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10話 デート・アフター・スター

 


 彼の顔を見るのがどうしても面白い。


 それに気づいたのはつい最近。



 探索ではいつも必死で真っ赤にしながら強張っている顔も、普段は妙にぬぼーときが抜けていて面白い。


 1人の人間の雰囲気がこんなにも変わるんだから、見ていて飽きない。



 彼から感じる視線も面白い。


 たまに脚を出した服装をすると露骨に視線が増えるのに気付く。なぜだろう、それもあまり嫌じゃない。


 むしろこうして彼と出かける時、あたしは必ずと言っていいほど太ももや脚が露出するパンツルックを選んでる。



 なんでだろ、理由が分からない。



 彼に見てほしいとか? まさか、あたしに露出癖はない、はすだ。



 それとなんでだろ。


 今日、彼とごはんを食べた時、彼が怪物の料理を食べるのが初めてじゃない事がわかった時、なんであんなにイラついたんだろ。



 わけもなく彼に多分、不機嫌をむけてしまった。まあ、彼はあまり気にしていなかったようだけど。




「へんなの」


 1人になった広い部屋、あたしのつぶやきが綺麗な白い壁紙に溶ける。


 さっきまでつぶやきにいちいち反応して、こちらを眺めてくれてた彼はもういない。呆気なく、彼との時間はあっという間に過ぎていった。



 彼のあたしを見つめる瞳が気になる。


 他の人があたしを見るあの目、眩しいものを眺めるようなものとは違う。



 ソフィや他の指定探索者があたしに向ける友好的な優しさや、ライバル心むきだしのものとも違う。



 そして勿論、あたしに集まるあの目、英雄を見つめるあの盲信的なものとも違う。




 アリーシャに昔、言われたことがある。



 お前は誰も届かない塔の上で1人で踊り続けているようだ、と。


 それでいいと思っていた。


 人にはそれぞれ役割がある。あたしの役割はたまたまそれだっただけだ。



 だからあの日、嵐に挑んで、それを制した。


 それが正しく、あたしのやるべきことだと思ったから。



 あたしは、他の誰にも出来ないことをする為に生まれてきた。


 人より多くのものを与えられたあたしは人よりも多くの事を為さなければならない。



 そのことに不満を抱いたことはない。だってそれがあたしのやるべき事だから。それがあたしの役割だから。



 なんで彼の目が、こんなに気になるのだろう。


 彼の目にあたしはどのように映っているのだろう。



 あたしは彼にどんなふうに見られたいのだろう。



 分からない。



 でも



 ーーアシュフィールドが自意識過剰なんじゃね?



「ふふっ、自意識、過剰かあ……」



 彼に言われて、少し笑ってしまう言葉がまた増えた。


 なんでだろうか、SNSや情報媒体、偉い人や沢山の人々はあたしを称える様々な言葉を贈ってくれる。



 それは幾千、幾万、幾億の強く大きな言葉達。



 でも、その言葉のどれを思っても、こんなふうに1人で気色悪い笑顔は出てこない。



 なのに、彼から貰ったほんの少しの小さな言葉を思い出すと、面白い。笑っちゃう。



「ふふ、アジヤマタダヒト。名前まで面白く感じてきちゃった」



 服を脱ぎ捨て、下着姿のまま大きなベッドに身体を投げる。



「タダヒト、身長はそうでもないけど体格はいいからなー。少し狭いかしら」



 そんな独り言を漏らす、それから少し頬が熱くなった。


 あたしは結局新調した意味のなかった下着を外していく。



 アジヤマタダヒト、アジヤマタダヒト。



 数回彼の名前を呟いて、それから目を瞑る。


 起きたら、シャワーを浴びよう。


 それでそのあとは明日の準備。



「やるべき事を、やってしまわないとね」


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