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11. パーティー@火の神殿 (1)

 ――完敗した。



「何をやっているのかしら、わたくし」


 火の神殿へ向かう馬車の中でフローラはポツリと呟く。


 先月アイリスと出掛けた時、大失態を犯してしまった。一般の天使たちと肩を抱きあいながら飲んだくれた挙句、迎えに来てくれた花の天使に抱き抱えられて城へ連れ戻された。しかも翌日は二日酔いで仕事にならないと言う始末。


 今度こそはと意気込んで、またもやアイリスのペースに流されてしまった。普段は自信なさげにしているくせに、ちょくちょく妙な言動や行動をするから困る。それも堂々と。


 全くもって、理解できない。


 

「フローラ様、着きましたよ」


 花の守護天使長のイオエルが声を掛けてきた。  


 猛獣のように厳つい顔をしたこの男は、アイリスとお茶会をした時に案内をさせた天使だ。

 彼に命を与えてから20億年近く経つが、「自分にはこの髪色は似合わない!」と言って毎日欠かさず自分の頭を剃っている。

 みんなはこのカラフルで珍しい髪色を羨ましがるが、かなり人を選ぶ色でもある。

 猛獣顔にこのメルヘンな髪をくっつけたら、それだけで笑いのタネにされてしまうこと請け合いだ。


「久しぶりのパーティーだからって、この前みたいにはしゃぎ過ぎないで下さいよ。酒は飲んでも?」


「飲まれるな、でしょ。分かっているわよ、もぅっ!」


 今日は天界に戻ってきてから初のパーティーだ。ついテンションが上がってしまうが、先日の事もあり心にブレーキをかける。


 花の門から入り火の門へ出るだけなので、移動する時間はほんの数十分で終わった。馬車から降りると、松明が煌々と燃えているのが目に入る。


 ロキの神殿ではほんのりとした明かりの蝋燭よりも、こうして派手に燃える松明を好んで使っている。煤の掃除が大変だろうに汚れ一つないのは、使用人達の努力の賜物だろう。主の機嫌を損ねないように、日夜努力する使用人達の姿が目に浮かぶ。

 ロキは機嫌が悪くなるとすぐに発火させてしまうのでヒヤヒヤするのだが、分かりやすく単純な性格をしているので、扱い方さえ覚えればむしろ接しやすい神だとも言える。


 会場へと進む途中、あちこちに濃紺色の軍服を着た兵士がいるのが見える。その軍服の襟と袖の折り返し、制帽の腰が赤いのは、ロキの管轄下にいる兵の証。

 ロキは昼の守りを担う軍の最高責任者で、あれで結構、部下から頼りにされているらしい。豪快で面倒見が割といいので親分的存在のようだ。

 ちなみにルナの管轄下にいる兵は、目印の色が黄色になっていて、容易に見分けられるようになっている。


 火の神殿の造りは堅牢でなんだか物々しい雰囲気がするが、ロキの開くパーティーは他の最上級神が開く物よりもずっとカジュアルなのが特徴だ。

 下級の神や守護天使の他、上流階級の一般天使も多く参加するので、普段会わないような神や天使とも話せる言う意味で、結構重要な社交機会と言える。


会場につきロキに挨拶をしようと探していると、自分の名前を呼ぶ者がいる。



「フローラ様」



 この頭の芯がぼうっとするような、独特な声音の持ち主は――。

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