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1話後編 それは信じられない速度で空を飛び、たまに透明になる




 反射的、同時に味山とグレンは大岩から飛び降りる。




 みるみる近づく地面に倒れこむように着地。よし、足は痛めてない。味山は隣のグレンも着地に成功した事を確認する。





「来た、来た、来た来たあ!!」




「デケエエエエ!! タダ! 見てアレ! マジでかくないすか!」




「大鷲だからな!! そりゃ大きいでしょうよ!」




「ビラおおおおおおおおおおおおおおおん!!」




 味山とグレンが先程まで自分達が座り込んでいた生贄の祭壇を見上げる。




 ハイオオトカゲの死骸を、そのかぎつめで足蹴に、巨大な嘴が雄叫びをあげる。



 巨大、大鷲。




 コンドルをそのまま巨大にした大鷲が味山達の目の前に現れた。



「タダ、今、コイツ急に現れたっすよね?! 近くに来るまで見えもしなかった!!」




「ああ、今の今までわからなかった。コイツ、アタリかもしれねえ! 報告にあった特殊個体だ!あの2人が来るまでここで足止めるぞ!」



 きいん。



 耳鳴りが響き、囁きが聞こえる。









 TIPS€ それは少なくともお前の2倍は強い






「うるせえ、見りゃわかるわ!」






 味山は囁きに唾を吐き捨てた。腰のポケットから筒のようなものを取り出す。瞬時に、その先端を空へと向けた。




「救難信号発射!!」



 手元の紐を思い切り、クラッカーを鳴らすように筒を空に向ける。




 パッシュ。炭酸が抜けるような音が響き、花火の塊のように眩い光がダンジョンの空に伸びた。




 頼む、早く来てくれよ。味山は願いながら信号筒を地面に投げ捨てる。




 代わりに腰のベルトに手を当て、別の道具を取り出した。



 味山の探索に常から備えられている武器。味山へ所持許可の降りている探索者道具。





「おニューの斧だ。こけら落としにゃちょうどいい」





 黒光りする真っ黒なハマグリ刃。ラバー製の持ち手には滑り止めの処理が施されている。怪物の革でこしらえた手袋によく馴染む。





 額に流れる汗を無視して、味山は斧の刃を化け物へと向けた。




「あー、いっつもこうなるんすよねえ! 声紋認証開始! パワーグローブ、セーフティアンロック!」



 片手で持てるサイズの手斧を構える味山の隣でグレンが泣き言とともに叫ぶ。





 左手を前に、右手を引き足を前後。ボクシングにおけるオーソドックススタイルの構えを取るグレン。その拳には奇妙な手袋、メリケンサックと革手袋が歪に混じったようなものが嵌められていた。





「ビョオオオオオオオオオ」



 大鷲がいななく。人など一掴みに潰してしまいそうな巨大なかぎ爪で大きなトカゲの死骸を掴んだ。



 その姿はあまりにも異様。生き物のルールを完全に無視したその大きさに味山の脳は怯える。


 人間としての当たり前の機能、危険を危険として認識しそれを避ける機能。恐怖が味山を生かそうと働く。



 しかし、味山はその化け物に振るうにはあまりに小さい手斧を握りしめて、ヘラヘラ笑った。



 現代ダンジョン、バベルの大穴。この場所は人を酔わせる。理性を薄く、恐怖を溶かし、人を探索者に変えて行く。



 生命の価値が軽い、あまりにも。軽い生命を以って命を狩り、大穴を進む。それが彼らの仕事だ。



「アシュフィールド達が来るまでどれくらいかかると思う? グレン」


「3分はかかるっすよ、あの2人は遊撃で動いてましたからね。マジこの作戦ガバガバじゃないすか。囮にすんなら近くにいろよ」



「まあ、ポジティブに考えて信頼の証と思い込もうぜ。俺たちなら時間を稼げるだろ的な」



 軽口を2人が叩き合う。


 理の外にいる生命、現代兵器を携えていようと生命の保証はない危険を前に、ただの手斧と変な手袋を装備しただけの2人は割と呑気に笑っていた。



 笑い、笑ってそして。



「始めるか」


「そっすね」




「ビョオオオオオオオオオ!!」



 大鷲がその翼を広げる。威嚇、はためく大きな翼。小石や砂が強風に煽られ、飛び散る。




「キミに決めた、生贄大作戦、フェーズ2」



 味山がパーカーのポケットから小さなボタンを取り出す。筒状の機械についた赤いボタンに親指を乗せた。



「トカゲトリモチ爆弾、相手の翼は死ぬ」



 パチリ。



 ボタンを押す。


 瞬間、予定通りの現象が起きた。



 破裂音、飛び散る青い血と肉片、そして大鷲の悲鳴。



「ビョオオオオオオオ?!!」



「もっと注意深く周りを観察するべきだな、化け物」



 破裂したのはハイオオトカゲの死骸。




大鷲が掴んでいたその死骸にはあらかじめ味山達が仕掛けを施していた。



 特殊な火薬で作られた小型爆弾と、バベルの大穴で採取できるダンジョン産の植物、粘着性の強い自生トリモチ草の種を数キロほど。




 破裂した肉片に混じり、衝撃によって固まるトリモチが大鷲の翼を固めていた。




「ビャア!! ああああ?!」




 爆弾の破片と衝撃が大鷲の肉を削り、弾け飛んだトリモチが翼の動きを止める。



 青い血を流しながら、大鷲がもがき続ける。



「おし、作戦通り。クラーク大先生の段取りはヤバイな。足場がまったく崩れていねえ」




「怪物の生態調査で生け捕りとかよくやってるすからねー、センセイは生来の陰気さと狡猾さに加えて馬鹿みたいにアタマも切れますからねー、光と闇が混ざって最強っすよ」




「それ闇と闇じゃね?」



 ズシン。




 味山とグレンが軽口を叩き合う中、大岩から大鷲が飛び降りる。


 翼は先端が折れ曲がり、真白な餅のようなトリモチが羽毛に絡みこびりついている。すぐには飛び立てない筈だ。




「ビオ! ビオ!! びおおお!」




 それでも大鷲はその黄色い嘴を開き、茶色の羽毛を逆立てながら叫ぶ。




 ダメージを食らっているようには見えない。ここからが命がけの殺し合いだ。




 手札を確認しろ、翼は今のところ封じた。一番厄介な空からの一撃離脱はとりあえず問題ねえ。嘴、かぎ爪、健在。注意。




 味山はこの探索に出向く前に探索者端末で確認した怪物種25号のデータを反芻する。




 一番の脅威、大鷲による探索者の死亡率の8割を占める空からの強襲は封じた。なら次はーー



「グレン!! 嘴だ!!」



「ビオ!」






 飛べずとも鳥は跳ぶ。



 鳥類独特の辺りをキョロキョロ見回す動作からノーモーションで大鷲がぴょいとジャンプした。



 彼我の距離は10メートル以上あった。しかしその距離は一瞬で詰められる。あっけなく味山達の死線は超えられた。




 無機質、無表情。哺乳類である以上その瞳に見つめられると反射的に身体が竦む。決められた生物としての格の違い。




「あっーー」



 その嘴がグレンへと振り下ろされる。



 動けなーー




「部位破壊報酬は、俺のモンっすよ!」




 嘴が槌のように振り下ろされると同時、ヒラリと当然のようにグレンが捕食者の一撃を躱す。





 荒地の地面に嘴が柱のように食い込む。



 そのまま返す刀の勢いで、グレンが拳を化け物の嘴めがけてぶち込んだ。


 きん。




 透き通った金属音が響く。


 手袋に内蔵されたマニュピレータと共鳴ホタテの音袋の作動音だ。




「びえええええ?!」



 硬質なものが決定的に砕ける音、人間の拳が化け物の嘴にヒビを入れていた。




「やっほう!! もう1発!」



 グレンが2発目の拳を振りかぶった段階でようやく味山は動き出す。




 彼はグレンとは違う。恵まれた反射神経、人間離れした膂力、それらは持っていない。



 味山 只人は、只の人間、凡人だ。


 しかし、それでも自分の出来ることは知っていた。




「ナイス! グレン」



 地面を蹴り、大鷲の側面へと移動。ポケットから再び何かを取り出す。真っ赤な色をした野球ボールサイズの球だ。



 それを思い切り、化け物のアタマめがけて投げ抜けた。



「び、びおおおおおおおお?!!」



 嘴を砕かれた時よりも大きな悲鳴。味山の投げた球は大鷲の顔面に当たり潰れた。




 真っ赤な液体が漏れ出し、鼻をつく匂いが味山にまで届く。



「スコヴィル値2000000のバベロイナ・リーパーハバネロの濃縮液だ。味わってくれよ、高いんだから」



 悲鳴をあげもんどりを打つ大鷲。1つ1万円で怪物に隙を作れるのなら、払う価値はある。




 そう、隙はある、しかしそのもがく動作の一つ一つが味山にとっては避けることすら難しい攻撃となる。





 鋭きかぎ爪は致命傷になる、猛き嘴は致命傷になる。味山はグレンや、他の特別な探索者のようにそれらを確実に己の能力で捌けない。


 ならば、どうするか。



 答えがこれだ。



「脚よこせ」





 ためらいなく、殺す。金を使い、道具を利用する。酔いに身を任せ、命を危険に差し出す。


 それらを全てこなしてようやく味山は怪物に迫れる。



 グレンとハバネロボールのお陰で完全に大鷲からの意識は外れていた。



「ふっ!!」



 手斧を両手で握り込み、スイングする。



「びっ?!」



 大木に刃を入れ込んだ時と同じ感覚。ダンジョンで取れる金属と怪物の血を混ぜ合わせた柔軟で鋭い刃が、大鷲の脚に食い込んだ。



「うおっ!」



 電柱のような脚に斧を食い込ませた瞬間、味山は刃を引き抜き転がりながら大鷲の足元を抜ける。



「びおおおお!!」



 暴れる大鷲の攻撃をかいくぐり、態勢を整える。心臓が熱い、斧の柄を握る手のひらの皮膚も熱い。



「タダ! 合わせて!!」



「あいよ、グレン」




 暴れる大鷲の注目はグレンへと集められている。化け物は味山よりもグレンを脅威と認めたらしい。




「オレが引きつけるす!! タダはチクチクやってくれ!」


「地味な作業は得意だ、任せろ!」





 グレンが大鷲の正面に立ち、まともに相対する。上級探索者として認められた才能を遺憾なく発揮し、二階建てほどのサイズのある大鷲に殺されない程度に戦う。



 味山はその隙を突きながら、時にハバネロボールを目に投げつけ、時に命がけの脚への一撃離脱を試みる。



 青い血がダンジョンに染み込む。



 怪物の一番の強みは封じ、ある種のパターンに入っていた。



 このまま続ければ殺せる。


 味山が4度目の最接近を果たそうとしたその時、



「あ?」


「え?」




 突然、異変は起こる。



 大鷲の輪郭が歪んだかと思うと、そのままスウっと風景に溶けていくようにその姿がかき消えた。



「は? 消えた?」


「いやいやいや、なんだそれ」





 一瞬の出来事に2人は足を止めた。


 周りを見回してもどこにもいない、あれだけ巨大な身体が一瞬で消えて。







 TIPS€ 敵怪物種の透明化を確認





 頭の中で、アレの声が響いた。




「あっ…… グレン!! 避けろ!!」



「へーー、ゲブッ?!!」




 瞬間、グレン・ウォーカーが地面に仰向けに倒れた。自ら倒れたのではなく何かに押しつぶされるように。



 その証拠にグレンが倒れ伏した地面は奇妙な形に凹んでいる。鳥の足の形に。




「ガッーー、ああああ?! ゲふっ、、こ、こいつ、まさか?!」




「透明?! クソ!」



 見えない何かに拘束されているように地面に倒れるグレン、味山には見えないが瞬時に状況は理解した。




 踏み潰されている、透明になって姿を消した大鷲の化け物に。



 理屈も仕組みもわからない、分かるのは今起きている現象のみ。




 ギリギリまで分からなかった急襲のネタはこれか。透明になった状態で、空を飛ばれたらまず気づけない。



 怪物種25号が透明になれるなんてデータはない。




 つまり、怪物種の生態における新情報。ついてる、これは組合に高く売れる。




 味山は新たに湧いたモチベーションで焦りを打ち消す。



 頭を働かせろ、今動けるのは俺だけだ。ミスればーー



「アッ、ギギ、ああああああ?! 死ぬ?!」



 仲間が踏み潰されて死ぬ。



 そう理解した瞬間、身体は勝手に動いていた。


 心臓の音がうるさい。脳みそが蠢き、気持ちが悪い。





「力を貸せ」





 何故そんなつぶやきが漏れたのか、自分でもわからない。ただ、この状況はすでに凡人の自分だけの力ではどうすることもできないものと知っていた。




 ならば、どうするか。答えは単純。いつも通り、使えるものはすべて使う。




 たとえそれが、理解することすら危ういものだとしても。






「力を貸せ、()()()





 TIPS€ 部位保持者は"腑分けされた部位"の権能を一部、扱う事が出来る






 身体が熱い。




 血管が焼け落ち、肉と肌が内側から爛れそうなほどの熱が生まれる。




 見えぬ筈の化け物の身体、仲間を踏み潰そうとするその敵の身体めがけて飛び込んだ。




「オオオオオオオオオ」



 手斧を思い切り、握りしめて、振り下ろす。


  衝撃の反動が肘にまで登る。


 透明な化け物、見えぬ筈の片足にそのまま、斧を振り下ろし。




「び、びああああ?!」



 斧が砕け散る音と、肉がへしゃげ骨が潰れる音が同時に響く。地獄でスイカ割りをしたらこんな音がなるんじゃないか。



 理外の一撃。おおよそ人に放てるようなモノではない攻撃を味山は成した。


 味山の手斧と、怪物の片足、それが同時に砕けた。三度切りつけても傷しかつかなかった片脚が、まるで戦車弾の直撃を受けたかのように弾けた。


 頑健なはずの手斧が飴細工のごとくねじ曲がり、刃が歪み砕ける。




「う、嘘オオオオオ?! また砕けた?! え、昨日買ったのに!! 50万もしたのに! まだローン 残ってるのによおおお?!」



「ビオオオオオオオオオオオン?!!」






 味山の悲鳴と、怪物の悲鳴が共鳴しダンジョンに響いた。両方とも失ったものに対する驚愕が叫びとなる。



 味山の身体から何かが抜ける。弾けそうな肉の感覚が収まる。



 虚空から怪物の輪郭が浮かび上がる。片脚を失った衝撃で能力が解けたのだろうか。


 潰れかけの脚を引きずりながら大鷲が味山を睨みつけた。



 なるほど、一定のダメージ、もしくは衝撃を受けた場合は透明が解除されるわけか。


 味山は3年ローン の残ったガラクタを泣く泣く投げ捨て化け物の様子を観察した。



 仲間を殺されそうになるどころか、俺のローンの斧まで……




 許せない。殺す理由が更に増えた。



「……お前、お前だけはここで殺す。お前の羽、お前の嘴、お前のかぎ爪、お前の全てを売り払ってやる」



 酔いが怒りと混じり、更なる酔いを呼ぶ。



 大鷲が、グレンから脚を離し味山に向けて威嚇を向ける。亀裂の入った嘴を開き、潰れかけの脚を引きずりながら。



 満身創痍、しかし、怪物は人間と違いここからが本番。



「げほっ、げほっ! ウエェ、タダ、ナイス。命拾いしたす」



 踏み潰されかけていたグレンが立ち上がり、味山の隣に戻る。


「大丈夫か?」



「耐衝撃ファイバーの戦闘服じゃなかったら死んでたっすよ。ハンマーナメクジを1ヶ月前に狩っててよかった…… あとは筋トレのおかげっすね」



 グレンが懐から小さな注射器を取り出し、流れるように自分の首に刺すのを確認する。




「あー、死にかけたす。透明になれる大鷲、特異個体すね。決まりじゃないすか、タダ?」


 口からこぼれた血をぬぐいながらグレンが味山へと話す。


「ああ、こいつだ。探索者を5名、上級探索者を2名を狩り殺した化け物。そして俺の手斧をぶっ壊したクソは」



 残りの道具を整理する。解体用の探索ナイフが一振り。ハバネロボールが2つ、虎の子の閃光手榴弾が1つ。そして、身体の中に眠る()()()()()の力。




「うー、効く。あー、だいぶ楽になって来た。ヨッシ、タダ、コイツ殺しましょ」



「おう、化け物風情が。人間様の財布を痛めつけた事を後悔させてやる」




「ビョオオオオオオオオオオオオ」



 人間と化け物が互いに相対する。生きるために殺すために、交わらない両者が戦う。




 びき、びき。



 トリモチの拘束が悲鳴をあげた。



「ビョオオオオオオオオオオオオオオオオアオアオオ!! アアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 解放、追い詰められ血を流し、生命の危機を迎えた大鷲が遂に人間の策を破る。



 人の及ばぬ領域、空への切符。大鷲の翼が広がる。




 光景だけ見れば、神々しささえ感じる。過去人間はその鷲の偉容に神を見たことがある。




 だが、ここにその威にひれ伏すような人間はいなかった。



 その翼が動くたびに風が起こる。砂煙から目を守りながら味山はそれでも笑った。




「上等だ、化け物。絶対にお前をカネに変えてやる。死ぬのはお前だ」



 本気になった化け物、酔っ払った凡人。


 生きるための、カネを稼ぐための殺し合いが、始まるーー







 TIPS€ アレフチーム、到着






「あ、やっときた」



 味山が何かに気付いた。同時に殺意がしぼむ。


 刹那の後、空を切る音ともに




「ビ、ビアアアアアア?!!」



 化け物の悲鳴、一際大きい。




 その翼には、黒光りする槍が数本、いつのまにか突き立っていた。後ずさりしながら悲鳴をあげる化け物を見上げて味山は笑った。



 その槍を味山は知っている。




「えっ!! 投げ槍! つー事は! よっしゃあ! 勝ち確ー!」



 グレンもその槍に気づく。それは探索者ならば、いやこの時代に生きる者ならば誰しもが知っている人物の武器。



 味山とグレンの仲間、上司。



 現代ダンジョンの生まれたこの時代に愛され、選ばれた存在。



 探索者の到達点、組合だけでなくその功績から遂に国からも特別な指定を受けた存在。



 指定探索者。世界にまだ50人といない特別たち。


 その中でも最も輝かしい光を放つ、現代の英雄。




 槍の飛んできた方向を味山が確認する。


 人がいた。


 光石の煌めきをそのまま受けで輝くセミロングの金髪、蒼い海を閉じ込めたような碧眼。




 イタズラげに歪む不敵な笑顔。



 2021年、その国の星条旗に星が1つ追加された。プエルトリコ自治区と呼ばれていたその地域は、新たなる州として合衆された。



 2026年、世界から嵐が消えた。嵐を征した1人の人間は合衆国の新たなる星として星条旗にその身を連ねた。



 その功績、世界から嵐を消し去った偉業から合衆国の存在しえない52番目の星として記録された唯一の人間。



「アハッ、ソフィはまだ来てないのね。競争は私の勝ちみたい」



 この場にそぐわないリラックスした声、当然だろう。きっとこの女にはこの状況は昼下がりのティータイムとさして変わらない。



「ハァイ、タダヒト、まだ生きてる?」



 あの日と同じように。待ち合わせに集まるような気軽さで。


「ああ、なんとか生きてる」



 味山は同じく手を振る。



「そう、良かったわ。じゃあタダヒト、仕事の時間ね。援護はよろしくね」




「了解、アシュフィールド」



 英雄が、凡人の元へ到着した。



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