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42話 修羅場から逃げよう!

 



「あじやまさーん、味山只人さーん、面会希望の方がいらっしゃっておりま…… あ!! またゲームしてる?! あれだけ1日1時間って言ったのに!」



「ああ、まって!! 待って婦長さん!! まだギリギリ1時間! あともうワンターンだけ!」



「ダメです! これまで一体何人の指導者があとワンターンを繰り返してどれほどの時間を溶かして来たか知っておいでですか!?」



「あれ、婦長さんもしかしてシヴ○知ってんの?! あ、電源切りやがった!?」




 ズカズカと部屋に入ってきた年季の入った看護師がベッドの上に放り投げていたゲーム本体のスイッチを手際よく切る。



「あああ…… 俺の制覇勝利が…… ようやく近代まで進めたのに……」



「いえ、近代の時点でまだこんなに文明が残っているなら恐らく世界会議で吊し上げになると思いますよ」



 看護師が腕を組みながらふむ、と呟く。この人絶対シヴ○知ってんじゃん、味山は素直にコントローラーを手放した。




「はあ、世界征服は明日に持ち越しか…… あ、すみません、えっと、お見舞いですか?」



「はい、味山さんに、もうエレベーターに乗っているらしいのでもうすぐいらっしゃるかと。貴崎……凛さんという方みたいですね、探索者組合を通しての面会希望のようです」




「貴崎……?」



 味山は首を傾げた。アレフチームの誰かかと思えば、ちがう。



「ええ、貴崎凛さん。とても可愛らしい方でしたよ。味山さん、なかなかスミにおけませんね」



「勘弁してくださいよ、そんなんじゃないです。そもそも貴崎はまだ18ですよ? 一回りも歳が離れてるんすから」



「ふふ、そうですか? でもあんなに可愛い子がわざわざお見舞いに来るなんて……  最低でも嫌われてはいないのでは?」



「ま、その辺の立ち回りは気を遣ってますから」



 味山はお菓子の袋をこそこそとゴミ箱に入れながら、看護師の言葉に返事する。




「あ、そうだ。はい、首と手指のチェックしますね、顎を上げてもらってもいいですか?」



「あ、へーい。てか、これチェックいります?」



「何言ってるんですか、味山さんここに運ばれた時にはそれはもう愉快な身体だったんですよ? 首の頸動脈の皮膚が剥がれかけで、指の根本の組織もボロボロだったんですからね。どんな負傷したらそうなるのか未だに見当がつきませんよ」



「あー、エラと水かきか……」



「へ? えら?」



 キョトンしたら看護師に、味山が首を振りなんでもないと告げる。



 微妙な空気が広がる、そして。



[面会希望の方が近くまでいらっしゃいました]



 スピーカーからアナウンスが流れる。


「あら、もう到着されたみたいですね。面会はよろしいですか?」



「ええ、問題ないです。ゴミ片付けておかないと…… 結構、貴崎もうるさいんですよね」



「心配されてるってことはいいことですよ、ではまた血液検査の時に」



「血液検査…… なーんか多くないっすか?」



 味山の問いに看護師は答えない。振り返りぎわにウインクしながら扉を開く。




 いや、ウインクされても。どういう返事のつもり。



 味山は去っていく看護師に眉を潜めながら自分の腕、膝の裏側を見つめる。



 ここに来てから、味山は何度も何度も血液を取られていた。1日大体3回、治療の為と説明されたが、いまいち納得出来ていない。




「献血とかは間隔あけるのによー…… からっからになっちまうよ」



 味山がぼそりと呟いたその時、




「ふふ、あーじやまさんっ!」




「は? うわ!? 貴崎?!」



 長い睫毛、小さな顔、桃のような匂い、色々な情報が一気に味山に飛び込んでくる。



 顔を上げた瞬間、後ろ手を組んでこちらを覗き込む貴崎凛がいた。



「えへ、驚かせちゃいました? 入っちゃいました」



「いや、あんた入っちゃいましたって…… 」



「さっきすれ違った看護師さんがカードキー預けてくれたんです。上級探索者ならいいでしょうって」



「マジかよ、ガバガバだな、ここのセキリュティ」



 カードキーをひらひらさせながら、貴崎が笑う。歳に見合ったポニーテール、長袖のシャツに短いスカート、白い肌に映える黒いニーソックス。



 美少女。味山のチームには美人が2人いるがそれらとはまた違うタイプの美を備えた少女がそこにいた。




「えへ、味山さん、お久しぶりです。元気でしたか?」



「探索で化け物に殺されかけた以外は元気だ。この前組合の酒場で会った以来か。元気にしてたか?」



「はい! 元気でした! 味山さん、全然連絡とかくれないから…… 会いにきちゃいました」



 にへら、と表情を崩す彼女。元チームメイトの高校生の少女は顔をコロコロと変える。



「あ、これ! お土産のハニーバーの詰め合わせです! 味山さん、お好きですよね」



 がさり。貴崎が手に持った紙袋を開く。サングラスをかけたハチのキャラクターが印字された包装紙、味山の好物のプロテインバーだ。




「うお、詰め合わせセット…… すまん、貴崎。本当に助かる。ありがとう」




「いえいえー!! 手ぶらで来るのもなんですし、私、今年は出来る女を目指しているので!」



 むふん、貴崎が腰に手を当てて胸を張る。意外に豊満なそれが、強調される。



 味山が窓の外を確認するフリをして、それから目を逸らした。



「ふふ。えっと、すみません。私座ってもいいですか?」



「おお、悪い。適当に座ってくれ」



 味山がベッドの対面に置いてある面会者用の椅子を指差す、ふわり、貴崎が体重を感じさせない足取りで動いて。




「はい、失礼します」



 とす。



「ん?」



 桃の香りが鼻をくすぐる。香水由来のものではない。きっとそれは本来の匂い。



 貴崎が、味山の隣、ベッドの上に腰掛けた。ミニスカートがくしゃりと歪み、白いシミ一つない太ももが目に入った。



 肩がギリギリ触れ合わない程度の距離。



「えへ、座っちゃった」



「……貴崎。お前もしかして酔ってる?」



「いーえ! お酒も飲んでないし、ダンジョン侵入から2日は経ってます!ど正気です!ド正気!」



「あ、そうっすか。なんかお前最近キャラ変わったよな?」



 味山は隣に座り、首を傾げる少女を眺めて呟く。つい最近までチームを組んでいた元チームメイト。味山がチームを抜けたのは単純な人間関係のもつれからだった。



 最も、そのもつれと貴崎凛は深く関係しているのだが、もう終わった話だ。特別味山は貴崎に対し、恨んでも惜しんでもいなかった。




「あー、そうかもです! ちょっと色々反省しまして…… 取り繕うのはやめようと思ってこんな感じになりました!」



「ふーん」



「あ! 興味なさそう! 味山さんはもっと私に優しくしたり、デレデレしてくれてもいいいと思うのですが! いちおー私女子高生ですよ! それにこんな事自分で言うのもなんですが、ぶっちゃけモテるんですが!」



「いや、ほら、このご時世だしよ。女子高生と成人男性があまり距離近いと、ほら、コンプライアンスとか、怖いし」



「たーんさーくしゃ!! 私達は自営業の探索者なんですから! そんな勤め人みたいなこと関係ありませんよ!」



 けらけらと笑う貴崎、大きな動作のせいで、心なしかぴちりとしたシャツの胸元が強調される。味山は意図して、それから目を逸らした。



「あ…… ふふ、味山さん、相変わらず紳士ですね」



「俺が紳士なのは当然のことだけど、脈絡な無さすぎて何を言ってんのかが、わからん」



「ふふ! そうですか!」



「そうだ」



 時刻は、16時。面会終了の時間まであと1時間。わずかに傾きかけた日が、部屋を暖かく照らす。




「……そういや貴崎、この前会った時はバタバタしてて言えなかったけどよ、上級探索者になったんだよな? すげえよ、歴代最速だろ? おめでとう」



 味山がなんの気もなしに言葉を紡ぐ。8月の終わり、指定怪物種"ヒョウモンヒトキリカマキリ"の討伐に成功した功績により貴崎凛は、探索者制度が始まって以来、最速で上級探索者へと昇格していた。



「…………」



 あれ、なんで無表情? 味山は話題を間違えたかと少し焦った。



 張り付いたような顔、しかし、にこりと貴崎が笑う。



「ありがとうございます、味山さん。……そうです、私、上級探索者になったんです」



 ぎし。軋むベッド、貴崎が拳一つ分味山に近づく。



「そうだよなあ、すげえなあ。まだ半年…… なんかフレッシュマン制度でお前らの班長してたのがつい最近なのが信じらんねー」



「……そうですね、たくさん、色んな事がありましたもんね。ねえ、味山さん、私、上級探索者になったんです。歴代最速、どの探索者よりも、あのアレタ・アシュフィールドよりも早く上級探索者になりました」



「へ、アシュフィールド?」



 なんで急にあいつの名前が出るんだ? 味山は気付けばかなり近づいて来ていた貴崎を見つめる。




「味山さんはアレタ・アシュフィールドと組んでから危険な目に遭ってばかりです…… 味山さん、ほんと冗談じゃないんで、もう一度私と組みませんか?」



「そんな危険な目に…… あってんな、割と」



 味山は首を捻って思い出す。8月の耳戦、アレフチームとしての仕事、そして今回の撤退戦。今考えてみたら、割と全部綱渡りだ。何かのピースが間違えていたら簡単に死んでいたであろうほどの。



「でしょう!? 味山さん、私ならあなたを危険な目に合わせたりしません。今はまだ頼りないかもしれないけど、ねえ、味山さん、私ともう一度組みましょう。誰にも文句は言わせない。時臣にも誰にも……」



 目、怖。


 どうした、急に。たまにアシュフィールドがキレた時と似たような目をしてやがる。味山が急に訪れてきた元仲間の勧誘にまた首を捻った。



「あー…… 貴崎、別によ、俺なんかにそんな拘らなくても……」



「……やっぱり、ダメですか…… そうですよね、私、一度は結果的に味山さんを見捨ててますもんね」



「いや、違う違う違う、そういう事じゃなくて…… あれだ、チーム抜けたのは俺も立ち回りうまくいかなかったからだし、別にお前が気にする事じゃねーよ」



「じゃあ!」



「あー…… いや、あれだ。……おれ、今割とたのしいんだよ。あいつらと組むようになって、まだ1ヶ月だけど。たしかに側からみたら死にかけてだせえかもしんないけどよ、たのしいんだ。アホみたいな化け物と戦ったり、連中のアホみたいな作戦に付き合うの……多分嫌いじゃねえんだよなあ」



 味山は気づかないうちに目を細めて笑っていた。それを見つめる貴崎の表情にも気付かない。



「……そうですか。まだ、足りないって事ですね」



「え、何が?」



「味山さん、わかりました、あの女と私、現時点ではまだあの女の方が味山さんを引き寄せているわけですか。……味山さん、私、指定探索者になります」



 貴崎がぐいとその豊満な身体を味山に寄せる。一層香る桃の匂いに、味山が少しだけクラッとした。



「お、おお、そうか。目標は高い方がいいよな…… 無理せず頑張ってくれ」



「はい、頑張ります。それで指定探索者になったら味山さんを、補佐探索者に指名しますから。受けてくれますよね?」



「……なあ、貴崎…… 前から聞こうと思ってんだけどよ、お前、なんでそんなに俺を勧誘してくるんだ? ぶっちゃけお前なら勧誘なんかしなくてもチームになりたい奴いくらでもいるよな」



「はい、います。今も別の上級探索者のチームや、指定探索者がいるチームからも引き抜きがかかってます」



 ほら、やっぱり。有能で見た目もいいとか無敵かよ。味山は持たざる者として持てる者を眺めた。



「だから尚更わかんねえ。俺にこだわる理由とかなくね」



 擦り寄ってくる貴崎から、味山が少し離れる。ベッドが軋み、距離が遠くなる瞬間、貴崎の瞳が揺れた気がした。




「…………実家にね……味山さん。実家に古い納屋があるんです」



「あ? 納屋?」



 雪が静かに降り積もるように、貴崎が静かに呟いた。



「はい、納屋です。庭に池があるんですけど、その向こうに昔からずっとある納屋…… 錠前で塞がれて誰も入れないんです」



「お、おお、納屋ね」



 え、何この子。急になんで納屋の話? 味山が貴崎の話に戸惑うも、話は続く。



「ずうっと、その納屋の中身が私気になってたんです。でもお父さんもお母さんも入れてくれなかった。お前は入ったらいけない、でももし、お父さんに試合で一本取れるようになったら納屋の中身を見せてやるって言われたんです」



「あー、貴崎んち確か剣道の道場だったよな。かなり有名なとこの」



「ふふ、覚えててくれたんですね。古いだけですよ。……それで私、中学生の頃にお父さんから一本取れたんです。あの時のお父さんの驚いた顔…… ふふ…… 約束通り納屋の中身は見せてもらいました」



 どこか、うっとりした貴崎の語りを味山は黙って聞く。雰囲気が怖かったのと、話の続きが気になっていた。



「納屋の中には、……とてもとても、古い鎧、それを纏った骸骨が飾られてたんです」



「……死体遺棄事件?」



「ふふ、違いますよ。骨董品……かな? 貴崎の家のご先祖さまらしいです。首だけがないんです。斬首されちゃったから」



 いや、されちゃったからってあんた。JKのする話、これ? 味山がつっかえながらもあいづちをうつ。



「私…… その"納屋の骸骨"をみた瞬間…… 人生観が変わっちゃったんですよ」



「ああ、まあ、そりゃ家にそんな骸骨あったらびびるよね」



「ふふ、びびったよりもとても嬉しかったんです、私。お父さんを打ち負かして、自分が見たいものを見れた。見たいという願いを叶えた。他人を打ち負かした先にある報酬、私はそれをあの時、始めて手に入れた」



 貴崎の瞳が、くりっとしたアーモンド型の瞳が熱を帯びていた。最近見たニセフィールドがしていた目と同じ目だ、味山はのんびりと考えた。




「味山さん、あなたはね、私にとっての"納屋の骸骨"なんです」



「あ、はい」



 どういう事?! これだから最近のガキはわからん! 焦り続ける胸の内とは裏腹に味山は無表情に返事する。



「知りたいんです、見たいんです、味山さんのことをもっと。隣に欲しいんです。あの日、お父さんを打ち負かして骸骨を見たように、邪魔するひとを押し除けてでも、味山さんを見ていたいんです」



「いや、おれに多分骨董的価値はねえよ?」



「ふふ、そういうところ好きですよ。味山さんは他人に寛容ですよね」



「どういう事だ?」



「私がいくら見目が良い女でも、普通こんな話したらドン引きですよ。でも味山さんは違う。そんなあなただから、この話をしたのもあるんです。味山さんって、普通の人だけど、フツウじゃない。なんかその歪なところ、とても私気になるんです」



「ちょ、貴崎、近い近いちかい、条例に引っかかるマジで」



「ここ、バベル島だから関係ないですよ♪」



 貴崎がぐいと味山に身体を密着させる。その距離はゼロ。鍛えられ、しかし女の柔らかさを感じさせる身体がくっつく。



「私は欲しいもの全部欲しいんです。そのためなら戦って勝ちます。覚悟しておいてくださいね、納屋の骸骨さん」



 にっこりと、貴崎が笑った。



 妖しい笑い、だがずるいな。美人がするときちんと形になる。




















「あら、だとしたらそうね。納屋の中身を見るにはまず、超えるべき存在がいるんじゃないの? リン キサキ」




 ぷし。貴崎の顔が味山に近づく直前、ドアが開き不敵な声が響いた。




 長い脚をドアの隅にかけ、背中をあずけながらこちらを流し見する女。



「悪いんだけど、そこの納屋の骸骨には錠前がかけられてるわ。中身を見たいんならまず、所有者の許可を得てくれないと」



「あ、アシュフィールド?」



「ハァイ、タダヒト。大変だったわね、お子さまのお話に付き合うの、退屈だったでしょ」



 アレタ・アシュフィールドがそこにいた。



 いつもと同じ、唇をにやりと吊り上げた不適な微笑みをたたえて。



「……いい趣味していますね、アレタ・アシュフィールド。盗聴ですか? よほど味山さんがご心配なようで」



「あら、当然でしょ? タダヒトはあたしのチームの一員で、あたしの補佐探索者だもの。カンリセキニン……ってやつがあるの。何もないあなたと違ってね」




「ふふ、傲慢…… あなたの国の人ってみんなそうなんですか?」



「国という縛りで個人の特性を決めつける方が傲慢だと思うけど…… あら、ごめんなさい、あなたは傲慢なだけじゃなく強欲でもあるわよね。他人のものばかり欲しがるんだから」



「クスクス、なんのことですか? もし味山さんのことを言ってるなら、そちらのほうが傲慢で強欲、人をモノみたいにいうんですね。おまけに嫉妬深いなんて…… 原罪、とはよく言ったものですね。あ! あなたの国の宗教じゃないですか」



 綺麗な顔をした女が2人、笑顔のままに毒を吐き続ける。



 なにこれ、なんでこうなるの。



 ばちばちと火花が飛び散る錯覚。あれ、なんか股間がひゅんとしてきた。足の裏もおぼつかないし、ザワザワしてる。


 味山はついさっきまで完全にお一人様の時間を楽しんでいたことを忘れた。



 TIPS€ 逃げたほうがいい



 耳に聞こえるヒント、やかましいわ、わかり切ったことをヒントヅラしてんじゃねえ。もう、ここは自分の病室、プライベートな空間ではない。



 バベルの大穴と同じほどに、緊張感を持って行動しなければならない修羅場だ。



「タダヒト」



「味山さん」



「はい」



 唐突にかけられた声、そのどちらにも反応した味山がびくりと背筋を正す。




「ノド、乾いてるでしょ? 下のカフェにでも行ってゆっくりしてきたほうがいいわ」




「味山さん、お腹空いてませんか? 購買のクッキー美味しいんですよ」





「あ、はーい…… じゃあ、ちょっと行ってきまーす……」



 味山は許可が出たのでゆっくりと、なるべく2人の注意を引かないように動こうとして。




 ぐい。



「あ?」



「待っててくださいね、もう予約してますから」



 コツン。


 胸元を、貴崎に引っ張られた。胸の辺り、鎖骨らへんに貴崎のおでこが当たり、離れる。




「にひ」



 ゔぁ。


 やばい。


 味山は反射的に立ち上がり、出口を目指す。アレタの顔が見れない。



 味山が近付くと、アレタが扉から離れる。そのままアレタを背に、味山は出口へと。




「……あの時、待ってたわ。気づいてくれてありがとう」



「え」



 肩にかけられた手。背中、肩甲骨に感じる人間の感触。



 アレタが味山の背中に顔を寄せ、うずめた。



 身長の関係で、アレタがわずかに屈んで行うそれは、側からみたら奇妙な絵であっただろう。



「暖かいのね、タダヒトの背中」



「あ、はい」



 拘束はすぐに解かれる。味山は2人の女の匂いを鼻腔に燻らせたまま、足早に病室から逃げ去った。





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