スタート画面
探索者街、宿舎地区。
管理アパート4号。二階、201号室にて。
「ハバネロボールに閃光手榴弾、救難信号クラッカーに、イモータルの希釈注射、ホルダーに入れるモンはこれくらいか?」
真っ赤なカラーボール、黄色いペイントの施されたパイナップル型手榴弾、クラッカー、青白く光る液体の入った針のない注射器。
それぞれをホルスターとホルダー付きのベルトに備えた。
腰を悪くした時につけるハーネスのように幅広のベルトは道具を備えるのに丁度いい。
「よし、忘れモンはない」
少し前まではナップザック派だったが、あれはいざという時道具を置きっぱにしてしまう。思い切って値段は張るが取りこぼしのないベルトを購入した。
ベルトが身体の形に合わせてのびちぢみする。これでもう座っても大丈夫だろう。
うららかな日差しが2Kの部屋に差し込む。あくびを噛み殺しながら味山は机の上においてある端末を手にとった。
「えーと、今回の獲物は…… 怪物種25号、アルゲンタヴィス…… ゲ、"大鷲"かよ。遠目からしか見たことないぞ」
自室の椅子に腰掛け、スマホ型の探索者端末をながめる。今回のターゲットに関する情報が表示されていた。
並べられた情報をボーと眺める。
*怪物種25号 アルゲンタヴィス 通称、大鷲。生息地 第1階層
*体長14メートル、体高5メートル。体重不明。ただし翼を広げた際はこの限りではない。
*食性 肉食。主に灰オオトカゲを好んで食す。個体によっては灰ゴブリンの住処を襲い、幼体を攫う事もある。また1階層の要注意怪物種であるハイイロヘビとは生態系の頂点を争うライバル関係にある。
*細かな生態は不明。地上における鳥類、鷲と姿が酷似していることから卵生であるとの見方が強い。
*急降下し、その強靭な爪で獲物を掴む。知能が高く高高度から獲物を落として、落下死を狙ってくる。
「えーと、怪物種25号は体長14メートル、体高5メートルで、軍用のヘリコプターとほぼ変わらないサイズである…… うわ、アレあんなにでかいのか…… ハバネロボール5つで足りるか?」
男は頭をひねって、それから机の透明なケースを開き真っ赤なカラーボールをあともう1つだけベルトに装着した。
「斧が高かったからなー。節約しておきたいが…… 死んだら元も子もないしなー。んー、経費で落ちるか?」
TIPS€ 大鷲の羽毛は柔軟だ。翼への並大抵の斬撃は通らない
不意に聞こえた空耳、この部屋には味山以外誰もいない。
それなのに耳元へささやきが伝わる。
味山探索者にだけ聴こえるその声を聞き流す。
「なるほど…… もし接近戦になれば足狙いか」
男がぼやきながら端末の画面を眺めつづける。
ピロン。
軽快な音ともに画面の上にメッセージインフォが流れた。
[タダヒトー! 準備できた?]
猫が時計を眺めているスタンプと共に流れてきたメッセージ。味山は端末の時計を確認して
「やべ。もう、こんな時間か! 遅刻しちまう!」
大慌てで傍に置いてある刃にカバーを付けた手斧をホルスターに引っ掛け、味山は自室の出口へと向かう。
玄関においてある軍の横流し市で購入した探索ブーツに履き替え、端末をパーカーのポケットにしまい込む。
ブーブー。返信をしていないせいかさっきから着信の通知が止まらない。
「おっと、ハニーバー!! 忘れるところだった!」
ブーツを履いたまま室内に戻り、箱買いしていた好物の菓子を適当につまみ、ベルトの空きホルダーに放り込む。
これでもう忘れ物はない。
味山は自室を飛び出す。もしかするともう2度と戻れないかも知れない部屋を後にした。
ドアを開く、澄んだ青い空はどこまでも続き、その青の向こうから涼やかな風が吹き渡る。
「もう、秋か」
一瞬、そののどかな光景に足を止め、すぐに自分の置かれた状況を思い出す。
秋空の下、味山は管理宿舎の階段を駆け下り組合への道を急いだ。
昨日見た悪夢のせいで微妙に寝足りないが、それ以外は問題ない。
「よし、がんばろ」
味山はニホン人街の石畳を駆ける。組合本部まで走って5分ほど。集合時間は9時半、ダンジョン侵入開始は10時半。
間に合うと言えば、間に合うか。
鳴り続ける着信の知らせはまだ、止んでいなかった。
大変お待たせ致しました!
凡人探索者の現代ダンジョンライフを是非お楽しみください。