2.夏の神(2)
セフィロスは1週間まえから地上に降りている。もともとはひと月前から地上に降りる予定がだったのだが、アイリスの出産まではと先延ばしにしてくれていた。
無事に夏の神が生まれ神気の扱いに問題が無いことを確認すると、これ以上先延ばしにすることも出来ず地上に降りていった。
披露目の儀に関することは天界に残っている風の副守護天使長のネリダやエレノア、他数名の風の天使たちがテキパキと準備を整えてくれたので、セリノスや夏の天使たちと1週間ほど楽しく過ごしていただけで、アイリスはほぼ何もしていない。
「10年なんてあっという間よ」
「アイリス様、ご存知ですか? 離れている時間が愛を育むのですよ。たくさん会う時間があるからと言って幸せなのではなく……」
「ああー、また始まったよ。もういいよ、ヴィーナス。何万回も聞いたから」
「んもう、セリオン様。アイリス様にはまだ1度も話したことありませんよ!」
いや、アイリスも記憶にある限り10回以上は聞いた。
「夏の神が生まれて、これでやっと四季の神が揃ったわね」
セリノスが春の女神、秋の女神、冬の神と一緒に談笑している。セフィロスはアイリスの懐妊を知ると、恐らく子供は夏の神だろうと予想していた。
先に生まれていた四季の神は皆セフィロスの子。春の女神はフローラと、秋の女神は山の神であるエトナと、冬の神はセリオンとの子。
「風が季節を運ぶから」
そう、セフィロスは言っていた。
「アイリス様に、次はどんな子供が生まれるのか楽しみですね!」
「そうね。最上級神様達との子だけでも、まだあと3人は生まれるものね。あと上・上級神と中・上級神との子供ってなると結構な人数だわ」
「2人とも気が早いよ。やっと1人目の披露目の儀をしてるって言うんだから」
3人の会話にアイリスは頭が真っ白になる。
「つぎ……の、子……」
なんで今まで気が付かなかったのだろう。
神の子は一組の男女に一人だけ。
生まれて一番初めにアレクシアから教えてもらったことだ。
いずれ自分も色んな男神との子供を生むんだろうと、そう思ったのではないか。
アイリスはセフィロスと結婚の契りを交わしている。でもそれは、天使たちのそれとは違う。
貞操観念も、不倫などと言う概念もない。
主の許可さえあれば、他の神と交わり神気を与える事もあるし、子を成すことも当然ある。
「其方にとっては最初の子で、私にとっては最後の子だな」
セリノスが生まれた時に言っていたその言葉の意味を、今になって気がつく。
「アイリス? どうしたのよ。顔色が悪いみたいだけど」
フローラがパタパタとアイリスの顔に手を振る。
「あ……、えっ、そうかしら。ちょっと気が抜けたみたい」
「そう? それなら向こうで少し休みましょ」
その後の事は覚えていない。
みんなと何を話したのか、セリノスと別れの言葉を何と交わしたのか、どうやって帰ったのか。
アイリスの心から、色が消えた。