした。
「……は? いや、いやいやいや、何をおっしゃっているのですか、総理。奥様に洗濯物を別にするために新しい洗濯機買わされたことがそんなにショックだったのですか?」
「落ち着きなさい、上村くん。あれは確かに世界が割れるようなショックだったが私は正気だ。事実は1つだけ、味山只人は、実銃によって発砲された銃弾を、斬ったんだ」
「は、いや、総理、さすがにそれは、そのあり得ないーー」
「本当にそう思うかな? 上村くん」
その静かに、浸透するような声色に上村は身体を固める。
「は?」
「我々は既に、この世のならざる奇跡を何度も知っているだろう? 52番目の星が見せた雲と水の芸術、いや、そもそもこの現代ダンジョンという存在自体があり得ないものだ。今更、探索者の1人や2人が、銃弾を斬っても、まあそんなこともあるかと受け入れるべきだよ」
「は、はあ……」
なんとなく狐につままれたように、ぽかんとした上村。
「さて、上村くん。君にお願いがある」
しかし、総理の言葉、その温度がわずかに下がったことを敏感に感じとり姿勢を正した。
「はい。なんなりと。総理」
「チヨダ、ゼロ、サクラ、シノビ。全ての公安部秘匿課へ内閣令として通達。探索者、味山只人を、最重要監視対象に認定。バベル島における彼の活動を全て報告するようにしておくれ」
淡々と告げられる言葉。朗らかな雰囲気はもう、ない。
「味山只人を、未確認の深度Ⅲ到達者として仮定。テロ準備罪の運用も考慮するように」
多賀から無機質な、それでいて寒気のするほど冷たい声が聞こえた。
「承知致しました。監視体制の変更基準のご指示を」
「不干渉だ。例え彼が監視中に死亡しても不干渉を貫いておくれ。ああ、彼を監視している他国の連中への干渉も全て禁じる」
「……はい。つまり、手は出さない。護衛ではないということですね」
「その通りだ。例え彼が他国の工作員に連れ去られても、我々は手出しをするな。どこへ連れて行かれたかだけを、追跡出来るように」
端的に伝えられるその指示。その全てに上村はうなずく。
「おそらく近いうちに、委員会による味山只人を対象にした狩りが行われるだろう。それについても監視に止め、不干渉を貫くように」
目の前にいる小男から感じるのは、合理的ではない感覚。
それはきっと、恐怖にも似ていた。
「すぐに通達します。総理、もしよろしければ理由をお聞かせ頂いても」
「ああ、簡単だ。彼の起こす大番狂わせに巻き込まれないようにするためさ。委員会の計画は、アレタ・アシュフィールドが深度Ⅲに到達した時点で9割が完成している。ただ、僕はもう計画が連中の予定通りに進むとはとても思うことはできない、味山只人が生きている限りはね」
多賀は、側近の言葉に素直に返した。煙に巻くことはしない。
その頭の中にあるのは唯一。
己の守る国、ニホンに住まう国民のことだけだ。
「彼は、危険だ。個人的には好ましい人物だが、我々の仕事にとっては最悪の生き物だよ。自分を臆病で、思慮深く、慎重な人間だと勘違いして思い込んでいる化け物だ」
彼の守るべき弱き国民の中に、既に凡人は数えられていなかった。
「……お答え頂き、ありがとうございます」
「苦労かけるね、上村くん。ではそのように、全てはニホン国民、一億人のために」
上村が頭を下げて、部屋の隅、そこに隠されている電子端末を操作し始める。
総理は椅子に座り、伸びっぱなしの足の爪の垢をほじりながら呟いた。
「きっと、君の終わりは酷いモノになるだろう。それが残念でならないよ」
親指の爪の垢、それをつまようじでほじり、床に敷かれた星条旗のチーフの上へ捨てる。
「ごめんね、味山只人くん」
その言葉は、誰にも届かず、そしてなんの役にも立たない言葉だった。
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