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3.解毒

「アイリス大丈夫? セフィロス様が天界に帰ってくるまでやっと半分経ったっていう所なのに」


 フローラが呆れ顔でお茶を飲む。


 セフィロスが地上に降りてしまってからと言うもの、いつも以上にフローラやセリオン、ヴィーナスが遊びに来てくれたりお出かけに付き合ってくれたりと、気にかけてくれている。


 今はフローラと2人、アイリスの家から1番近くて大きな街のカフェに入りお茶をしている所だ。


「だ、大丈夫。こうやってフローラとも沢山会えて嬉しいし、セフィロス様とも手紙のやり取りはできるから」


「この前エレノアに会ったけど心配していたわよ」


 みんなが心配してくれているのは分かっているけれど、どうにもこうにも力が出ない。


「10年なんてすぐだから」


 元気の無いアイリスを見てみんなが皆、そう言う。


 でも、アイリスがずっと重い気持ちのままなのはセフィロスに会えないからではない。

 もちろん会えない寂しさはある。ただそれ以上に、次にセフィロスに会う恐ろしさの方が勝っていた。



 他の誰かと番うことを命令されたら。



 それを恐れること自体がおかしいのは分かっている。生涯誰か一人とだけなんて有り得ない。神ならみんなそうだ。

 そして自分は上・上級神という天界で2番目に高い位にある。褒賞として神気を与える行為だって、本来ならする立場にある。

 目の前に座っているフローラだって、すでに子を成せる全ての神との間に子供がいるし、褒賞として指名を受ければ神気を授ける行為もしている。


 セフィロスだって同様に、結婚した後でも指名を受ければ神気を与えている事位は知っている。それがいつ、誰に、かなんて知らないし聞く気もない。

 全く嫌じゃないかと言えば嘘になるかもしれないけれど、やめて欲しいとまでは思わない。


 それが神にとって普通だから。


 頭では理解出来ているのに、いざ自分がとなると……。


 普通じゃない。おかしい。自分が持つこの感情を誰かに相談することも出来ずに悶々としている。


「なんならいっその事、地上まで会いに行っちゃう?」


「えっ?! 流石にそれは……」


 アイリスは地上に降りた事がない。行ってみたいな、とは思いつつまだ実行していない。

 それに会いたいのではなく、どちらかと言うと会いたくないのだ。


「冗談よ。勝手に連れ出したりしたら、わたくしまで怒られるわ」


「そ、そうよね。…………。」


「んもう! そんな辛気臭い顔しないの! わたくしと会うだけじゃそんなに物足りないの??」


「そうじゃなくて……その……」


 チラリとフローラの顔を伺う。こうして一人でウジウジ悩むくらいなら、話だけでも聞いて貰った方が良いかもしれない。


「実はね、次にセフィロス様に会うのが怖くて……」


「怖い? 何かやらかしたの?」


「そうではなくて……。私とセフィロス様の間には子供が出来たでしょ?」


「そうね」


「それと言うのはつまり、次の神との子供を産むってことよね」


「そうね」


「……………」


「なんなの? どういう事? 何か問題があるの??」


「……他の方と番うのが嫌だと言ったら、やっぱりおかしいわよね」


「……………え?」


 フローラがポカンと口を開けて見つめてくる。もう泣きたくなってきた。


「みんなしている事だって言うのは分かっているのよ。でもその……自分がするのは嫌というか怖いというか……」


 この気持ちをどう表現したらいいのか分からない。


「もしかして、それでずっと悩んでいたの?」


 コクンと頷くと、フローラは腕を組んで思案しだした。


「正直、わたくしにはその感覚は分からないわ。だって、誰と番ったって何とも思わないもの。余程ヘタな奴じゃなければね。でも、天使たちは誰と番うかって言うのをものすごく気にするわよね。『寝取る』だとか『不倫』だとか言う表現があるくらいだし。まぁこの場合はされる側じゃなくてする側になるけど。でもアイリスは天使じゃないのは間違いないし」


「やっぱり変よね……私」


「んんーーー。そうねぇ、変わっていると言えばそうだけど。それって単純に、知らないから怖いんじゃないの?」


 アイリスが首を傾げると、フローラが続ける。


「セフィロス様以外の方のお相手をした事がないから不安なんじゃない? 普通は子供ができるまで1人とだけしか番わないなんてことしないのよ。だから誰の子供かは、生まれてきた本人が言うまで分からない訳だけど」


「不安なだけ……」


「って、わたくしは思うけど。出来るかどうか不安だな、怖いなってことも、してみたら意外と何て事なかたってことあるでしょ。今アイリスが悩んでいる事もそんなものよ」


 そう言えば、癒しの力を使えるかどうかを試した時もそうだった。フローラの言う通り、やってみたら意外と出来ることってある。


「そうなのね……。そうよね、うん。なんだかちょっと元気が出たわ」


「なんなら次はセト様にお願いしてみたら? あの方の神気はピリピリするからクセになるって言う人が多いし、やたらと慣れているからアイリスの事も上手くやってくれると思うけど」


 雷の神のセトは女神からだけじゃなく、男神からの指名も多いと聞いた事がある。子供は男女のペアでなければできないが、神気の受け渡しは同性でも出来る。

 1番効率が良いのが男女、次が男同士、そして1番悪いのが女同士。だから必然的に指名する時は異性にお願いする事が多いと言うだけで、好んで同性を指名することもあるらしい。


 ただセトは、女性の方が抱き心地がいいから男は嫌なんだよなぁ。と零していたのを昔、酒の席で聞いた。

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