14. 慰労会
「慰労会ですか?」
「うん、そう。4年おきに兵達のために慰労会をしているんだ」
アイリスがお茶を入れてセフィロスの隣に座ると、ルナがにこやかに話を持ちかける。
今日はアイリスの家に珍しく、セフィロスと一緒にルナもやって来た。何があったのかと思えば、今回の慰労会にアイリスも出席しないか、と言うお誘いだった。
「兵がみんな出払っちゃうといけないから、3組に別れて3日間やるの。下っ端の天使から軍に所属する神まで、無礼講ってやつでみーんなでパァっとね」
ルナの話によると、軍の慰労会はロキとルナの持ち回りで担当していて、今回はルナの番らしい。3組に別れるとはいえ1番下の兵からお偉いさんまでとなると、相当な人数になりそうだ。
アイリスは実は人がワイワイ集まるような所が好きだったりするので、この話はちょっとと言うか、かなり嬉しい。
「兵って言うのはさ、分かると思うけど死と隣り合わせな事も多々あって結構神経すり減るの。だからアイリスの神気でみんなの心を癒して欲しいなぁ、なんて思ってさ」
そういう事なら返事は1つしかない。アイリスは首をコクコクと縦に振る。
「私で良ければいくらでも参加させて頂きます」
「初めてだし、今回は最終日の1日だけお願いしようかと思って。それから当たり前だけど、参加者は軍人が多いから強面の奴が多いけど、みんな良い奴だからさ。当日は私ももちろんいるけど、セフィロスも一緒に来てくれるって」
アイリスがパッとセフィロスの方を見ると頷いた。
「アイリスは高位神の中でも特に姿を見せないし、見かけたとしてもいつもフードを被ってるからさ。顔が見えるのは激レアだから見せ物みたくなっちゃうかもしれないけど、セフィロスが隣にいたらまぁ大丈夫でしょ」
話終わると、ルナがアイリスお手製のカップケーキを物凄い勢いでパクつきはじめた。あっという間にお皿が空になったのでジュノが追加で持ってきてくれた。
「ごめん。早起きして朝ご飯もとい、夜ご飯食べてなくて」
今はちょうど日が沈みはじめた時間だ。夜行性のルナにとっては、早起きしてアイリスの家まで来てくれた事になる。
「詳細が決まったら連絡するよ。さてと、二人の時間を邪魔しちゃ悪いし、私はもう行くねー」
ルナが帰っていくのを見送ると、エレノアがメジャーを手に取りながら満面の笑みを浮かべて仁王立ちしていた。
「さあアイリス様、改めて採寸しておきましょう」
「え、でもパーティー用のドレスはもう持って……」
「アイリス、諦めなさい」
セフィロスにも促されて、エレノアにきっちり採寸された。
*
慰労会の最終日。アイリスはジュノを伴って月の神殿へと足を踏み入れる。
同じく軍を担当しているロキの神殿は物々しく無骨な雰囲気だが、ルナの神殿は白を基調とした建物でこざっぱりとしている。
神殿の主が夜に活動するだけあって神殿内は照明が多く、夜だとは思えないくらい明るい。
月の天使に案内してもらった控え室でセフィロスの到着を待っていると、ノック音が聞こえた。
「アイリス様、お待たせ致しました!」
エレノアが急いで来たのか、ちょっと息を切らせている。
「大丈夫? 」
ジュノがエレノアにお水を差し出すと、一気に飲み干した。
後からセフィロスが入ってくる気配は無い。
「ふー。失礼しました」
「セフィロス様は一緒じゃないの?」
「それがですねぇ、こちらに向かおうとしていた所で、住宅地を巻き込む大規模な土砂崩れが起きたと連絡が入りまして」
「まあ、それは大変ね」
「それで風の病院の方で受け入れ体制を整えたり色々としなければならず。まさかこんな時に、病院のトップのセフィロス様がパーティーに行く訳には行かなくなったので、申し訳ありませんが私が代わりにアイリス様をガードします!!」
「ガードって、ただのパーティーでしょ」
ジュノも隣でうんうんと頷いている。
「ほーぅら、これだからジュノは分かってないわね! やっぱり私だけでも来て正解だったわ」
何だかよく分からないけど、エレノアはただならぬ使命感を持ってやって来たらしい。
セフィロスが来ないのはもの凄く残念だけど、事情が事情なので仕方がない。もとより、今回のパーティーはアイリスが楽しむために来たのではなく、兵たちを慰労する為に来たのだ。気持ちを入れ替えてパーティー会場へと向かった。
ジュノとエレノアの3人で会場に入ると、一気に視線がアイリスの元へと集まる。
神が多く集うようなパーティーには何度も参加しているが、ごく普通の天使達が参加するようなパーティーはこれが初めて。人数も多いし興味津々な様子で見られるのでちょっと恥ずかしくなってきた。
「アイリス、よく来てくれたね」
手を振りながら近づいてきたのは、いつものパンツスタイルではなくドレスアップしたルナだった。スラリと背が高いルナがドレスを着ると、スカートがこんなにも格好よく見えるなんて、と感心してしまう。
「さっきエレノアから聞いたよ。セフィロスが来れなくなっちゃったんだって?」
「はい。でもエレノアが来てくれましたし、今日はめいいっぱい皆様の労を労えるように頑張ります」
普段アイリスは取り立てて役に立てないので、こんな時くらいは少しでも役に立ちたい。今日は神気を抑えないで全開にしている。
「はは、そんなに気張らなくなって居るだけで十分なんだからさ。楽しんでってよ。何かあったら私の所へすぐにおいで」
早速パーティー会場の奥へと進んでいく。見回してみると、想像以上に女性も多い。男女半々近く居るんじゃないだろうか。どう見ても剣や弓なんか握ったことも無さそうなご令嬢もあちこちに居る。