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13. パーティー@火の神殿(3)

 小一時間ほど、ロキとバッカスに次々とお酒をつがれながら飲んでいると、セフィロスの様子がおかしくなってきた。

 目がトロンとして、顔がほんのりと赤い。いつものピンと張り詰めるような空気感はどこかへ行き、ホワンと桃色の空気が見えるようだ。



 まずい、コレは……



 セフィロスがアイリスの方を向き両手でその頬を包んだかと思うと突然、口付けをしだした。


 ちゅうーーっという音が聞こえてくるほど濃厚なキスをすると、離した唇から引いた糸をペロりと舐めとる。



「もっと欲しい」


「へ?」


 呆気に取られたままのアイリスを今度はヒョイっと持ち上げて自分の膝にのせると、今度は首すじにキスをしながらドレスのひもを解き始めた。


「え? え? あのっ、セフィロス様??!」


 アイリスはジタバタと必死に抵抗をしているが、ほぼ無意味と言える。性別の違いもあるし、体格差もあり過ぎる。神気を使ったところで当然、セフィロスの方が優位だ。

 とは言え周りのギャラリー達も、最上級神と言うセフィロスの立場上、止めようにも止められない。と言うか、突然始まった美男美女の睦事に鼻血まで垂らしている奴がいる。


 風の天使は何をしているのかと見回すと、エレノアが


「セフィロス様、突然どうしちゃったのぉ?!」


とオロオロしていた。


 (そうか、エレノアは後天守護天使だから知らないのか。)


 普段セフィロスがどんなに飲んでも全く酔わないのは、自身の癒しの力を使っているからで、実際にはお酒にあまり強くない。しかも酔うとやたらと色香を纏って扇情的になってしまうと言う酒癖の悪さだ。

 普段から常にフェロモンを撒き散らしているセトならともかく、堅物で通っている彼のこんな一面を見せられ者たちは、そのギャップにころりとやられてしまう。過去何人が犠牲になった事か。

 しかも本人の記憶には全く残らないと言うから厄介だ。


 それで最上級神達、取り分けセトから「絶対に皆がいる所では酔うな!」とキツく言われているのを聞いたことがある。セトは色気でセフィロスに負けるのがどうにも気に入らないらしい。


 これを知っているのは、ずーっと昔のセフィロスのことを知っているような高位神や守護天使だけ。後天守護天使のエレノアは知らなかったようだ。


 どうしようかとロキの方を見ると、腹を抱えてケタケタと笑っている。その横ではバッカスが


「ロキ様の言っていたことは本当だったんですなぁ」


と感心しながら眺めていた。


 (ダメだこれは。完全に謀られたな。)


 アイリスを助け出す方法を考えていると、フローラはある事を思い出した。


「アイリス! セフィロス様に癒しの力を使うのよ!」


「え? あっ!!」


 何を言われているのか気づいたアイリスは、セフィロスの胸に手を当てる。するとトロンとしていたセフィロスの目が、次第にいつもの精悍さを取り戻していく。


「セフィロス様?」


「……アイリス、其方(みな)の前で何をしているんだ?」


「え??」


 怪訝そうな顔で問われたアイリスは今、セフィロスの上に半裸で馬乗りになっている。

 確かにこの場面だけを切り取って見ると、アイリスがセフィロスを襲っているようにしか見えない。


「ひゃあっ! ごっ、ごめんなさい!!」


 何故かこの瞬間に、アイリスが謝ることになってしまった。フローラは、真っ赤な顔をして涙目になっているアイリスの身だしなみを整えてやる。


「なんだよフローラ、良いとこだったのに」


 ロキが口を尖らせる。


「後で何があったかセフィロス様が聞いたら、殺されますよ」


 大気を操ることができるセフィロスは、ロキに発火させない方法くらい心得ている。

 まぁその逆も然りで、相乗効果でさらに火の効果を強める事も出来るのだけれど。

 どちらにせよ、セフィロスの方がロキより有利にある関係だ。


「コイツが勝手に酔っただけ。俺はただグラスに酒を注いだだけ。だろ?」


 ロキがべぇっと子供のように舌を出してみせる。



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