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6.力の神

 3年間の謹慎が解け、久しぶりに花の都へジュノとやって来た。とは言え何か用がある訳でもなく欲しいものもない。ずーんと沈んだ気分のままのアイリスは「気分転換にお出かけしましょう!」と誘われ重い腰を上げた。

 あれから、セフィロスには1度も会っていない。


 花の都は相変わらず絢爛豪華に花々が咲き誇り、虫たちも夏を謳歌してるかのようだ。天使たちに混じってヒラヒラと、蝶が街中を舞っている。


 特段目的もなく、ただプラプラとジュノと一緒に歩いていると後ろから声を掛けられた。


「もしかして、アイリス様ですか」


 振り返ると、栗毛に茶色の瞳を持つ男性が一人立っていた。どこかで見たことがあるような、ないような……。思い出そうと首を傾げていると、男性はニカッと笑って名乗ってきた。


「力の神のダインと言います。数年前、あなたに助けて頂いたのですが」

 

「あっ! ダイン様でしたか。直ぐに気付かず申し訳ありません」


 以前会った時は気が動転していたし、ダインはその時軍服を着ていて今と雰囲気が違っていたので分からなかった。


「ローブのフードを目深に被った2人組がいたら虹の女神だと言う噂は本当だったんですね」


「え? そんな噂があるのですか」


「ええ、有名な話ですよ」


 アイリスは今でも変身が得意ではないので、出掛ける時には必ずローブを着込んで行く。持つ色が目立つからローブを着て行っているハズなのに、そんな噂が出回っていては意味が無くなってしまいそうだ。


「ダイン様は今日は、お仕事はお休みでなのですか」


 軍服ではなく平服を着ているので聞いてみると、ダインはこくんと頷いた。


「俺はルナ様の管轄地に住んでるんですけど、寒いのは苦手で。なんでここまで逃げてきたって訳です」


 ルナの管轄地は5層目の中央。4層目と3層目を境に季節が逆転しているので、下層部は今、冬の真っ只中だ。


「アイリス様はこれからどこかへ行かれる予定で?」


「いえ。特に予定もなく、ただ気晴らしにと街を見て回っていたんです」


「そうですか! それならこれから俺とお茶でもどうですか? ずっと礼がしたいと思っていたんですよ」


「御礼だなんてそんな、私が勝手にした事ですから。でもちょうど休憩したいと思っていた所なので、私でよければ是非一緒にお茶しましょう」


 ダインの案内で店へと一緒に入っていく。一緒に来ていたジュノも同席することを、ダインは快く承諾してくれた。


「この席なら、ローブを脱いでも大丈夫でしょう。流石に店の中までローブを着てたんじゃ邪魔でしょう?」


 わざわざ個室に案内するように頼んでくれたのはその為かと納得する。

 ダインは力の神と言うだけあって、その肉体が鍛え上げられていることが服の上からでも見て取れる。背はそこまで高くは無いのに、ハツラツとした雰囲気のおかげで存在感があし、少々仕草や話し方は荒っぽいものの、好漢と言う言葉がピッタリだ。


「お気遣いありがとうございます」


 御礼を言ってローブを脱ぐと、一瞬、ダインがこちらを見つめて固まった。


「どうかなさいましたか?」


「え゛っ?! あぁ、いえ。噂どおり、綺麗な女神だと思って」


「この髪と目の色、目立ちますよね」


「いや、そう言う事では……」


「失礼致します。御注文はお決まりでしょうか」


 注文を取りに店員がやって来た。アイリスは卵が入っている心配のないフルーツの盛り合わせとエルダーティーを頼む。



「あの後、セフィロス様に随分と怒られたのではないですか」


 ダインが運ばれてきたミントティーに手を付けながら聞いてきた。


「い、いえ、そんな事は……大丈夫です」


 アイリスが答える横で、ジュノが「え?」と言う顔をしてこちらを見てきたが無視する。


「俺も、それからあの時助けて貰った奴も礼の手紙を出したいとは思っていたんですけど、アイリス様への手紙はセフィロス様の検閲が入るのでしょ? なので、余計な事をして益々アイリス様が怒られるような事になるんじゃないかと思って、出せずじまいになってしまって」


 アイリスの家の場所はごく一部の者にしか知られていない。流石に今となっては風の神殿に住んでいない事はバレているが、家の場所は秘密のままだ。

 家の場所が分からなければ手紙を送ることは神鳥を使っても当然出来ないので、アイリスへの手紙はセフィロス宛にもして貰っているのだが、実際には検閲はされていない。


「皆さんによく勘違いされるのですが、セフィロス様は検閲なんてなさいません。いつも未開封のまま渡して下さいますよ」


「そうだったんですか。あいつは随分とあなたに感謝していた……いや、今でもしているんですよ。当時あの天使は5人目の子供が産まれたばかりでね。ますます家族の為に頑張らないとって張り切っていた矢先の事で」


「5人目!それは賑やかそうですね。そう言えばバジリスクは倒せたのですか?」


「ええ、もちろん。あんな危険な魔物が彷徨いていたら当たり一体砂地と化しますよ。実際、そのバジリスクがいた当たりの地面は毒に侵されて死んでしまっていたので、大地の神・テスカ様に蘇らせてもらいました」


「そんなに強力な毒なのですね」


「本来なら弓のような飛び道具で殺すのが妥当な所を、あいつはバジリスクだと気づかずに槍で刺しちまって。毒が槍を伝ってきてやられてしまったんですよ。なんせバジリスクはさしてデカくもないし見た目も普通の蛇のように見えるんで」

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